年に一度、新国立劇場演劇研修所でシーンスタディの授業を教えている。毎年どの戯曲を題材にするのか大いに悩む。今年も事務局と相談を重ねていくつかの案を出し、最終的に「生徒たちと一緒に発見しながら創る」ことをテーマにソーントン・ワイルダー『わが町』を選んだ。シーンスタディとはシーンを創ることを通じて演技演劇を教えることなので、最初のうちは戯曲の読み方、演技の立ち上げ方など「教えられること」から始まる。この「教えられること」にはセンスも才能も必要ない。技術は教えられる。しかしやがて「本当に面白いシーンになったのか」という壁に行き当たる。ここは「こうやったら必ず面白くなる」という方程式はない。俳優一人一人の個性が違うのだから「こうやればいい」という正解はない。どうしたら面白くなるのか、観客の共感や関心を買えるのか? ここは「教えられないこと」だ。一緒に創ることを通じて考える。それがシーンスタディだと思っている。生徒たちはまだ若くハタチそこそこの者たちばかり。『わが町』は来年3月に上演予定だが初めて上演する戯曲なので僕も不案内だ。僕自身「どうしたら面白くなるのか」という答えのない洞窟の探索を始める。