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カテゴリー: 日記

本日公開された大内彩加さんの文章について

この度は私に関することで大事なお客様、および公演関係者に多大なるご迷惑とご心配をおかけしていることを、まず深くお詫び申し上げます。

本日、大内彩加さんによりインターネット上に発表された文章についてコメントさせて頂きます。彼女の文章は事実無根および悪意のある誇張に満ちており、受け入れられるものではありません。訴状が届いていないため起訴内容については確認できておりませんが、司法の場で争う所存です。

私は自分自身、全く聖人君子ではなく、非常に大きな問題を抱えた人物であると自覚しております。かつては稽古場で怒号を飛ばしたこともありました。性的なハラスメントもあったと反省しています。それらについては時効はありませんから、機会を頂きつつ謝罪や和解を続けていきたいと考えています。しかし忘れもしない2016年、私自身がある演劇現場(劇団外でのプロデュース公演)で年上の俳優やプロデューサーから非常に強いパワーハラスメントを受けた際、私はもちろん、私以上に萎縮してしまっていた座組のメンバーたちの姿を見て、今後はそのような手段に頼らず現場に立つべきだと自覚を強くしました。忘れもしない2016年のことです。

それ以降も社会でハラスメント対応および人権意識が高まる中、周囲の友人・先輩や専門家にも相談し、自身の行いを改めて参りました。彼女と初めて仕事をしたのは2018年です。私が彼女に対し訴えにあるような行いをしたことはございません。「そのつもり」がなくとも相手が不快に思うようなことが起きたり、言ってしまった場合には、その都度冗談にせず謝罪することを心がけてきました。それでも至らぬ点はあったかもしれませんが、その間の私の自分自身をアップデートしようという努力は、座組みを同じくしたスタッフ・俳優たちが証言してくれるものと信じています。またここには書けませんが、彼女に対する強い別の反論と抗議も持ち合わせております。

大内さんや宮地さんとは、今年の夏に一緒にリスペクトトレーニング講習を受けたり、ハラスメント講習を受けた上で、今後劇団としてどのような環境づくりをしていくか対応を協議していました。それも「劇団内で問題が起きたから」というきっかけではなく、演劇界で起きていた様々なハラスメント事件を他人事とせず、劇団として自分たちの対応をアップデートしていくための自発的な動きでした。そんな中、今回このように寝耳に水の形で、公演前日に訴えを起こされたことは大変心外です。これはれっきとした名誉毀損であり、私が今準備している公演遂行のためにも看過することができません。そして何より私自身の名誉のためにも、取り下げて頂くまで戦う覚悟でおります。

あらためましてお客様、および公演関係各位に多大なるご迷惑とご心配をおかけしていることを心よりお詫び申し上げます。

令和4年12月15日 谷賢一

* * *

追記 先ほど現在準備している公演について、主催者判断で初日の上演中止が決定しました。楽しみにしてくれていたお客様には大変申し訳ありません。心からお詫び申し上げます。そして今日のゲネプロまで密度の高い創作をしてくれたスタッフ・俳優一同に対して、言葉もありません。今日のゲネプロ、今、まさに上演すべき、ここでしか上演できない空気がありました。改めて心よりお詫び申し上げます。

追記2 たった今、全公演の中止が決定したとの知らせがありました。訴状すら見ず、司法の判断も待たずにこの決定を下すことは行きすぎたキャンセルカルチャー、私刑と同じであり承服できません。続きは司法の場で争いつつ、私個人として、この社会的風潮に対し抗議の声をあげていこうと考えております。

12/13(火)、場当たり

昨日の疲れがさすがに出て1時間遅く起きる。ハムエッグを焼いて冷凍ごはんをチンして食べる。この辺りではスーパーが8時に閉まるので稽古後に買い物ができない。人口1500人の町では仕方がないことだ。劇場へ入りややこしい電話を何本もかける。芸術のことだけ考えてられるほど私には才能がない。お金のこと、経営のこと、人間関係のこと、様々に、誰かの尾を踏み怒りを買わないように、言葉を選びながら伝えていく。演劇は一人ではできない芸術なのでこういうこともある。場当たりは順調に最後まで進む。夜は音響柳丈陽さんとバカ話をしながら細かい音像をチェックしていく。彼は一種の偏執狂、マニアクスなので話が合う。タフだし賢いので気兼ねなく理想やオーダーを伝えられる。少し元気をもらって家に帰り、またパソコンを叩く。明日はドレスリハーサル、劇場衣裳つき通し稽古だ。

12/12(月)

朝イチに来年の新作の打ち合わせ。初日前なんで時間がなくてと言ったら谷さんの時間にぜんぶ合わせますよと言われてしまい、まんまと濃密に打ち合わせした。できる人と仕事すると自分も一つの引き上げてもらえる。昼前に東谷くんと衣裳の買い出しに行き、ホームセンターで最強の装備を手に入れた。昼から稽古。劇場では仕込みが進んでいる。夜に劇場へ寄ってプランや転換の話をし、帰宅すると夜の11時。そこから大変シビアな打ち合わせが始まる。この国は本当に文化を大事にしない。これではこの地方に希望なんてない。

12/11(日)、滞在製作、ある一日のスケジュール

一般的な毎日のスケジュールです。

朝七時、起床。人によっては海までランニングに行ったり、部屋や庭でヨガをしたり、台詞を練習したり。僕は原稿を書いたり(朝書くと捗る)。8時半くらいに何となくみんなで朝ごはんを食べる。ハムエッグとか、ソーセージエッグとか。安い魚のアラ買ってきてアラ汁食べてたこともあった。

十時、稽古開始。稽古場は劇場をそのまま使わせてもらっている。劇場が稽古場というのは演劇人誰しもが憧れるものだろう。

十一時、稽古。十二時、稽古。十三時も十四時も十五時も……十八時まで稽古。のはずが、今日は勢い余って十九時まで稽古。明日から劇場本仕込みなので最後のダメ出し、細かいところまで俳優たちと話し合う。

二十時までにスーパーに滑り込む。そのスーパーが二十時には閉まってしまうからだ。この辺は原発事故のせいで人口が減ったからコンビニも二十時で閉まったりする。町のヤマザキストアみたいなのじゃなくて、セブンやローソンが二十時で閉まるのです。

帰宅後みんなでご飯。順番にお風呂。僕は24時まで原稿を書いていたが、リビングでは東谷と久留飛くんが同じく24時まで台詞をブツブツやっていた。

そういえばこないだ、いつかの稽古で東谷が、「新作作ってる、って感じがするな」と笑っていた。すごくよくわかる。今回の作品は明らかに『福島三部作』の系譜・系列の作品なのだが、何だか『アクアリウム』とか『くろねこちゃんとベージュねこちゃん』とすごく似ているところがある。ラストなんかはアクアリウムそっくりな気さえする。でも明らかに違うものなので、今までのやり方が通用しない。新しいもの作ってるというとカッコよく聞こえるが、現実には怖い。面倒だし大変だ。でも、やりたくなる。ラストシーン、完璧な完成度でやり切りたいな。

明日も稽古頑張ります。明日は俳優との稽古は5時間半。あとはスタッフと仕込み、明かり作りなど。俳優たちも少し羽根を伸ばしたり、くつろいだりできるといいのだが。

写真は昼飯のなみえ焼そばパン。もう米食ってる暇もない。

12/10(土)、この町にいるということ

午前中から僕はガシガシ返し稽古をしていた。出演のない俳優たちには港のイベントや津波被害の震災遺構を見に行ってもらったりしていた。帰ってきたしんぺーさんや家久来さん、みゆきっちょむに感想を聞いたところ、よく喋る。そりゃそうだ。僕もあの小学校を見た後はしばらく胸がいっぱいだった。浜通りを訪れる人は浪江町にある請戸小学校はぜひ見て行って下さい。

稽古でも「この町にいる」ということで進むことがある。俳優に、「君は今、ここにいます。一昨日行ったあの場所です。わかるよね? 下手側、この方角に森があって、その向こうが中間貯蔵エリア。その右側……そうこの辺の奥に駅があって、さらにその右には浪江町のイオンがあって、さらにその先に柳さんのフルハウス……そうそう、そうです。この位置関係」と簡単に説明できる。それぞれの土地が持つ意味やイメージを共有できる。

稽古は最終場面に差し掛かる。今まで何度も家族を題材にしたものをやってきたがやはり難しい。対家族には二重も三重にも演技をしなければならない。太宰治がこんなことを書いていた。

……肉親と他人、故郷と他郷、そこには抜くべからざる演技の難易の差が、どのような天才にとっても、たとい神の子のイエスにとっても、存在しているものなのではないでしょうか。俳優にとって、最も演じにくい場所は、故郷の劇場であって、しかも六親眷属全部そろって坐っている一部屋の中に在っては、いかな名優も演技どころでは無くなるのではないでしょうか。

『人間失格』より

最も騙しづらい相手なので、最も精緻な演技が必要になる。

福島県浪江町 太陽の下 ソーラーパネルの海を見下ろしながら

12/9(金)、1日は存在しない

朝10時に稽古開始して今日は18時までやってた。10時〜6時とかいうのでまぁ稽古も6時間くらいかなとバカな勘違いをしていたら8時間もやっていて、そりゃ疲れるよと自分に呆れた。明日は俳優の入りを段階入りにしたので(10時入りの人と12時入りの人で分けて、早く入った人は早くあげる)、僕だけ働き続ければ充実した稽古ができる。

今日の稽古ではみゆきっちょむ先輩(佐藤みゆき様)と家久来さんのやりとりが大変微笑ましかった。家久来さんも徐々に自由に動ける・振る舞えるようになってきて、持ち味の芯の太さやヘンテコさが見えてきて楽しいし、それに輪を変えてみゆき先輩が自由にやっているので面白い。僕も最近では「もう若手じゃない、自分が業界をリードしていかねば」と考えることがある。みゆきちゃんは僕は年下の若手のセンスいい子と思っていたけれど、それは12年前とかの話だ。今は同世代の中堅として後輩にいい背中を見せられるか、そういう立場にいるんだなと実感もする。

スーパーでカレイがめちゃくちゃ安く売ってたので買って帰り、昨日きっちょむが作ってくれた煮付けが美味しかったので、見よう見まねでなんちゃってカレイ煮付けを作って晩酌にした。美味い。海産物おいしいんだよ。編集中の音響ソフト(Ableton Live)が見切れているが自分で音響いじれると俳優の芝居や展開に合わせて細かい修正がすぐできるので便利。僕にはとても向いている。

12/7(水)、AIR

今日から福島生活。我が子の保育園送りもこれでしばしお別れ。子を送り届け、近所のスーパー銭湯で1時間だけ熱い湯とサウナを浴びた。これだけで随分体がスッキリしたぞ。2時間ほど家でデスクワークをして溜まっていた原稿やメールを打ち返した後、いざ福島へ出発だ。東谷・久留飛を連れて高速をぶっ飛ばす。運転は意外と好きだ。特に福島の道はシンプルで楽しく運転できるし、風景が綺麗なのでいい気分転換になる。しかし今日は書かねばならない原稿が山積みだったので、途中から運転を仲間に任せて後部座席でキーボード叩いていた。いわき市内の鮮魚店でイカとメヒカリを買い、浜辺を訪れ野営キャンプ。誰もいない。地球で自分一人になったような気にさえなる。浜辺でセリフ合わせをしていたら急に風が強くなって全員凍えそうになり家に帰った。家に入ると「家はいいな」と東谷が言った。

12/6(火)の日記

息子を保育園に送った後稽古場へ向かったが、その後急に体調を崩し、午前中ずっと車の中で寝てた。俳優やスタッフが体調を崩したらすぐ「休みなさい、休みたまえ」とオフを進めるが、こういうとき自分は休めない。もちろん僕が休んでもみんな何かしらフォローして進めていてくれるだろう、そういう信頼感はあるんだが、自分の使える稽古時間が減るというのが耐えられない。なんとか午前中に体調を持ち直し2時間遅れて稽古に合流する。ラストシーンの稽古を細かく行ったのち、頭から全てのシーンを順番にやっていく。……ちょっと長過ぎた(てへぺろ)という問題がよーくわかったので削る作業をする。「短編」と言いつつこれ一本で上演できる尺のものができてしまった。薄々勘付いてはいたけどね。一部台本をカットして10分削り、さらに芝居のテンポを上げればもう20分削れる。前半リーディングパートと合わせて2時間以内にはしたいからなあ。

12/4(日)、がっくし

アンパンマンの腹巻きを着こなす次男

朝、図書館日本を返しに行く。図書館の駐車場が1時間400円もして、すごく嫌。併設の公園でフリーマーケットやってたが何も買わない。朝、松屋の牛丼を食べ、昼も松屋の牛丼を食べた。脱稿までの間とにかく精神的に疲れていた。人間トラブルもあった。今になって急に肉とか炭水化物とかで傷を治そうとしているのかもしれない。『家を壊す』稽古は進む。今回の出演者はみんな好きだ。ほんとなら飲みに行きたいが絶対コロナかかりたくないので絶対飲みに行かない。いつまで続くのよこれ。美打ちを経て空間の使い方が固まったのでザクザクミザンスつけてく。音も決める。後回しにしない。休憩でカクライコーヒー店をやったが確実に上達していた。稽古場にマイキャンプギアも入れた。稽古後「ウワーッ!!」って鳴る打ち合わせとかメールの返信とか多数。日澤くんAIRもようやく発表できて良かったな。谷賢一

12/3(土)、言い訳はしない

双葉町に移住した10/1から「これから毎日ブログ更新します!」なんて言って、実際2ヶ月ずーっと更新してましたが、途切れました。言い訳はしない。どうもすみません。この10日間くらい地獄の苦しみを味わっていたのです。新作戯曲を書いていたのです。

あらゆる仕事の中で新作戯曲を書くというのだけ圧倒的に特殊なのです。どう違うかと言うと、

  • 翻訳 → 楽しい。だってもうすでにいい作品が手元にあるんだから。英語だけど、書かれている。悩むことはあっても行き詰まることはない。絶望も感じない。スキマ時間にもコツコツ進められる。
  • 演出 → 大変だし、これも脳みそを使うけれども、演出は一人でするものでもない。スタッフに相談したり、俳優からアイディアをもらうこともある。壁にぶち当たることもあるけれど、そういうときは舞台監督や演出助手、俳優に「わからん」「だめだということだけはわかる」「どうしよう」と愚痴ることで突破口も開かれる。
  • エッセイ、評論、書評など執筆 → 楽しい。僕は書くのは早い方なので、一時間もあれば2000~3000字くらいは書ける。エッセイとかでいいオチをつけたかったり、書き出しや終わり方をかっこつけたかったりするときは悩む・止まることももちろんあるけれど、基本的には時間さえかければ必ず書ける。
  • 戯曲 → めちゃくちゃしんどい。執筆期間中は、全く誇張ではなしに、目を覚ます瞬間から眠る瞬間までこのことばっかり考えてる。朝、「むにゃむにゃ……」の段階で「あ、あそこ、こう直せばいいんだ」とか「あー、ここはそう言えば見落としてたな」とか「あのシーンどうしよう」とか考えてる。というか、それをしないと書けない。さらに、それをしても書けない場合がある。1日ずーっと悩んで何も書けないなんてことはざらなのだ。

戯曲執筆だけは、不思議なもので、こま切れのスキマ時間では何もできない。30分×10=300分だが、これだと何も前に進まないのだ。そうではなく「これから書くぞ」と6時間、机に向かったり、ベッドで寝返りを打ったり、散歩したりお風呂に入ったりしつつも基本的には「ずっと考える」ことを続けないといけない。するとあるタイミングで壁が壊れる。光が見える。でもこれも中断してはならないという性質がある。1時間考えて、30分別の仕事をして、それから2時間考えてもダメだったりする。3時間かからないとひらめかないことを思いつくためには、3時間うなり続けなければならない。そして実質書いてる10分とか30分以外の2時間半は、ただウーンウーンと唸ってるだけなのだが、これがないと最後の「書く」につながらないのだ。

『家を壊す』脱稿しました。これから2週間みっちり稽古します。ぜひ観に来て下さい。