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バズった/短期集中の演技学校を作ろう

来1月上演・KAAT『三文オペラ』の台本づくりに集中(と言うか懊悩(と言うか七転八倒)))していてしばらくネットを切っていたら、知らん間に今月産経新聞に書いた記事が軽くバズっていた。

約3万RTくらいされてる。一度はYahoo!ニュースのトップテンか何かに入ったらしい。その間も俺は寝てたり書いたりしたので、何だか他人ごとみたいな、浦島太郎みたいな気持ちだった。ちなみに最近、童話の登場人物の中で浦島太郎が一番きらい。

実は原稿書いてる最中、こういうこと書くと炎上するかもなあと少しだけ危惧しつつ書いてたんだが、拡散はしたが炎上はしてなくてホッとした。大半の感想が問題を我が事のように受け止めて、観客として何ができるか、演劇関係者として何ができるかという反応だった。それだけでも書いた価値はあったと思う。

そう言えばずいぶん前に某・若手超人気俳優と一緒に仕事したとき、大量のファンレターに混ざって1枚だけ、すさまじい酷評と言うか、演技に関するダメ出しが便箋五枚くらいにびっしり書き連ねられた手紙が俺のもとに届いたことがあった。「○○が頑張ってるのはよくわかっているし私は○○のことが大好きだ。だけど他の共演者の演技レベルに到底達していないこともわかっている。他のお客さんは絶賛ばかりで、あまり悪いことは言われないだろうから、失礼だろうけど演出家の谷さんに……」というような語り口で、まぁ見事に○○のクセや問題をズバズバ指摘してあった。いくつかは的外れなものも入っていたし、いい演技を見分けることといい演技を教えることはまた別の問題でもあるから、彼女の手紙をそのまま○○に読ませることはしなかったけれど、こういうお客さんもいるのなら俺も手を抜いてはいられないなと背筋が伸びたのを覚えている。

実際問題、ファンの9割が常に絶賛だと、そりゃあ演技訓練の必要なんか実感しないよね。だって十分、ウケてるんだもの。

演技のことなら何でも相談 短期集中・演技学校を作ろう

前から考えていることなんだけれども、短期制の演技学校を作ろう。「1年通え」とかは売れてる俳優は忙しくて通えないだろうし、売れてない俳優は金がなくて通えないだろう。1週間かそこらの短期集中コースで、演技のイロハやセリフ術や、身体と感情の関係とか、演技論・演劇論とか、さくっと学べる学校ができたらいい。演技の救急病院みたいなイメージで、「おれ/わたし、今、まずいかも」「もっと知りたい、学びたい」と思った人が、公演の合間に通えるような。

「演技の救急病院」と書いたのにはわけがあって、現場でたまに出くわすんだ。あ、これ病気だな、とか、あ、この子はこれを誰からも教えてもらわないままここまで来てしまったんだ、とか、そういうケースに。

  • せりふを「聞く」ということができない。聞いて、反応するということができない。
  • 声が出ない。声量の問題ではなく、言葉を相手に届ける・言葉で相手を動かすという基本がわかっていない。
  • せりふを喋るということに意識が行き過ぎて、体がすさまじく固くなっている。首から上だけで芝居をしている。
  • 喋り方に妙な癖がついてしまっている。
  • 立ち方に妙な癖がついてしまっている。

などなど……。現場でこういう人に出くわすと、しょうがないから演出家がワーワー言ったり突如ワークショップやったりして何とか応急処置をするんだが、まず演出家は演技コーチではないし、稽古場は作品を作ることが最大の目的であって俳優のベースアップを図ることが目的ではない。音楽に例えれば、演出家は指揮者であり、教師ではない。そして稽古場はリハーサル・スタジオであってレッスン会場ではない。フルート奏者ならフルートを正しく吹けるようになってから参加するのが筋であって、リハーサル・スタジオで運指やら呼吸やらについて教えるべきではない。

ちょっとしたコツで良くなるパターンもあるので、そういうときは即席でワークショップやって伝授するんだが、重篤な場合はマジで外部の人に自腹で演技コーチを依頼することもある。今まで三回くらい自分のギャラから自腹で出して、知り合いの演出家や演技コーチに来てもらい、指導してもらったこともあった。時間が無限にあれば自分で全部やるんだけど。

なので、いくつかの症例に分類して、短期集中でバシッと学べる/実践できる演技の道場みたいなとこがあればいいのになぁといつも思う。演技のことで困ったときは、0120-XXXX-XXXXにお電話を! とか、そういうとこがあればいいんだけどなぁ……。全然フリーダイヤルじゃなくてもいいけど。

俳優が育たないのは、まず第一には本人の問題だが、まわりが育てようとしてないからでもある。劇団制度が崩壊してプロデュース公演ばかりになると、やっぱりこうなってしまうんだ。とても良いマネージャーさんや事務所さんはその辺もケアしてくれて、育てようとしてくれているんだけどね。今でも俳優志望は供給過多、買い手市場の溢れ過ぎ状態なので、一期一会のプロデュース公演なら「ダメな俳優は次は呼ばない」となるのは市場原理として実はとても正しい。

しかし、市場原理と自由競争だけで人は育つだろうか。

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なんてこと書いてないで仕事します。

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