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多様性を自ら叫ぶ『スパイダーマン ブランド・ニュー・デイ』

息子氏の熱いリクエストを受けて観に行った。

正直僕は、マーベルヒーローやアクションには全然興味がない。でも最近のマーベル映画は見れちゃう。マーベルヒーローの孤独や異能を通じて、現代人の孤独や差別を描くことに成功しているからだ。

この映画もそうだった。

ストーリー前半は、みんなを守るために「みんなの記憶から忘れられる」選択を受け入れた主人公・ピーターが、孤独に耐えながら、でもスパイダーマンというヒーローとしては正しくあろうとしてもがき続ける姿が描かれる。

これは、つい感情移入しちゃう大人は多いだろう。

つらい、理不尽な境遇を受け入れながら、それでも正しい自分であろうとして戦い続ける。重たい病気や障害と戦っている人や、孤独に耐えながら仕事を頑張ってる人とか。かくいう僕もやってもいない罪状で丸2年地下室に追いやられていた身分なので、この部分は涙を誘った。

後半では急にスパイダーマンの中のクモ由来のDNAが活性化し、それを抑える抑制装置をつける……というのがストーリーの主軸になる。これは言わば「異質(クモ)である私」を抑えて人間社会に溶け込もうとする、今流行りの多様性にまつわるエピソードだ。

突然だが私は、「多様性を認める」という言い回しが嫌いだ。なんて傲慢な言い方だろうといつも思う。だって、例えば誰かがあなたに「男であると認めよう」とか「日本人であると認めよう」なんて言ったら、どうだろう? 「うるせえ」と思わないだろうか。なんでアンタに認められないといけないんだ? 私は誰に認められなくても私だ! ただの言い回しの問題だということはもちろんわかる。でも人に認められる多様性は正しい多様性で、認められない多様性は正しくない多様性なのか?とも思う。

スパイダーマンの場合は、何せクモだ。怪物だ。だいぶ受け入れづらいクセのある自分だ。

本作ラストでは、主人公がまず特殊能力ゆえに殺された女性のエピソードに触れる。

「姉は殺された。特別だったから」

その後で、窮地に追いやられたとき、こう問われる。お前はピーターか、スパイダーマンか?

主人公は、こう答える。

「両方だ」(I’m both.)

ここが劇の頂点だ。自分の中のクモ的なる部分を抑制して、人間社会に「溶け込もう」「認めてもらおう」としていた主人公は、素顔と仮面、人間とクモ、平凡と異常……「両方の自分」を受け入れる。

“I’m both.”はこうも訳せるだろう。

「どちらも僕だ」

アメリカでも日本でも「多様性」と言いつつ、ポリティカルにコレクトでないものや、移民・他宗教を見つけ出しては石を投げる社会になりつつある。「私の認める多様性ならば認める」。作中でもすでにクモやテレパシーや怪力といった能力が危険視されつつある中、ずっとそれを抑える機械をつけていた主人公は、「どちらも僕だ」と宣言し、抑制装置を破壊し、自分の中のクモ的なるものを解き放つ。

ハリウッド映画はいつもここが上手い。主人公が、自らの問題や欠点を受け入れる。あるいは乗り越える。

すると、本当の強さを得る。

誰かに認められる多様性ではなく、自ら宣言する多様性。そして主人公は真の強さを発揮する。実にアメリカ的だ。

さらに本作では、エピローグ、主人公がもう一つ強くなる。忘れられてしまったかつての親友とカフェで再会したとき、もう戻らない過去や記憶のことは振り払って、勇気を出して、一人のまっさらな人間として右手を差し出し、握手を交わす。ここがうまい。クモの力で敵をギッタギタにするところで落とさない。一人の人間として、勇気を出し、人と繋がろうとする。過去がなんだ。ゼロからはじめるんだ。

だからこの映画のタイトルは「ブランド・ニュー・デイ」という。新しい日。ここから始める。

その後、エンディング曲が流れる中で、街で働く普通の人たちのカットが次々映し出されるのは、つまりはこういう意味だろう。一人一人が、それぞれ違う異質さ……”クモ的なるもの”を抱えて生きている。みんな違って、みんなスパイダーマン。

* * *

観客を飽きさせない展開の速さ。誰でも楽しめるよう、アクション、恋、社会問題、ぜんぶ入れる。ポリコレの扱いも穏当かつ丁寧。そして現代的なテーマにちゃんと触れる。アメリカのエンターテイメント、成熟してますね。脚本の出来がいいから、ドラマが伝わる。アクションもSFXも大事だが、やはり映画は脚本ってことだ!

ちなみに子供にはどれくらい伝わっているんだろう?と思い、興奮気味の息子氏(10歳)に「どこが面白かった?」と聞いたらこう返ってきた。

「ハルクとのバトル! ハルク超つえー! ハルクの映画もあるからパパも見た方がいいよ!」

やはりアクションは大事らしい。

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