以下、感想ではないものも混じった感想。
感想ではないもの
人間、圧倒的かつ不条理に何の説明もなく孤独に切り離されて生まれてくる。本来人間は一人ではない方が自然なのだと思う。それがどういうわけか、一人で生まれて来させられてしまう。恋や愛、友情というのは奇跡ではあるが、それと同時に「本来の人間」に戻るための活動なのだ。そして人生は、好きなものを一つずつ増やしていく旅なのかもしれない。俺は好きなものが多くてよかったなぁ。マラソンに興味を持ったおかげでこの映画とも出会えたし、マラソンに興味を持たないままこの映画と出会っていたら泣けはしなかっただろう。
感想らしきもの
駅伝とは一人で走っているようでいて、チームで走っている。チームで走っているようでいながら、一人で走っている不思議な種目だ。本作には孤独な競技としての駅伝の側面と、チームスポーツとしての駅伝の側面、どちらもが描かれている。
それぞれの走者がそれぞれの練習と本番で乗り越えようとしているのは、タイムや競争相手であるように見えて実は自分のそれまでの人生や過去、あるいは自分自身そのものだ。その感じは駆け出しもいいところのアマチュアランナーである俺にもちょっとわかる。走っている間、常に問い掛け続けてくる弱い方の自分自身の声、「もうやめよう」「これを走り切ったからって一体何になるんだ」。さらにタイムや相手とも競っているトップランナーたちに襲いかかる「弱い方の自分の声」には、恐ろしいものがあるだろう。
それを強い方の自分が乗り越えていく。長距離走はそういう孤独な、自問自答の競技であると思う。メキシコ五輪銀メダリストのマラソン走者・君原健二選手が以前、とある本で、マラソンはよく人生に例えられるが私は違うと思う、むしろ人生は駅伝に似ている、というようなことを言っていた。その感じがとてもよく伝わる映画であった。渡されたタスキの重たさと渡したいという思いを抱いた瞬間にランナーは孤独ではなくなるが、しかし走り続けることはどこまで行っても孤独な仕事である。孤独の苦痛を乗り越えるために繋ぎ、繋がれたから孤独の苦痛を味わい、そしてまた繋ぐために走る。相反した二つの要素がせめぎ合っている、不思議な競技だ。
出演者全員良かったが、音楽が良かった。千住明のオーケストラレーションと言えば私には真っ先に「VG」が思い浮かべられる。何も知らずに見て、聞いた瞬間「あ、千住明だ」とわかってスタッフリストをチェックした。最初の方はコミカルなところもあるこの映画に千住明の重厚な音楽は合わない気がしていたが、中盤後半くらいから考えを改めた。走るという壮大で重厚な、深みのある行為には、千住明はぴったりだったように思う。