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投稿者: 谷 賢一

作家・演出家・翻訳家。1982年、福島県生まれ、千葉県柏市育ち。
http://www.playnote.net/profile/

2年間のこと② 四国お遍路八十八ヶ所参り・後編

前回は町まで徒歩6時間、陸の孤島で事故って動けなくなったところまで話した。レッカー車両が到着すると、松崎しげるくらい顔が黒い、筋肉質のネズミみたいな顔したコワモテのおじさんが降りてきた。

「あ、ダメだね、こりゃ……。なおっかな? やっちまったなーァ……。(僕に向かって)居眠りィ?」

口調は乱暴で見た目だけなら反社か半グレだが、せっせとジャッキを動かしながらパーツを調べてる顔を見てピンと来た。世の中には機械いじりが好きで、人と話すのが苦手な人がいる。「乗せてくれ」と頼んだら、「当たり前だよ! こんなとこ置いかないよ!」と快諾してくれた。

運転席と助手席の間のガラクタをガシャガシャどけて、スペースを作ってくれた。僕はそこにねじ込まれ、黒いオジサンと肩と肩をぶっつけあいながら2時間ほどドライブした。

いろんな話をした。聞けばオヤッサンかなりの苦労人で、東京へ出て腕一本でのし上がり、某大手メーカー公認の修理工場を任されるにまで至った。ところが育てていた社員に裏切られて会社を失い、今は地元へ戻ってやってるらしい。

「いやぁ、東京はもういい。東京はもう」

本当はこの先も聞いたけどそれは書かないでおく。そういえば以前、取材で福島を回っていたときも同じだった。縁もゆかりもない他人にだからこそ喋れることがあるのだ。

そのあと黒いオヤッサンは体中の知恵を振り絞って、僕のお遍路完遂プランを一緒に考えてくれた。

「2週間後に東京に戻っていればいいのね? クルマは10日、いや1週間で直してみせます。なるべく中古でパーツを揃えて、足りないものはNISSANからすぐ取り寄せて……。保険で十分間に合います。でもお客さん、その間アシがないでしょ? ウチ今貸せる代車ないんだけど、作業用のボロの軽なら一台あって。乗ります? そしたらお遍路も間に合う。――カネはいいです、あんなボロ。高知まで出てレンタカー借りてる時間も惜しいでしょ?」

出てきた軽自動車は本当にボロボロのベコベコだったが、中はキレイに掃除されていた。荷物を移し替えながら「なぜそんなによくしてくれるのか」と尋ねたら、黒いオジサンはこう答えた。

「あたし、四国に生まれてまだお遍路してねえんですよ。だから他県から来てやってる人を見ると、ありがたいなって思うの。この辺のモンはみんなそう思うんですよ。お遍路さんは、自分の代わりに回ってくれてるって」

昔トルコでバックパッカーをしていたとき同じような話を聞いた。イスラム教徒の最も大事な教えの一つに「旅人を大事にしろ」というのがある。これはメッカ巡礼が義務であるイスラム教徒がお互いを助け合うために定められた戒律なのだが、同時に経済的な事情で旅に出れない農民なんかに「あなたはメッカに行けなくても、メッカに行く人を助けた。それはメッカに行ったのと同じことですよ」と救いを与えるための工夫らしい。旅人に優しくすれば、メッカにお参りしたのと一緒。

四国の黒いオッサンとトルコのイスラム教徒が似たようなことを言っているのは、極めて深い宗教の深淵だ。

それからそのボロの白い軽自動車は、僕の最高の相棒になった。朝8時から夕方5時まで寺と寺をマラソンして、近所の銭湯で汗を流した。夜は地元のスーパーで魚を買い、駐車場でキャンプ用のバーナーで焼いて米を炊いて食った。ほぼすべての夜を車中泊で過ごした。この生活には一切の嘘がないように思えた。

結局僕はプラン通りに八十八ヶ所巡りを済ませて黒いオジサンのもとへ戻り、ピカピカに直った愛車を回収して帰った。特に感動的な別れはなかったが、オジサンは僕に缶コーヒーを何故か2本くれた。僕は「僕の親父も自動車整備士の資格を持ってて、車の下に潜るのが好きだったんですよ」と話そうかと思ったが、さすがにキザだと思ったので握手だけして別れた。

それから高知市へ立ち寄り、3泊ほど旅館の畳部屋に泊まって狂ったように書き物をしてから帰った。ただしそのときの原稿はイマイチだったのでボツになり、すべてお蔵入りになってしまったけれど。

高知市のこの辺りに泊まっていた
3日間いた 近くに友人がいたが連絡はしなかった

* * *

お遍路で会った猫(一部)

なぜかみんな異常に面構えがよかった

2年間のこと② 四国お遍路八十八ヶ所参り

マラソンと言えば四国にも行った。自分は占いや祈祷の類は一切信じていないけれど、去年からちょうど本厄の年だったし、実際リアルにつらいことが起き続けていた。その頃、急に親父も死んだ。コロナの後遺症で肺がやられていて、あっという間に呼吸が止まり、死に目にも会えなかった。さすがに何かにすがりたい気持ちも出てくる。そこで以前からずっと興味のあったお遍路に行くことにした。

お遍路は歩きで通すと50日くらいかかる。車で回れば10日ちょっとだが、それじゃあんまり味気ない。そこで車とマラソンを組み合わせて行くことにした。一日5つから6つくらいのお寺さんを走って回り、長距離のときだけ車で移動する。最初のお寺でお経の書かれた手ぬぐいとお線香、ローソク、奉納用のお札、あと納経帳という小さな手帳と例の白い羽織りを買って、徳島からスタートした。

コスモスの季節だった

走っているとたまに「頑張ってね!」と応援された。有名人みたいだ。中には手を合わせて拝んでくる人もいた。さすがにおかしいだろう。知らん人が急にお菓子をくれたりもした。不思議に思って調べてみると、お遍路には「同行二人」という考えがあって、どうやら私は一人ではなく弘法大師空海と二人で回っている……ということになってるらしい。気づいたら空海と一緒だった。

ちなみに空海はゴール地点の高野山で今も生きていらっしゃり、毎日2回ご飯も食べている。パスタも食べるしコーヒーも飲むらしい。

すごい文化だ。

自分はひたすらうどんを食べた

新しいお寺に着くと、ローソクとお線香、納め札、それからお経を読んで奉納する。これを本堂と太子堂で計2回やる。それを八十八ヶ所、計176回繰り返す。「宗教の奥義は反復にある」と以前読んだが本当にそうで、だんだん感覚がトランスしてくる。同じ行為の反復の中、行為だけが残り、自分が薄くなって、消えていくような感じがする。

そして計176回読むことになるお経は般若心経で、大体こんな内容だ。

実はこの世には何もない。物質もない。感覚もない。「ない」ということさえ存在しない。死もない。老いもない。苦しみもない。悟りすらない。だから何も心配することはない……。ただこのお経を唱えなさい。ギャーテーギャーテーハーラーギャーテー……。この呪文には意味はない。

すごい文化だ。

天空にある寺

八十八あるお寺はどれも個性豊かで、田んぼの真ん中にあったりコンビニの隣にあったり、はたまた車で50分くらい山道を登った先にあったり、ケーブルカーに乗らないと辿り着けなかったりする。それぞれの場所で空海が龍に会ったとか天女が来たとかユニークな伝説があり、あと驚いたことに宗派すら違っていた。真言宗が多いけれど、臨済宗や天台宗のお寺さんもある。教義が違うのに一緒にやってんだな。

そしてそれぞれのお寺が大事にしている教えや警句を掲示しているのだが、あるお寺のメッセージはこれだった。

無。

もはや教えることすら無い。すごい文化だ。

「自分の悩みがちっぽけに思えた」とよく言うが、それどころの騒ぎではない。悩みそれ自体がないと言われる。どのお寺も数百年は時間が止まっているような静けさで、よく猫とおばあさんがいる。自分は東京で何をやってるんだろうと思う。

* * *

途中トラブルもあった。何もない海岸を1時間近くドライブしていた。ほんの5度くらい左にカーブして、右は山、左は海の、全く変わり映えしない風景がずーっと続く。現実感が失われるくらい風景が変わらず、決して居眠りしていたわけではないのだが、いつの間にか少し車体を左に寄せすぎて縁石に乗り上げた。左のタイヤとシャフトがオシャカになった。

同じ風景がずーっと続く

場所が場所なので、まず携帯の電波が入らない。通りかかる車もない。Googleマップによると隣町まで歩くと6時間かかるらしい。途方に暮れてずっと海を眺めていた。波は低く、風もない。鳥一匹飛んでいない。夢か現実か、もうよくわからない。

10分か15分くらい経って、通りかかった親切な人が電波の入るところまで連れてってくれて、警察とレッカーを呼ぶことができた。ただ「今すぐ行きますが、場所が場所なので、1~2時間かかるかもしれません」と言われてのけぞった。しかも車をレッカーされたら自分は移動手段がない。現場検証を終えた警察の人に「街まで乗せてってもらえませんか」と頼んだら「一般の方はパトカーに乗せてはいけないんです」と言われ、断られてしまった。6時間歩くのか?

(続く)

2年間のこと① 走ること

この2年間演劇を離れて、いろいろなことをやった。15歳のとき鴻上尚史さんの作品で演劇と出会ってから、およそ1日たりとも演劇に触れない日はなかったが、この2年間は全く芝居も観ていない。息子が幼稚園で演じた西遊記の1本だけだ。それは男の子と女の子、悟空が2人いて、金角・銀角も牛魔王もみんな倒さず、歌って踊りながら仲直りし、仲間にしていく話だった。ずっと難しいことばかり考えていたので実に面白かった。「演劇ってこれでいいんだな」と感じた。

鴻上尚史『ピルグリム』確かこんな表紙

SNSを絶ち、普段のアカウントからログアウトすると、演劇の話題は全く聞こえてこなくなった。自分はTVは一切見ないので、コンビニのコピー機の上にミュージカルのポスターが貼られているのをたまに見るのと、TBSラジオのCMで「前川知大新作!」と聞こえてくるのをたまに聞くくらい。私もすっかりフィルターバブルの中にいたらしい。そこから出ると何も聞こえない。アウトリーチや創客というのが難しいはずだとしみじみ感じた。

※フィルターバブル …… ユーザーの趣味嗜好に合わせてネットコンテンツや広告の配信がカスタマイズされるため、自分の興味のあるジャンルの情報しか目に入らなくなること。
※アウトリーチ …… 今ある境界線を越えて、より広く顧客や観客を獲得しようとする努力のこと。
※創客 …… 今すでにいる顧客とは別に、潜在顧客や新規顧客を開拓すること。

勉強もしたし、旅にも出たし、運動もしたし執筆もした。特によく運動をした。生来できれば家でずっと本を読んでいたいような人間なので、みんながなぜ、わざわざ体を動かして苦痛を味わうなんて狂気めいたことをしているのか理解できなかったが、鬱病には運動が極めて効果的だ。動かないと鬱になるし、鬱になると動けなくなる。ウォーキングから始めて、走るようになり、凝り性が爆発して最後にはフルマラソンに挑むことにした。

村上春樹に『走ることについて語るときに僕の語ること』という名著がある。マラソン好きで何十年も欠かさず走り続けているという彼が、「走ること」について書くことを通じて、作家としての生き方、ペースや体調の維持、創作への向き合い方について書いている。もともと好きな本だったけど、毎日10kmずつ走るようになって、ようやく書かれていることがわかった気がした。

氏の本で一番好きという人も多い

走ってみると、走ることは苦痛ではなかった。多摩川の支流の土手を、黙々と走る。夕日が傾いて赤や金に色を変えていく水面や、水鳥の群れを眺めつつ走る。自分は無音に耐えられない性格なので、ずっと歴史のPodCastを聴いていた。アレクサンドロス大王が東征し、菅原道真が島流しに遭い、ロベスピエールがギロチンの露と消えてナポレオンが現れ、ハンナ・アーレントが亡命し『全体主義の起源』を書き上げるのを聴きながら走った。

ブレブレ

家に帰って風呂を浴び、筋トレをしてプロテインを飲む。最近はYouTubeで何でも教えてくれる。きちんとスポーツ科学を学び、自身も優秀なランナーである講師の先生たちが(大抵みなさんもう自分より10も20も年下だ)明るく丁寧に練習メニューの組み立て方や必要な筋トレについて教えてくれる。人間は、基本的に、何かを忘れることはできない。何か別のことに集中することで、一時的に頭から追い出すことができるだけだ。思考や感情は直接コントロールできない。これは演技を教えるとき一番最初に教えることだ。つまり、感情や気分を表現することよりも、行動の中に目的を持つということ。走っている間は目的が明確だから、頭がとてもクリアになる。当初のイメージと全然違った。全然つらくなかった。

3ヶ月ほど走り込み、人生初のフルマラソンは完走した。当初は初挑戦でサブ4、いやもしかしてサブ3.5も?と欲目を出していたが、35kmを過ぎた辺りから膝が全く上がらなくなり、あらゆる関節が激痛を上げた。「最後の10kmは別世界」と聞いてはいたが……! 何とかゴールはしたが、結果は惨敗。目標タイムに届かなかったどころか、それから3日くらいは部屋の中の移動ですらしんどかった。やっぱり結構つらかった。

和解のお知らせ

このたび原告・大内彩加氏より提訴されていた民事訴訟について、裁判所から裁定和解に至る考えが示され、双方合意の上、和解解決に至りましたことをご報告致します。

事実と異なる点についてはこの先名誉毀損の訴えを起こし白黒を明らかにする覚悟でいましたが、今回裁判所から提示された文書により、性行為の強要がなかったこと、その他重要な点において私の主張が受け入れられたと言えることから※1、訴訟の長期化による疲弊も著しいことも鑑み、和解に同意し、裁判を終了することに致しました。

原告とはすでに和解を済ませ、本件についてはもう争いません。当事者間では解決したことをご理解いただき、皆様方も冷静に見守っていただくようお願い致します。私自身は裁判所の判断の通り、原告からの積極的言動(裁判所の言を用いると「迎合的な態度」)があったとしても身体接触はすべきでなかったと反省しています。原告ならびに関係者の皆様に深く謝罪します。

しかし、依然として世間では実際の事実経過を無視して、私が一方的かつ悪質な加害を続けたという名誉毀損が広まってしまっています。これらについては訂正や削除を求めていきますが、自発的に削除、ないし訂正して下さることを希望します※2

私はこの件で福島で準備していた公演を中止された他、向こう2年半分、全く無関係な計7つの公演の脚本や演出の仕事をキャンセルされました。SNSで激しい誹謗中傷を浴び、殺害予告のメールや不審人物による自宅襲撃を受けました。裁判そのものよりそういったネット炎上に最も苦しめられたと言えます。客観的な事実が分からないうちに憶測や噂を広め、仕事や社会での居場所を奪うキャンセルカルチャーについて、改めて疑問を投げかけたいと思います。

そして残されたデジタルタトゥーは簡単には消えません。本件も当初はテレビなどで「演出家によるレイプ」として大きく報道されましたが、こうして疑惑が解消されたことについては同じように広くは扱ってもらえないのではないかと懸念しています。地道に努力し、信頼回復に努めて参りますが、何卒皆様のお力添えを頂ければ幸いです。

書きたいことがたくさんあります。この2年間で考えたことや、やっていたことなど、今後少しずつ発信していきます。最後にあらためまして、公演中止でご迷惑をおかけしたお客様、また私の作品を楽しみにしてくれていた皆様には、再び深く頭を下げ、心からお詫び申し上げます。

そしてこの困難な期間に、私を励まし、支えてくれた貴重な仲間や友人たち、温かい言葉を寄せてくれたお客様方に、心から感謝します。本当にどうもありがとうございました。

令和6年11月27日 谷賢一

〔裁判所による裁定和解に至る考え〕

本件においては、劇団の主催者(被告)による劇団員(原告)に対する行為が不法行為となるかどうかが問題となっている。具体的には、①被告が、原告の胸部や臀部を複数回触ったことに関し、原告の同意があったかどうか、②被告が、原告の意に反し、性行為を強要したかどうかが主たる争点となっている。上記①の点については、原告が迎合的な態度を示すことがあったとしても、劇団の主宰者と劇団員という立場の差に鑑みると、原告の真摯な同意があったとは認め難く、一定の不法行為責任が生じ得る行為であったといえる。一方、上記②の点については、原告の立証に隘路があること、また、行為があったとされる時期に照らすと時効が成立し得ること等の事情を踏まえると、不法行為責任を追及するのは困難といえる。

以上の事実関係の下で、原告と被告の双方が、当審において和解することにより早期に紛争を解決させる道を選択し、本件を教訓としつつ、それぞれの舞台に可及的速やかに復帰し、それぞれの有する能力を最大限に発揮して、我が国の演劇界がこれまで以上に豊かで健全な表現・創作活動を行う場となり、我が国の文化が更に発展することを期待して、以下の条項のとおり合意するのが相当と思料する。


※1 本件では「物的証拠」が存在しないことは当然ですが、「犯行後」の証拠として提出された午前3時11分友人宛LINEにつき、「(被害の)気持ちを吐き出したくなって、シャワーを浴びた後、谷が入って来ないようにとドアを閉めたシャワールームからLINEを送った」(原告第1準備書面49頁)と詳細な説明をしていたのが、GPS記録(午前3時4分に現場到着)により当該時間帯のアリバイが証明されると「犯行前に送ったものだった」(原告第2準備書面10頁)と変遷しました。これら時間や前提などが矛盾した主張について、裁判では原告のストーリーが破綻していると主張してきました。このことを裁判所文書では「原告の立証に隘路がある」(隘路:問題、困難、狭くて通りづらい道)と表現しているのだと考えております。その他、重要な反論を複数展開しております。詳しくは訴訟記録をご覧下さい。

参考
https://www.playnote.net/2024/10/11/1011/

※2 私は当初から訴訟内で主張を尽くすこと、訴訟記録に基づき客観的に判断頂きたい旨を述べてきました。しかし訴訟記録も確認せず、ネットの伝聞やキリトリを拡散するアカウントが多く見られます。度が過ぎるものについては、今後、止むをえず法的措置をとらせて頂くつもりですのでご留意下さい。

10月28日に行われる尋問について

今のところ傍聴券の交付はないようですので、傍聴を希望される方は直接法廷へお越し下さい。人数が増えると座れない可能性もあるので、確実に座りたい方はお早めにお越し下さい。

日時 10月28日(月) 13時半
場所 東京地方裁判所 第803号室
番号 令和4(ワ)第29876号
原告 大内彩加
被告 谷賢一

傍聴券の交付状況は変更される場合があるので、以下のURLから最新情報をご確認下さい。

東京地方裁判所 傍聴券交付情報
https://www.courts.go.jp/app/botyokoufu_jp/list?id=15,18,19,20,21,22,23,24,25

※傍聴券とは……傍聴希望者が特に多い裁判の場合、入手が必要となる。集合時間までに指定された場所に集まり抽選で配布される。

前回の文章を発表した後、とても多くの方から激励や応援のメッセージを頂きました。一つ一つありがたく読ませて頂きましたが、しばらくは個別でのお返事は控えさせていただきます。大変申し訳ありません。まずは裁判内での論戦に専念したいと思います。今しばらく見守って頂けますようお願い申し上げます。


※これまでの経緯は以下の文章をご覧下さい。

谷賢一に対する原告・大内彩加氏による裁判(事件番号 令和4(ワ)第29876号)について お詫びとお知らせhttps://www.playnote.net/2024/10/11/1011/

 

 

 

 

谷賢一に対する原告・大内彩加氏による裁判(事件番号 令和4(ワ)第29876号)について お詫びとお知らせ

ㅤまずはじめにご心配をおかけしている多くの方々に深くお詫びします1。後述する事情から、長らく発言を法廷に限っておりました。10月28日(月)の13時30分より、東京地方裁判所にて、私本人が出廷して尋問が行われます。私の意見を率直に申し上げるつもりですので、ご関心のある方は足をお運び下さい。
ㅤ本件に関する私の主張は以下の通りです。概略ですので詳しくは裁判記録をご覧下さい。

原告は劇団入団当時から「性は世界共通の笑い」「おっぱいどうぞ」「当ててんのよ」など性的な接触を含む言動を稽古場で繰り返しており、これには複数の目撃証言が提出されている。セクハラを強要したなどという事実はない。それらも2021年には当人と謝罪も交えて話し合い、以後根絶している。
また原告により公開されているLINEは一部が恣意的に切り取られている。全体をみれば一方的なやりとりではなく、原告自身が積極的に下ネタを振っていた様子が確認できる。
レイプの訴えは、状況的・身体的にあり得ない。原告は当初、時刻や場所を詳しく述べていたが、当方はGPSログなど客観的証拠を提出し原告の矛盾を指摘した。レイプがあったと原告の主張する時間には、私は現場に到着すらしていないことがGPS記録からも明らかである2

ㅤセクシャル・ハラスメント、ならびにパワー・ハラスメントを根絶していこうという昨今の流れの中で、私自身、かつての己の振る舞いに不適切なことがあったことを率直に認め、お詫びします。「ジョークのつもりだった」「昔は当然だった」ではもはや許されないことがたくさんあります。過去のことでもきちんと反省していかなくてはと思います。
ㅤとはいえこれは、それとは全く違う話です。これは、本当は自分から身体接触をともなう交流を繰り返していた女性が、自身の問題行動が原因でキャスティングを外されたことを根に持って訴えを起こし、絶対不可能なレイプ被害を訴えている裁判です。
ㅤその訴えは私の公演のちょうど前日を狙って、SNSと関係各社への一斉連絡という形で発表されました3。SNSは大炎上し、公演は中止されました。私は強い希死念慮4を感じたため、ネットを絶ち、今も通院治療を続けています。裁判そのものへの反論とは別に、SNSを利用して公演を潰して話題にし、注目を集めるキャンセルカルチャーの手法に、大きな恐怖と怒りを感じています。

ㅤ裁判も終わりが近づいて来ましたので、これからは自分の言葉で発信をしていきたいと思います。ただし上記のような事情からSNSでの応対は当面控えさせて頂きます。取材の依頼があれば合同会社DULL-COLORED POPまでメールにてご連絡下さい。また私自身炎上に苦しみ、なぜSNS炎上がこんなに苦しいのか考え抜いた人間ですので、裁判の上では相手方とは言え、原告に対してもSNS上での過剰な攻撃や個人情報の暴露などをなさらないようお願い申し上げます。

文 谷賢一
合同会社DULL-COLORED POP

1 後述の通り心身の危険を感じ、希死念慮(自殺願望)もあったため、SNSを絶っています。炎上のショックはもちろん、某有名作家による自宅襲撃の示唆や週刊誌の張り込みなどもあって、身の安全を優先しどなたとも連絡をとらずにおりました。ただしその間も私の主張は弁護士を通じて述べており、裁判記録としてまとまっています。誰でも閲覧可能ですので、この期間の沈黙を不審に思う方はご覧になって頂ければと思います。

2 このGPS情報は私のスマホの位置情報と時間をGoogle社のサーバー上に記録したものであり、改ざんは不可能です。原告は書面の中で「終電間際の何時頃、タクシーで原告自宅へ移動し、何時にレイプがあって3時11分にそのつらさを友人へLINEし……」などと詳細に私の「犯行状況」を供述していましたが、GPSによれば私が原告宅へついたのは3:04です。この7分以内に犯行があり、シャワーを済ませて友人にLINEすることができるでしょうか。裁判にてこれらを指摘したところ原告は「記憶違いだった」として時系列をすべて修正しました。しかし5分10分の訂正ではなく数時間に渡る修正であり、「犯行後」に送ったというLINEが、やっぱり「犯行前」だったというのは、どういうことでしょうか。原告の主張するストーリー(終電はまだある時間だったが無理矢理押しかけられ……)の根幹が破綻していることは明らかです。また当時の私は精神科・心療内科に通院しており、性機能不全(勃起できない)の副作用のある向精神薬を常用していました。身体的にも性交は不可能です。

3 調べあげなければわからないような後援団体や地元の有力者にまで一斉に連絡が行っており、組織的・計画的なものを感じます。原告本人も公演を潰す意図があったことを明言しています。私を個人的に訴えることは構いません。しかし公演を巻き添えにするやり方は、一つの公演の重さやありがたさを知っている演劇人にとってはあまりに耐え難いものです。私は今も中止された公演のスタッフ・キャスト全員、また数ヶ月に渡る現地取材や創作環境の整備に協力してくれた多くの方々に、心から申し訳なく、合わせる顔がありません。上演前日の中止ですから現地まで足を運んで下さっていたお客様もいたでしょう。上演できていればとても意義のある作品になったと思います。改めて心からお詫び致します。

4 希死念慮とは精神医学の用語で、簡単に言えば自殺願望です。何もしていなくても常に頭に自殺の考えがちらついてしまい、やがてそのことばかり考えるようになってしまいます。「自殺はいけない」と頭ではわかっているのに、「自殺しかない」と考えてしまう状態です。過ぎ去って見れば病んでいたと気付けるのですが、体験している最中には全くわからず、罪悪感、自責感、劣等感や申し訳なさなどが次々に押し寄せ、自殺以外にこの苦しさから救われる道がないかのように考えてしまいます(これは私の体験に基づく説明ですので、詳しくは医療機関の説明をご参照下さい)。

本日公開された大内彩加さんの文章について

この度は私に関することで大事なお客様、および公演関係者に多大なるご迷惑とご心配をおかけしていることを、まず深くお詫び申し上げます。

本日、大内彩加さんによりインターネット上に発表された文章についてコメントさせて頂きます。彼女の文章は事実無根および悪意のある誇張に満ちており、受け入れられるものではありません。訴状が届いていないため起訴内容については確認できておりませんが、司法の場で争う所存です。

私は自分自身、全く聖人君子ではなく、非常に大きな問題を抱えた人物であると自覚しております。かつては稽古場で怒号を飛ばしたこともありました。性的なハラスメントもあったと反省しています。それらについては時効はありませんから、機会を頂きつつ謝罪や和解を続けていきたいと考えています。しかし忘れもしない2016年、私自身がある演劇現場(劇団外でのプロデュース公演)で年上の俳優やプロデューサーから非常に強いパワーハラスメントを受けた際、私はもちろん、私以上に萎縮してしまっていた座組のメンバーたちの姿を見て、今後はそのような手段に頼らず現場に立つべきだと自覚を強くしました。忘れもしない2016年のことです。

それ以降も社会でハラスメント対応および人権意識が高まる中、周囲の友人・先輩や専門家にも相談し、自身の行いを改めて参りました。彼女と初めて仕事をしたのは2018年です。私が彼女に対し訴えにあるような行いをしたことはございません。「そのつもり」がなくとも相手が不快に思うようなことが起きたり、言ってしまった場合には、その都度冗談にせず謝罪することを心がけてきました。それでも至らぬ点はあったかもしれませんが、その間の私の自分自身をアップデートしようという努力は、座組みを同じくしたスタッフ・俳優たちが証言してくれるものと信じています。またここには書けませんが、彼女に対する強い別の反論と抗議も持ち合わせております。

大内さんや宮地さんとは、今年の夏に一緒にリスペクトトレーニング講習を受けたり、ハラスメント講習を受けた上で、今後劇団としてどのような環境づくりをしていくか対応を協議していました。それも「劇団内で問題が起きたから」というきっかけではなく、演劇界で起きていた様々なハラスメント事件を他人事とせず、劇団として自分たちの対応をアップデートしていくための自発的な動きでした。そんな中、今回このように寝耳に水の形で、公演前日に訴えを起こされたことは大変心外です。これはれっきとした名誉毀損であり、私が今準備している公演遂行のためにも看過することができません。そして何より私自身の名誉のためにも、取り下げて頂くまで戦う覚悟でおります。

あらためましてお客様、および公演関係各位に多大なるご迷惑とご心配をおかけしていることを心よりお詫び申し上げます。

令和4年12月15日 谷賢一

* * *

追記 先ほど現在準備している公演について、主催者判断で初日の上演中止が決定しました。楽しみにしてくれていたお客様には大変申し訳ありません。心からお詫び申し上げます。そして今日のゲネプロまで密度の高い創作をしてくれたスタッフ・俳優一同に対して、言葉もありません。今日のゲネプロ、今、まさに上演すべき、ここでしか上演できない空気がありました。改めて心よりお詫び申し上げます。

追記2 たった今、全公演の中止が決定したとの知らせがありました。訴状すら見ず、司法の判断も待たずにこの決定を下すことは行きすぎたキャンセルカルチャー、私刑と同じであり承服できません。続きは司法の場で争いつつ、私個人として、この社会的風潮に対し抗議の声をあげていこうと考えております。

12/13(火)、場当たり

昨日の疲れがさすがに出て1時間遅く起きる。ハムエッグを焼いて冷凍ごはんをチンして食べる。この辺りではスーパーが8時に閉まるので稽古後に買い物ができない。人口1500人の町では仕方がないことだ。劇場へ入りややこしい電話を何本もかける。芸術のことだけ考えてられるほど私には才能がない。お金のこと、経営のこと、人間関係のこと、様々に、誰かの尾を踏み怒りを買わないように、言葉を選びながら伝えていく。演劇は一人ではできない芸術なのでこういうこともある。場当たりは順調に最後まで進む。夜は音響柳丈陽さんとバカ話をしながら細かい音像をチェックしていく。彼は一種の偏執狂、マニアクスなので話が合う。タフだし賢いので気兼ねなく理想やオーダーを伝えられる。少し元気をもらって家に帰り、またパソコンを叩く。明日はドレスリハーサル、劇場衣裳つき通し稽古だ。

12/12(月)

朝イチに来年の新作の打ち合わせ。初日前なんで時間がなくてと言ったら谷さんの時間にぜんぶ合わせますよと言われてしまい、まんまと濃密に打ち合わせした。できる人と仕事すると自分も一つの引き上げてもらえる。昼前に東谷くんと衣裳の買い出しに行き、ホームセンターで最強の装備を手に入れた。昼から稽古。劇場では仕込みが進んでいる。夜に劇場へ寄ってプランや転換の話をし、帰宅すると夜の11時。そこから大変シビアな打ち合わせが始まる。この国は本当に文化を大事にしない。これではこの地方に希望なんてない。

12/11(日)、滞在製作、ある一日のスケジュール

一般的な毎日のスケジュールです。

朝七時、起床。人によっては海までランニングに行ったり、部屋や庭でヨガをしたり、台詞を練習したり。僕は原稿を書いたり(朝書くと捗る)。8時半くらいに何となくみんなで朝ごはんを食べる。ハムエッグとか、ソーセージエッグとか。安い魚のアラ買ってきてアラ汁食べてたこともあった。

十時、稽古開始。稽古場は劇場をそのまま使わせてもらっている。劇場が稽古場というのは演劇人誰しもが憧れるものだろう。

十一時、稽古。十二時、稽古。十三時も十四時も十五時も……十八時まで稽古。のはずが、今日は勢い余って十九時まで稽古。明日から劇場本仕込みなので最後のダメ出し、細かいところまで俳優たちと話し合う。

二十時までにスーパーに滑り込む。そのスーパーが二十時には閉まってしまうからだ。この辺は原発事故のせいで人口が減ったからコンビニも二十時で閉まったりする。町のヤマザキストアみたいなのじゃなくて、セブンやローソンが二十時で閉まるのです。

帰宅後みんなでご飯。順番にお風呂。僕は24時まで原稿を書いていたが、リビングでは東谷と久留飛くんが同じく24時まで台詞をブツブツやっていた。

そういえばこないだ、いつかの稽古で東谷が、「新作作ってる、って感じがするな」と笑っていた。すごくよくわかる。今回の作品は明らかに『福島三部作』の系譜・系列の作品なのだが、何だか『アクアリウム』とか『くろねこちゃんとベージュねこちゃん』とすごく似ているところがある。ラストなんかはアクアリウムそっくりな気さえする。でも明らかに違うものなので、今までのやり方が通用しない。新しいもの作ってるというとカッコよく聞こえるが、現実には怖い。面倒だし大変だ。でも、やりたくなる。ラストシーン、完璧な完成度でやり切りたいな。

明日も稽古頑張ります。明日は俳優との稽古は5時間半。あとはスタッフと仕込み、明かり作りなど。俳優たちも少し羽根を伸ばしたり、くつろいだりできるといいのだが。

写真は昼飯のなみえ焼そばパン。もう米食ってる暇もない。