令和6年(ワ)第34626号 名誉毀損損害賠償等請求事件
原告 谷 賢一
被告 株式会社東邦出版
準備書面(8)
令和8年4月8日
東京地方裁判所民事第1部合議2係 御中
[黒塗り]
本書面においては、重要部分の考え方及び各適示事実ごとに整理した真実性に関して、主張・反論する。
第1 重要部分の考え方について
1 はじめに
何が適示事実の重要部分かについては、一般読者の受け止め方等を基準として、最終的に裁判所の判断事項であるが、本件では重要な争点となっているため、念のため意見を述べる。
2 立証対象は、「適示事実」であり「印象」ではないこと
最高裁は「適示された事実が真実であることが証明されたとき」「適示された事実がその重要部分について真実であるか」、すなわち、「適示された事実」の真実性を問題としており、適示事実から置き換えられた「印象」の真実性を問題としていない(甲31・228頁)。
下級審裁判例(東京地判平成20年6月24日、甲32)でも、「『暴力団と深い関係にあること』というのは、個々の論評及び事実適示によって生じる印象に過ぎず、これを全体の適示事実とみることはできない」として、具体的に物語った適示事実が立証対象となると判断している(甲31・227頁)。
最高裁及び各裁判例は、各適示事実で記載されたディテールの差違について、その差違が重要でなければ問題とならないとしているのであって、各適示事実を極度に抽象化・捨象化した内容に置き換えてよいというものではない。
3 重要部分(立証範囲・レベル)は各適示事実の争点により異なること
ア
例えば、そもそも、エピソードの存在自体が争われている場合、当該場面がいつ、どこで、誰がいたかなどの内容を可能な限り特定して、当該場面がそもそもあったかについての立証をも行う。仮にアリバイが成立すれば、エピソード詳細の差異の前に、適示事実の真実性は立証されたといえないであろう。
東京地判平成24年6月12日(乙45)も、発言者が懇親会の場にいたことについては争いがないため、当該会話・発言の内容の趣旨のみが、結果として立証対象となっているにすぎない。
イ
また、各適示事実における内容の差異についても、一般読者の受け止めが異なるとして争点となる場合、その差異が重要部分となりうる。
TBS元記者と女性ジャーナリストの裁判(甲19)でも、女性ジャーナリストが単に酔い潰れたか、レイプドラッグが使用されたかで、読者が受け止める印象が異なり、社会的評価の低下の度合いも異なるものとして争点として立証対象となっている。
東京地判平成29年5月29日(甲33)は、「代表者等の個人的な評価に基づく恣意的な降格人事が行われている」という適示事実が争われた事案で、「降格が恣意的なものであることが問題なのであって、重要な部分も、外形的に降格されたということではなく、それが恣意的なものであるという点にあるべき」と判断された。
ウ
本件でも、大内氏が「おっぱい触っていいよ。どうぞ」といってきたので触ったという原告の主張と、被告が適示した「間もなく自分が標的になった。…肩を揉むように言ってきた。従うと、谷氏は手を伸ばして大内さんの胸を触ってきた。…大内さんが言葉で拒絶しても、谷氏は止めなかった…不快感を押し殺した。」(主張整理表①)とでは、一般読者をして受け止め方及び社会的評価の低下の度合いが異なることは明らかであろう。
本件では、争点となる、かかる表現の差異が重要部分として立証対象となるべきである。
エ
なお、被告は、セクハラ行為を受けた被害者は迎合的な態度を示すこともあるから抗議の有無は重要ではない旨を主張する(第5準備書面5頁)。
しかしながら、セクハラ行為の態様にも軽重のレベルがあるところ、被告は、「標的になった。抗議(言葉で拒絶)をしても止めなかった。不快感を押し殺した」ことを明確に述べており、谷氏の加害性・悪質さを加重させる表現であり、一般読者をして、単に「胸等を触られた」という外形事実のみの描写に比べて、社会的評価が低下することは明らかである。
オ
また、被告は誰から抗議を受けたかは要証事実ではないと主張する(第5準備書面8頁)。
しかし、本件では「大内さんが言葉で拒絶した」と描写しているのであるから、大内氏が抗議したかが争点となるのが当然である。
第2 レイプ行為の有無(主張整理表⑤の真実性)
1 はじめに
本件では、元よりレイプ行為は存在しておらず、①レイプ被害を裏付ける(証明力の高い)証拠はないこと^2、②LINEの一部抜粋のみで全面開示は拒否するなど出るべき証拠が提出できない不自然さ・不合理さがあること、③レイプ被害の核心部分及び背景等について別件訴訟という公的な場で虚偽説明があり信用性がないこと等、真実ではないことは明白である。
2 被告が挙げる「動かし難い事実」は、つまみ食いにすぎないこと
被告は、大内氏のストーリーについて「動かし難い事実」と整合するかどうかを検討すべきとする(第5準備書面7頁)。
しかしながら、被告が挙げる「動かし難い事実」は、原告による反証内容等が含まれておらず、自己に有利な間接事実のつまみ食いにすぎない。すなわち、以下も動かし難い事実であり、大内氏のストーリー及び証言が信用できないことは明らかである。
① 前提主張が複数目撃証言(乙63~65^3)やLINE内容等(甲24[^4])と整合しないこと(準備書面(6)2頁)
これらの証言やLINE内容等は、大内氏の前提主張(原告が劇団主催者の「優越的な地位にあることに乗じて」、「肩を揉むと、胸を揉むように触ってきた。嫌がってもやめなかった」「耐えるしかなかった」(乙7・2~3頁。以下「一方的支配構図」という。)とは一致せず、そもそもの大内氏証言全体の信用性を大きく減殺させる。
② [黒塗り]氏宛のLINE(乙56)をレイプ直後の証拠として詳細な主張をしていたが変遷したこと(甲20^5、甲25^7、準備書面(6)12頁)
③ 被害の時間経過・詳細がデタラメであったこと(準備書面(6)11・12頁)
②と関連するが、時間経過及び被害詳細の当初説明もデタラメであった。大内氏は、自身もGPS記録(乙53)をつけていたばかりか、レイプ被害主張時間帯に[黒塗り]氏とLINEをやり取りしていた(乙55。午前0時5分~午前2時40分)。これらの確認はたやすいことであり、別件訴訟で確信的に虚偽を述べていたといえる。
④ コンビニへの立ち寄り証言と客観証拠とが整合しないこと(準備書面(6)11頁)
[^4]: 「谷さんいないのは寂しいですが、頑張ります」「谷さん谷さん」「谷さんロスなので人手必要であればお手伝いしたいです![黒塗り]さんと[黒塗り]さんがいらっしゃるのであれば私は不必要でしょうか・・・・」「えーめっちゃ広い良いなあ これはデリヘル呼ぶ」「お薬沢山飲んで寝ましょ」「そして早くさいかちゃんと遊んでください」
⑤ レイプ被害から数週間以内に甘えた内容のLINE(甲24^8)を自発的に原告に送信していること(準備書面(6)13頁)及び原告とのやり取りを[黒塗り]氏に隠していたこと(甲27)
なお、8月5日に公演は終了し(甲19)、両者の縁は切れており、大内氏が原告との距離を縮めようとする積極性がうかがえる。
⑥ [黒塗り]氏が証言等の協力をしていないこと(準備書面(6)20頁)
大内氏の悲惨なレイプ被害談を共有し、「パワハラの傷をなめ合っていた関係」(甲2)にある[黒塗り]氏が、証言等の大内氏への協力を一切していない。
別件訴訟の際に、原告代理人が[黒塗り]氏と連絡を取ると「この件に関して、私から何かを話す、証言するということはしないと決めております。どちらかの側に立って発言したり、自分からこの件に関して話をすることはありません」(甲34)と中立・ノーコメントを貫くことを明らかにした。
⑦ 大内氏が提出したLINEは、一部抜粋であり全面開示を拒んでいること(甲21、甲22、甲29。準備書面(6)20頁等)
原告とのLINEやり取り、[黒塗り]氏とのLINEやり取り、本件訴訟での新たなLINE(乙61)も一部の抜粋にすぎない。大内氏の主張・ストーリーが正しければ、全面開示をなんら拒む必要がない。なお、原告は携帯の機種変更により記録が残っていなかった。
⑧ 大内氏「私はあんたらが付き合ってる間に楽しくレイプされてました~~~爆笑」の送信に、[黒塗り]氏「それは俺のせいじゃないとか言いそうじゃね元カレ」と返答したこと(乙61、準備書面(6)22頁)
この文脈においては、元カレがレイプしたと読め、原告以外の第三者にレイプ的行為をされた可能性を推認させる。
⑨ 症状について「仕事がうまくいかず」(甲35、甲9・22頁)と説明していたこと
大内氏は、2022年5月頃から心身不調をきたしてレイプ被害等のフラッシュバック等が生じ、性被害者支援団体の紹介で、精神科クリニックに通院した趣旨を説明している(乙7・11頁、甲2・20頁)。
しかし、病院への問診書(甲35)には、症状は「2022年2月20日」から出始め、きっかけとして「仕事がうまくいかず、プレッシャーに負けたり、みんなの前で上司に責められた」ことと、肝心の性被害等の申告がない。やはり、病院の初回診断において虚偽を述べることは躊躇われたのであろう。
なお、[黒塗り]氏陳述書(乙60)には、レイプ直後の様子として「とても情緒不安定でした。…過呼吸気味になってフロントの裏の休憩場所でぐったりしていた」(3枚目)という記述がある。
この点についても、問診書によると、大内氏は当該時期にメンタルクリニックに通院していたが、レイプ被害ではなく、「[黒塗り]」「[黒塗り]」「[黒塗り]」によるめまい等であったことがうかがえる。
第3 大内氏を標的にして言葉で拒絶しているにも関わらず胸・体を触ったことの有無(主張整理表①の真実性)
1 はじめに
原告が外形的に大内氏の胸・尻等を触ったことについて争いはない。
問題は、前記「第1の3のウ」のとおり、「原告が大内氏を標的にして肩を揉ませて、言葉で拒絶しているにも関わらず、胸等を触った」という加害性・悪質さが際立つ描写が真実か否かである。
実際は、大内氏のほうから「オッパイ触っていいですよ」等の誘いがあったのであり、かかる表現は事実に反する。
2 「オッパイ触っていいですよ」の目撃証言があること
準備書面(6)2頁以下に記載のとおり、3名が、大内氏が「オッパイ触っていいですよ」と積極的に胸を触らせていたことを証言し(乙63、64、65)、原告の主張を裏付ける。
なお、このうち2名([黒塗り]氏、[黒塗り]氏)の陳述書は、別件訴訟で大内氏側から提出されており、信用性は疑いようがない。[黒塗り]氏の陳述書は、原告(谷)側から提出後(乙64)、大内氏側からも出されているが(乙71)、乙64で述べた風景・外形的事実を否定するものではなく、大内氏が「触っていいよ」と言っていたことについて一貫している。
3 [黒塗り]氏の肩揉み等も行っていたこと
大内氏は、原告以外にも[黒塗り]氏に対して肩を揉むなどしており(乙65・2頁)、むしろ原告以上にその近しい関係性が問題になった(乙63・3頁)。
当時、大内氏は[黒塗り]氏との交際関係にあったと推認されるが、事後的にセクハラ等を訴え、「迎合的な態度を取らざるを得なかった」旨主張している点(乙64・7頁。準備書面(6)第4)が、原告との関係性と同様な構図である。
4 原告と大内氏との関係性等について
甲9(別件訴訟準備書面(1)12~16頁、25頁等)、準備書面(6)6頁で述べたとおり、また、裁判所も判断しているとおり、原告と大内氏との外形上の関係性は「両者間のたわいもないやり取りや、大内氏が谷氏に対して好意的であると受け取られる対応を取ったやり取り」(甲21)の中にあったのであり、別件訴訟訴状(乙7・2頁等)や本件記事からうかがえるような、一方的支配構図は事実ではない。
原告は、大内氏に交際相手ができたことをきっかけに以降は胸等を触ることはなかったが(甲24・8枚目=乙8の1。乙69)、もし大内氏が主張するような一方的支配構図であったのであれば、交際相手ができようができまいが触り続けていたであろう。