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声という表現力

演劇における声の表現力の可能性について思う。かつてご一緒した名優・木場勝己も「俳優は声です」と言っていた。昨年、舞台『デジモン』でアニメのプロの、と言うかベテラン・大御所の声優さん達と仕事をさせてもらって、声がただ人物の感情を表すだけでなく、その人物の置かれている状況や体勢、時間さえも表現し得ることを実感した。「体勢って何?」と思われるかもしれないが、声でそのキャラクターの姿勢を表せるし、緊張している・弛緩しているということを表現できるのだ。時間と言うと余計に超常現象めいているが、良い俳優は語り方次第で、流れている時間がリアルに流れている時間なのか、心象風景としての時間なのか、区別して演じ分けることができる。聴いていると、その違いがありありとわかる。

これはすごい技術である。恐らく彼らが発動している能力は多々ある。

  1. 筋肉(当然必要になるし、声優の彼らはきちんと発声に必要な筋肉は鍛えている)
  2. 感性・感受性(もちろん必要だ)
  3. テキスト読解力(実はこれが一番大事かもしれない)
  4. 自身の経験値としての表現ライブラリー(アニメ、映画、音楽、演劇、その他何でも、持っているということだ)
    1. それを模倣し得る筋肉・発声表現力
  5. 度胸と言うか、自信

アグモン役をやっていらっしゃった坂本千夏さんとのアフレコエピソードが印象深い。アフレコと言うと語弊があるのだ。「本番では、俳優と人形(デジモン)はこう動きます」という予想図を俺がお伝えして、それに併せて演技してもらう(アニメとは違うのでもちろん絵も絵コンテもない)……という非常にややこしいやり方だったので、坂本さんは台詞と想像力だけで演じていらっしゃった。台本・テキストはじっくり読み込んできてくれていて、きちんと場に即した台詞を言ってくれている。

しかし、俺は初回テイクにNGを出した。2回目にもNGを出した。3回目にも……というところで、ブースのガラス窓越しに話すのは演劇人である僕としては不服だからと無理を言って、ブース内に入れてもらって、坂本さんに直接伝えた。そこで坂本さんが尋ねたのは、内面でも思考でもサブテキストでも何でもなく、「このとき、アグモンはどんな体勢をしていますか?」という質問だった。それについては俺もクリアに答えられた。「地を這うような、全身の筋肉を無理に使って這っているような、それでも前に進みたい、そんな体勢です」。実演を交えながらそう言った途端、坂本さんは「わかった!」と仰り、理想通りの演技をなさってくれた。

そうだ。彼女は身体を知りたかったのだ。身体の状態によって当然、感情も変わる、声も変わる。むしろ身体の状態こそが、最も感情と声を規定する。そういうことをよくわかっていらっしゃったのだろう。私がアグモンの状態を実演して見せてからは、一発OK、圧倒的な演技力で我々を魅了してくれた。

* * *

声は強い。声の表現力は、客席数50~200の小劇場では「あなたにだけ聴こえる」魔法の言葉として観客を魅了する。観客の鼓膜を直接震わせる、演劇ならではの魅力を担保してくれるのが小劇場における声だ。客席数300を超える中劇場でも、声はあなたの武器だ。大抵、音響さんがうまいことシステムを組んでくれているので、最高席にまであなたの声のニュアンスは届くし、そんなシステムを抜きにしても、300席くらいならがんばりゃ声は届く。しかし、遠い。視力は及ばない。でも声は届くから、あなたは声を武器にして、観客にあなたの……感情はもちろん、姿勢や体勢、置かれている状況、流れている時間さえも、声を通じて伝えることができるのだ。客席数800を超える大劇場なら? 身体はもとより大事だが、声の表現を無視して演劇はできない。むしろどんなに離れていても、つまり最前列A列のお客さまとZ席最後列のお客様に均等に届けられる情報の一つに「声」がある。あなたの声は台詞の内容だけでなく、その人物の置かれている状況、感情、姿勢、体勢、流れている時間まで伝えてくれる。

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