毎日限界ギリギリまで見たり歩いたりしてるので、日本にいるよりよほど疲れます。
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シンプルに演劇としてクオリティが高い”Medea”
この不機嫌な、挑発的な視線で我々を眺め下ろしているのがAdura Onashile、今回のメディア役だ。これがもう抜群に上手かった。他の俳優も全員良かったんだが。
ウェブサイトにはこんな風な注意書きが。
Medea will be staged with some of the action taking place amongst a standing audience. If you would prefer not to stand for the duration of the show, there are seating options available in the gallery, which can be booked online.
「このお芝居では、立ち見の客席の間でいくつかのアクションが演じられたりするよ!」と書かれている。ははあ、なるほど、イマーシブシアター的な演出があるのかなと思い、もちろん立ち見席を予約した。
確かに客席登場があったり、客席と舞台上での会話があったり、舞台が大きく張り出していて客席の中に食い込んでいたり……といくつかイマーシブ(没入)的な演出はあったんだけど、それほど重点は置かれていなかった。むしろ、そのように客席との垣根を曖昧にすることで、非常に古典的かつ伝統的なギリシャ悲劇のある特徴を現代に再提示していたように思う。
古典的かつ伝統的なギリシャ悲劇のある特徴とは何か? これですよ。
古代ギリシャの劇場では平土間の舞台と客席との距離が非常に近く、観客席が舞台を取り囲んでいた。今回のメディア上演でも客席がまさに舞台・人物を取り囲んでおり、コロスの嘆きが民衆の声を代弁することで、舞台と観客を一体化させることに成功していた。古代ギリシャの演劇は、全員で共有する儀式・神事・お祭りでもあったのだ。
コロスが実にカッコよかったね。モノトーンの、黒っぽい、しかしカジュアルな服装に身を包んだ年齢も体型もバラバラの10人の女性。全て女性で、時にメディアに同情し、特にメディアを諌め、叱咤し、止めようとして怒る。「私たちはみんな女だ」「ここに処女はいない」「みんなセックスに苦しめられてきた」そんな台詞があってゾッとした。何で今メディアなんだろう?と思っていたが、非常に現代的な、完璧な翻案だった。
クレオン役の俳優がめちゃくちゃ重厚で強い存在感を放っており、ジェイソン役の俳優もユーモアと悲劇をどちらも存分に演じきっており、そして何よりメディアが圧巻であった。怒り、嫉妬、惨めさ、愛、迷い、覚悟、狂気、諦念、実に様々な感情を演じなければならない役だが、くるくる変わる表情とその奥に潜むマグマのような感情が透けて見える。圧倒的に目を引く力、パワー、存在力がある。
カーテンコールですごく久々の体験をした。明かりがついて俳優たちが素に戻り、ニッコリと笑ったとき、「え? 演技だったの?」、そんな感じを受けたのだ。同時に「よかった! これはお芝居だったんだ!」という感情も。……俺も素人じゃないんだから、こんな感想持ったの20年ぶりとかな気がするが、それくらい俳優たちの役への没入がすごかった。
それにこのお芝居は20代で見るより40代で見る方がわかるのだろう。20代なんてまだ子供だ。子供を殺すことの意味はまだわからない。僕も子供を持ってみて、子供を殺すことや子供を殺されることがリアルに想像できた。それで余計に感情移入してしまった。逆立ちしたってそんなことできない。メディアを突き動かした精神はいかほどのものだったか。
会場出口にて。”75 years of bringing world cultures together”、「世界中の文化を繋げて75年!」と書かれているが、よく見ると日本の国旗も入ってるじゃないか。嬉しい。
* * *
お芝居じゃないんだけど、”Scotch Whisky Experience”
これは正確にはお芝居でもないしエディンバラフェスでもフリンジフェスでもない。街中にある観光客向けのアトラクションみたいなもので、館内を旅しながらスコッチ・ウィスキーの歴史、作り方、地方ごとの味の違いなんかを学べる。もちろん最後にはテイスティングできる。僕はゴールドコースを選んだので5種類もテイスティングさせてもらった。スコッチウィスキーと一口に言うが、ローランド、ハイランド、スペイサイド、キャンベルタウン、アイラと5つの地方があって全然味が違うんだ!
以前から趣味が欲しい趣味が欲しいと言っていたが、ウイスキー、これは趣味になりそうだ。早速本を買ってしまった。
こういうのを天才って言うんだろう、”Room”
公式ウェブサイトを見てもどういう作品なのかよくわからないのよ。ジェームス・ティエレという振付家?がとにかく新しいショーをやる。「ライブ音楽・ダンス・パントマイムとCuriosities(好奇心・不思議・へんてこ)」の混ぜこぜになった「ジャンル分け不可能、幻覚的スペクタクル体験!」とか書いてあって、よくわからん。トレイラー映像とかを見る限りでは、タンツシアター系のコンテンポラリーダンスか何かだろうって感じ。そういうの大好きなので観に行ったんだが。
「ジャンル分け不可能の幻覚的スペクタクル!」なんてただの煽り文句だと思っていたが、マジだった。小ンテンポラリーダンスと呼ぶには音楽要素が大きすぎるし、演劇と呼ぶには言葉の比重が少なすぎる。パントマイムみたいなシーンもあるし、バンド生演奏で5分くらいずっとショーをやってる時間もあった。メンバー紹介もあった笑。でも、音楽はあくまでピースの一つであり、全体としては……饗宴とか狂騒とか、そんな言葉が浮かんでくる過激なパフォーマンス。
撮影OKだったので撮ってきたんだが、開演前、最初は廃墟のような舞台。打ち捨てられた美術館のようにも見えるし、廃棄された百貨店のようにも見える。そこに銀髪の男が現れて、一人残らずキマった目をしたゴシックホラーみたいな人物たちと大騒動を繰り広げていく。
最初はダンスのように見えてるんだけど、途中からコメディ、コントのようになったり、気がつくとずっと演奏していたり。すごくスタイリッシュな演出なので小ンテンポラリーダンスのように見えているんだが、気がつくとモンティ・パイソンみたいになってる。話の通じない、頭のおかしいお客や執事と噛み合わない話をずっとしていたり。めちゃくちゃな服を着た人たちが一心不乱に謎の儀式をずっとやってたりして、寺山修司を想起したり。ロックコンサートみたいにもなる。
後で知ったんだがこのジェームス・ティエレという男、何とチャップリンの孫だという(笑)。4歳の頃からサーカスに参加し旅回り、ツアー公演に出演し続けていた。なるほど、サーカス! サーカスと言われると非常に腑に落ちる。視覚的に強烈な演出。高さを使った動き。言葉よりむしろ身体で語る技芸。
悪夢のような恐ろしい風景になる瞬間もあるんだが、基本的にずっとみんな笑いながら見ていて楽しい。話の通じない執事はヴィオラ奏者を雇うための面接を設定し、そのヴィオラ奏者は演奏しながらじゃないと喋れないので話が進まない。絶対に繋がらない電話が何度もかかってくる。チェロ奏者は「職業はドラマーです」と言い、ベースギターを弾いたりする。訳がわからないがずっと楽しい。あと、無茶が過ぎる。5mくらいありそうなパネルをじゃんじゃん動かす。猛ダッシュでジャンプして床に転がる。まぁそれくらいは良いとして、ハーネス(安全帯)なしで3〜4mくらいの宙乗りをやったりする。48歳のティエレが右手でロープを握ってるだけの状態で大ジャンプをし、舞台上をぐるぐる旋回する様を見ながら僕は文字通り「あんぐり空いた口が塞がらなかった」。日本だと絶対に認可が降りない演出だ。危ないよ、すごく危ない! ラストシーンでは8m四方はありそうな巨大な正方形のパネルを宙吊りにして天井でぐるぐる回し、下ろしてきて「部屋 Room」を完成させていた。これもすごく危ない!
これは終演後の風景です。
ずっと面白かったんだけど「まだやるのかよ」ってくらい長くて、ちょうど2時間あった。会話劇なら2時間なんて普通だが、ほとんど台詞なし、身体だけのパフォーマンスで2時間を見せるってのは果てしなく長い。普通の公演だったら3本くらいは作れそうなアイディアとビジョンが詰まっていた。やりたいことがあり過ぎて大変なんだろう、この人は。こういうのを天才って言うんだろうな。本当に面白かった。
その他
ハギス美味しかったよ? IRN BRUも美味しかったけど?(どちらも不味いことで有名)
僕の下はよっぽどおめでたくできてるのかもしれないが、まぁそれでいい。なんでも美味しく食べられた方がいいよね。
でも20年前にイギリスにいた頃に比べると、明らかに食事は上手くなってる気がする。20年前は「まともな飯を食べたいと思ったら中華料理かインド料理を食べろ」と言われていた。そして実際、どんな街にも中華料理とインド料理のお店はあるので、ひよった旅行者はイギリスに来てるのになぜかずっと中華料理を食べているなんてことがあった。レストランより冷凍食品の方がマシだとか。全然変わったよね。何食べても美味い。
ちなみにイギリスの料理がまずいと言われているのは産業革命と関係があるそうです。調べると面白いので興味のある人はぜひどうぞ。
みたい!