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なんで『光より前に』なのか

円谷幸吉と君原健二という二人のランナーに取材した新作創作劇『光より前に』を稽古中である。11/14から演劇の聖地・紀伊國屋ホールにて上演。僕にとって初めての紀伊國屋ホールなので、本当に嬉しいです。

この企画は割と、誤解されている。「製作」がワタナベエンターテインメントとゴーチ・ブラザーズなので、いわゆるよくあるプロデュース公演と言うか、芸能事務所が所属俳優を売ろうとして僕に依頼した……という風に思っている人がいるのだが、業腹である。全くもって業腹だ。そんなもん、僕が引き受けるわけがなかろう。実態は真逆なのだ。「僕が」円谷幸吉と君原健二の話をやりたいと言って、ワタナベエンターテインメントの名物社長、演劇大好き・永遠の演劇少女・渡辺ミキ様に「やりてーっす」と直談判したのが事の発端なのだ。

※業腹【ゴウハラ】[名・形動]非常に腹が立つこと。しゃくにさわること。また、そのさま。「あんなやつに負けるとは業腹だ」「業腹な仕打ちを受ける」

なぜ渡辺ミキおよびワタナベエンターテインメントだったのか、ということを書き始めると、また長い。そもそも僕およびDULL-COLORED POPの作品には、D-BOYSというワタナベ所属の演劇部隊の俳優たちがしばしば出ていて長年の交流があり、僕もミキさんやD-BOYSらと夜な夜な演劇論をぶちかまし合っていたのだ。桜新町の夜、渋谷の夜、吉祥寺の夜、高円寺の夜……。いろいろな夜があった。僕も最初は悪い大人からD-BOYSのことを「イケメン俳優集団だよ」とか雑い紹介をされて「だっせーな、近寄りたくないぜ」と思ったものだが、Dステはじめ彼らの出演舞台を観てみてコロリと考えを改めた。あ、これ、本気で演劇やりにかかってる。つうかむしろ、半端な小劇場俳優なんか全然相手にならねぇ。ガチの奴らだ。そう直感したし、話してみたら一人残らず熱い、熱い。今回出ている和田さんとは加治将樹くんが出てくれていた『トーキョー・スラム・エンジェルス』の本番中だか稽古中だかに夜を徹して演劇話に明け暮れたのを覚えている。

だから僕は和田さんのこととか、Dの子たちが大好きなんだ。勉強家だし、競い合ってるし、自分の長所と短所をよくわかっているし。それにミキさんが本当に細かく、あれだけの大企業の社長がやることとは思えないほどの丁寧さと細かさで俳優一人一人にダメ出しやアドバイスをされておる。ワタナベエンタは演劇を愛したあまりに、演劇に毒されてしまったおかしな会社なのだ。

そんでまぁ、ミキさんやDの人々と何かやりてえという話をしているうちに、僕がたまたま円谷幸吉と君原健二という題材に巡り合い、「これをやるならダルカラでもアナールでもない、絶対Dだ、ワタナベだ」と思って話を持っていった……というのがこの企画の発端なのであります。そして、一介の劇作家に過ぎない私の提案を、社長自ら時間を割いて聞いてくれ、その後直接に会議やら企画やら動かしてくれて、一緒にこのプロジェクトを生み出してくれたのがワタナベのミキ社長なのだ。本当に頭が下がる。本当に演劇を愛しているのだ。

それではそもそも、なぜ僕が円谷幸吉と君原健二なんていう題材をやりたいと思ったのかと言うと、これはもうはっきりと「離婚」に影響されています。僕と付き合いの長い人なら知らぬ者のないT中S織嬢との離婚騒動を経て、僕はすっかり一人ぼっちになってしまい、「仕事だけはじゃんじゃん来るし現場の規模だけバンバンでかくなるけど人生がひどく無意味」という人生の暗黒期を迎えまして、毎日焼酎やウイスキーを丸々一瓶ラッパ飲みしては翌日げえげえ吐きながら稽古場へ向かうという地獄的日々を365日過ごしておりました。抗うつ剤と睡眠薬をもらおうとして心療内科に行き、「お酒は飲みますか?」と聞かれたので正直に酒量を報告したら、先生に「ばかやろう」と言われました。お医者さんが「ばかやろう」と言うのを、僕は生まれて初めて聞きました。二度と聞きたくありません。そういう生活でした。

詳しくは本編を劇場で観てもらうとして、円谷幸吉と君原健二という二人のメダリスト走者の人生には、共通して「愛」の問題がありました。愛が人の運命を、こうも軽々と左右するのかと驚かされるエピソードがあったのです。そんでもって愛にぶんぶん振り回されてすっかりアル中のクルクルパーになっており、「演劇演劇演劇」とうわ言のように繰り返しては仕事に向かうだけの演劇廃人になっていた僕は、「こいつぁ俺が書くべき素材だな」と感服しまして、それでワタナベに話を持っていったという次第なのであります。

どういうことなのかというのは、ぜひ劇場に観に来て下さい。僕は円谷幸吉から、君原健二にならなければならないと、考えていたのです。詳しいことは、劇場に観に来て下さい。11/14から紀伊國屋ホールです。

https://hikari.westage.jp/

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Twitterに出演者紹介なんて書いたので、貼っておく。

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今回本当に多くの言葉を円谷幸吉&君原健二のお二人からお借りしている。とてもとても、僕では書けなかったような話になっている。もともと僕は、愛についてストレートに語るような作家ではないのだ。演劇でもプライベートでも愛だの恋だのいうものは、気恥ずかしくて、照れくさくって、正面切って語れない男なのだ。つうか逆にそういうのを堂々と語れる人に石ぶん投げたくなるような、ねじ曲がった人間なのだ。愛なしでは生きていけないということをしっかり勉強させられたのに、未だに何も知らない子どものように酒ばかり飲んでいるバカなのだ。

何だ、「何も知らない子どものように酒ばかり飲んでいる」という比喩は。そんな子ども、存在しねえよ。まったく、本当に手の施しようがない……。

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