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GORCH BROTHERS 2.1『MUDLARKS』観劇

毎日ブログを更新するとは言ったが福島のことしか書かないとは言っていない。今日はアフタートーク出演依頼があったので、作:ヴィッキー・ドノヒュー、翻訳:髙田曜子、演出:川名幸宏の『MUDLARKS』を観てきた。めちゃくちゃ面白かったのでご報告します。

アフタートークでも喋ったけれど、これは大傑作と言っていいんじゃないか。俳優3人の演技が余すところなく素晴らしくて、30代の俳優が16か17の少年を演じているんだけれど、これが見える。少年に見える。それも「子供っぽい喋り方をしている」とか「動きが」なんてレベルではなく、目の色で僕はわかった。この子は怒りながら怯えているなとか、この子は本当に目の前が真っ暗なんだろう、ああ、この子は遠い遠い海を見ている。そういうのがわかる。俳優3人は「少年の目線から世界を観る」という難しい仕事を見事にこなしていた。しかも、喧嘩、ドラッグ、非行、貧困、ネグレクト……そういったものにより情緒・感情が乱高下する難しい感情の波を巻き起こし、必死にそれを乗りこなしていた。とてもテクニカルだし、同時に勇気がないとできない演技だ。

演出も見事で、音楽、美術、照明、そういったものの主張が結構強く、見方によっては(人によっては)「ちょっと演出過多」「もう少しあっさりストレートにやってもいいんじゃない」と言いたくなるだろう。僕もそれはわかる。しかしそれぞれの意図は非常に正確だったし、発想も表現も面白かった。かなり台本が難解……と言うか、複雑・高尚・小難しいことは一切言っていないんだけれどあまりにも少年たちの情緒が特殊なので、ついていきづらい本だと思うんだが、演出がちょっと手を添えてくれることで意味や意図が明白になり、見やすくなっていたと思う。たぶん圭史さんとかにやらせたら、地明りだけで突っ走るんじゃないかな。そこは好みだ。川名さんには直接伝えたが転換に当たるシーンがゾッとするほど見事で、それは演出が付け加えたイメージシーンらしいんだけど、あれがあることで戯曲の美しさ、残酷さをぐっと引き上げていたと思う。

そしてやっぱり戯曲がすごいと思うな。あれは書けないよ。追い詰められて路頭に迷い、自己破壊的にどんどんまずい方向へ迷い込んでいく少年たちの心理や言葉を非常にリアルに描いている。アフタートークでも少し話したが、『ケーキの切れない非行少年たち』という本に登場する子供らや、僕が昔の福島や千葉でつるんでいたような田舎のヤンキーたちの荒廃の仕方を思い出させた。闇金ウシジマくんとかにもぶっ壊れた思考・行動の貧困層とかよく出てくるけど、『MUDLARKS』はイギリスのリアルを伝えてくれていたように思う。『リトル・ダンサー』とか『トレインスポッティング』とかああいうイギリス映画の悲しさ、切なさが好きな人は特にハマるんじゃないだろうか。『MUDLARKS』の3人は誰一人クソみたいな現実を抜け出せず、ダンサーにはなれなかった。しかし彼らの心にある美しいものもこの戯曲はちゃんと見せてくれていた。だから結末が余計に悲しい。

同時に、これは、不条理演劇なんだなということも考えた。ベケットやイヨネスコのようにシュールで非現実的なことが起きているわけではないんだけれど、absurd、本当にバカらしい、残酷な、不条理なこと、すなわち人生という舞台の中に閉じ込められた人物たちを描いていた。ヤン・コットという演劇評論家は荒野をさまようリア王は400年前に書かれた不条理劇なのだと言ったが、この『MUDLARKS』も現代の不条理劇だ。おそらく、現実にある不条理劇だ。

10/9まで下北沢ザ・スズナリにて

私事ですが10/16の夜7時くらいから双葉町で飲み会やります! 12月の福島公演へ向けてのオーディションの後です。地元の人、役場の人、新聞の人、その他いろんな人が来てくれそう。来る人はTwitterでもメールでもLINEでも一声下さいませ。

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