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不意に訪れた休み

『光より前に』稽古が順調なので、不意に休みが来た。

朝はいつも通り7時半に起きた。1日だけ休みがとれたからと言って生活リズムは崩したくない。しかしこの休日、喉から手が出るほど欲しかった。と言うのも大抵の休日は事前に何かしら予定が入ってしまっていて、休日でありながら休日じゃない、稽古がないだけで稼働日であることが大半だからだ。

今日は正真正銘、休日だ。信じられない言葉だ!

午前中のうちにたっぷりと二度寝もし、溜まっていたメールの返信も片付け、郵便物の仕分けも終え、充実の昼下がり。福島3部作に関する連絡を済ませたり、合同会社DULL-COLORED POPの書類を郵便局で郵送して、とりあえずASAPなTASKはDONEした。駅前の気になっていたつけ麺屋でビューティフルなお昼ご飯も食べ終えて、それでも時刻はまだ1時前。よし。俺は、温泉に行く。

温泉と言っても家から最寄りのスーパー銭湯だ。自転車こいで片道10分、そこそこの距離がある割に、地味でチンケな、どこにでもあるよなスーパー銭湯だ。温泉とか大騒ぎするほどのことじゃない。しかし今日のように、仕事から開放され、人付き合いからも解き放たれて、たった一人で行く自転車道というのは途轍もなく気持ちがいいものだ。なぜ、というわけもなく、ドレスコーズの『スーパー、スーパーサッド』およびアルバム『1』をBGMに選んで小さな旅に出た。ドレスコーズが4人から1人になったときの曲を聞きながら、一人で行く。へいちゃん、このとき、何考えてたんだろうなぁ。今度会ったら聞いてみよう。

『ルソー論』の途中でお風呂についた。しかし俺は、お風呂なんか行っても退屈しちゃうのである。もともとボーッとできない性質なのでね。しかし僕は行儀が悪いので、露天風呂エリアにスマホを持ち込んで、Kindleで読書などしてやった。テレビから流れるミヤネ屋がひたすらにうるさかったが、ただただ本を読むだけの時間というのは最近あまり取れていなかったので心がじわっと蘇る嬉しい時間であった。読みかけの2冊を読み終えてご満悦だ。ただただ楽しい。

やっぱり人に休養は必要なのだ。だってみんな、最近じゃあ週休二日なんだろう、一般企業? こちとら週一の休みもあるかないかで、本番まで1ヶ月稽古し続け、稽古入りまでは徹夜で台本作り続け、最強天然ワーカホリックだからね。休養なんてねぇからさ。嬉しかったよ、このいかにも休養ですというような休養は。ちゃんと「休みだ」と思って休んだのなんて、いつ以来だろう? 『1961年:夜に昇る太陽』が始まる前、5月に一度あったくらいかな。そんときも執筆しつつの福島温泉旅行だったが……。

一時間ほど「温泉」を浴び、店を出た。帰り道もお気に入りのロードバイクでツーリングだ。気持ちがいいったらない。休日ってこんなにいいものなの! みんなこんなに気持ちのいいものを毎週体験しているの! うらやましい! ずるい! わけて! 前カゴとかついてる軟弱なロードバイクとは言え、これでも原付きくらいのスピードは出るからね、びゅんびゅん風を切りながら進む国道、流れていく街の景色、それは平凡ながらまさに絶景。私だけの絶景。

何の気なしに国道沿いのショッピングモールに立ち寄り、UNIQLOでちょっと服買ったり、本屋で本を4冊ほど衝動買したり。必要ではないけどあったら嬉しい、みたいなものを買う時間がとれるって、なんて幸せなんだろう! 買った本はどれも面白そうで、どう考えても読む時間が取れなさそうで、全く悔しい。でも読み終えるまでは楽しみが残っている。生きていける。

晩ご飯もちょっと珍しいもの作っちゃおうか、なんていきり立って、魚売り場に売っていた「イサキのアクアパッツァ・セット」なんて買ってみた。アクアパッツァ? アクアパッツォ? 知らねえよ。どっちでもいいさ。説明書の通りにソースまぶしてじっくり焼いて、ちょっとアレンジで野菜とかキノコとか足してさ、コンソメと岩塩使って味とスープも足したりしてさ。とっても美味しくできたんだ。イサキなんて家で食う魚じゃねえし、アクアパッツァなんて36年間生きてきて初めて食ったよ。おいしかったよ。イタリアには一週間以上旅行したこともあるのに、食ったことなかったよ。世の中にはまだまだ知らないことが多いんだな。もう少し生きていようよ。

その後はウイスキーを舐めながら、コツコツと読書をして……。中編小説を一つ読み切る、たったそれだけのことで、心が本当に潤った。あぁ、まったく、もう、これは、この時間は、絶対に自分には必要だよ。どうしてこんなに休みがなかったんだろう? わたしは個人事業主であり、合同会社の代表社員(=社長のようなもの)であり、結局自分で自分のセルフ・マネジメントをしているので、そこに無理があったと言うか、自分で自分を働かせ過ぎていたということに過ぎないんだけれど、休めない仕事だもの。そして無理させてしまうもの。私にとって私自身は、私という会社の稼ぎ頭であると同時に、たった一人の奴隷だからね。人権無視! 仕事最優先!

どうやって休んだらいいのかすらわからなくなっていたので、休み方に関する本まで買ってきたから、そいつを読みながら眠ることにする。できれば眠りたくない、眠ると今日が終わってしまうから。明日はまたしゃかりきに働かなければならないから。けれども、明日もいい仕事をしようと思ったら、眠るしかないから……。

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