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nishiogi

二年半、西荻窪に住んでいた。引っ越した頃の僕には割と気合の入ったストーカーがいて、Twitterに書き込んだ最寄りのコンビニとかよく行くスーパーの名前から推理して家の近所で待ち伏せしていたりする子だったので(大変な美人だったのだが、それが逆にまた恐ろしかった)、ブログやTwitterにはなるべく書かないようにしていたのだが、本当に好きな町だった。

西荻窪に限らず中央線沿線の駅と言えば、サブカル臭が特徴だ。中野に近ければ近いほど泥臭いサブカル臭がして、吉祥寺に辿り着くと突然スッキリした(お高く止まった)ハイ・ハブカル臭に変化する。そんな中にあって西荻窪は明らかに牧歌的な雰囲気で、ロープレで言ったら絶対に「村」、マニアックなサブカルの店は少ないが、個人のこだわりを煮込んだような小さなお店が多かった。雑貨店とか古道具屋とか小料理屋とか、そういった。引っ越し当初はそういった小さなこだわりセレクトショップを一軒ずつ攻めるのがなかなか楽しかった。

しかし何より僕の精神にクリーンヒットした店が、西荻窪の名店・戎(えびす)だった。西荻窪には飲み屋が多く、毎日一軒ずつ回っていても全店制覇に半年はかかると思うが、もう戎と出会ってからはほとんど戎にしか行かなかった。きったねぇボロボロのあばら家みたいな古い店であり、昭和レトロなテイストが「ぶってる」感じではなく「仕方なく滲み出ている」。わかるかな、この違い。無理して頑張って昭和レトロ「ぶってる」店ではなくて、仕方なく昭和が滲み出て垂れ流されてる。否応なしに昭和。赤提灯とか立ち飲み屋の好きな私にはたまらない雰囲気だ。

メニューもアホほど安い。ハイボール一杯190円、日本酒一杯230円という怒涛の安さ。「千円でべろべろ」=せんべろという言葉があるが、まさにせんべろ。二千円も出せばお腹もいっぱいかつベロベロになれる驚愕のコスパである。文庫本一冊持ってこの店に行き、コツコツ日本酒230円を飲みながら、「おつまみ三品盛り」とか「水餃子」とか「菜の花のからし和え」とかをチクチク食べるのが至福のひととき。いくら深酒しても1万円とかびっくり会計になってがっかりすることもない。何なら家で飲むより安いんじゃないかとさえ思うほど。

それでいて店員さんも荒っぽいがいい人ばかりで、べらんめえ口調で強気で乱暴だがいい人ばかりで、無愛想で客対応とかする気ないんじゃないかな? と思わせる言動も多々あったがいい人ばかりで、居心地のいい店だった。決してディスってるわけじゃない。妙に親切で親身で距離感が近いのは、それはそれで疲れるんだ。あれくらいいい加減でいてくれると、こちらもまぁ楽にいられる。

今までいろんな町に住んだ。最初は方南町、次に小竹向原(結婚したため)、次に東池袋(離婚したため)、そして西荻窪(再婚したため)、さらに今回の**町(ストーカーは相変わらず怖いので、伏せておく)。西荻窪は「村」感があるとは言え、商店街も飲み屋街も飲食店も豊かな町で、夜も賑やかな場所だったから、少し暮らして疲れたというのはある。もう少し僕には寂れた、静かな町のほうが合うらしい。

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