現在、兵庫県豊岡市・城崎温泉街にある城崎国際アートセンター(KIAC)に滞在して、AIR、Artist in residence、いわゆる滞在製作でして、稽古場もあり施設も充実し温泉も入れるところでコツコツ稽古、やっています。滞在製作を受け入れてくれている城崎の皆様へ感謝を示し、一緒にお芝居を作るために、明日は「プレ公演」、無料の試演会を行います。そのご挨拶文を書いたので、ここにも載せておきます。
DULL-COLORED POP第24回本公演、『丘の上、ねむのき産婦人科』。
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東京を離れ城崎に着いてから約10日、滞在期間もあと5日残っていてまだまだWork in progress(製作途中)のものですが、城崎の皆様と創作を分かち合うためにこうして公開の場を持てることを大変嬉しく思います。
お芝居というのは不思議なもので、観ている人がいると内容が変わります。今回、主に2人組で演じられるエピソードが多いのですが、俳優2人で自主稽古をしているときと、誰か仲間が観ているときでは内容や感触がまるで違うということがよくあります。演出家である僕が観ていると当然空気が違いますし、観ているスタッフの数が増えるだけで別物のようになることもある。「見学です」という人が一人いると急にピリッとしたりするし、「撮影が入ります」となると「カメラを意識しないようにしないとな」と余計なことも考えたりして、ましてやこうして無料とはいえお客さんの視線があると私たちの感じ方も会場に生まれる空気も変わります。私たちはそういう芸術をやっているので、無観客では何一つ完成できないのです。
演劇は観客が作るとよく言います。観ている人の想像力が演劇の足場を組みあげるのです。僕の知り合いのイギリス人の演出家は演劇をサモトラケのニケに例えました。あの古代ギリシャの彫像は頭も腕も取れてしまっているのに世界で最も美しい女神像の一つと言われます。それは見る人の想像力の中で彫像の欠けた部分が補われ、世にも美しい女神像が完成されるからです。僕の恩師は「演劇は観ている人が、その日に観たいと思ったものを観ている」と教えてくれました。仕事で失敗して怒られてから来た人と、失恋した日に来た人とでは、同じ芝居を観ていても観ているものが違うわけです。
まして今回は妊娠・出産・男女をテーマに書きました。観る人の数だけ感想があると思いますから、あなたの目にどのようにこの演劇が映ったか、お帰りの際に教えて頂けると幸いです。難しいことを書く必要も、複雑なことを言う必要もありません。どこが面白かったとか、どこに腹が立ったとか、どこがわからなかったとか、そういうことを教えて下さい。そんな基本的なことでさえ、私たちは違うものを観ているのです。
本作は、知人・友人・ネットで募ったまるで知らない人も含めて、30名弱の男女からエピソードを取材し、再構築して執筆しました。私の創作も入っていますが全くの嘘は書いていません。今回は特に「他者の目から世界がどう見えているのか」ということに興味があって、性別や経験を超えたエピソードを集めて演じています。果たしてどこまで私たちが他者の視点に立てるのか、そんなことをこの上演を通じて考えてみたいと思っています。
まずは城崎の皆様の目にはどう見えたか、何が映ったか、お聞かせ頂ければ幸いです。配布されるQRコードからアフタートーク用の質問・感想などが投稿できるようですからご活用下さいませ。
それでは、最後までごゆっくりお楽しみ下さいませ。
作/演出 DULL-COLORED POP 谷賢一