PLAYNOTE 新国立劇場『白蟻の巣』稽古場での稽古を終えて

2017年02月24日

新国立劇場『白蟻の巣』稽古場での稽古を終えて

2017/02/24 13:19

1/16の稽古初め以来、日々全力で稽古してきました。こんなに手強く奥深い戯曲は初めてかもしれない。三島由紀夫なにするものぞと物怖じせずに稽古してきたが、やはり作家として世界的、日本最高峰の想像力と頭脳である。頭を抱える日々も長く続いたが、稽古場での稽古が終わって、良い充実感を持って劇場での稽古に臨めている。

氷山の一角とマグマ

言葉とは人間の氷山の一角である。ある一つの言葉の水面下に、巨大な氷山が隠されている。性格や目的・意図はもちろん、感情の状態、相手との関係、過去の思い出、今目の前に見えているイメージや風景。あらゆる演劇の稽古でやっていることは、この隠された氷山を俳優の腹の中に入れて、言葉という「一角」を確かにしていく作業だ。

よく三島は言葉が美しいと言われるが、作家としての彼の特質はその異常なまでの想像力にあると感じている。確かに言葉が絢爛だし比喩も饒舌だが、それは決して過剰ではないのだ。美しく・絢爛で・饒舌な言葉の水面下には、それに見合うだけの氷山が隠されている。ただ言葉がトゥー・マッチなのとは全く違う。読み深めていくうちに最初は「何言ってんだコイツ」「喋り過ぎだろ」と思われていた言葉もただ字面を飾っていたのではなく、その裏っ側に巨大な氷山が隠れていることが次第に明らかになってきた。

ある程度読めてると思っていたし、稽古開始前に普段以上に備えていたつもりだったけれど、次から次へと新しい氷山が見つかった。最初のうちはどう考えても繋がらないと思っていた言葉や感情の流れが、氷山を発掘し続けるうちに深いところで繋がっていて、そこを捉えると「こうとしか言えない」と思えるまでに至った。不思議な体験だった。

確かに三島は言葉が美しい。しかしその氷山の一角を紡ぐためにこんなに大きく豊かな水面下を持ってペンを奮っていたのかと思うと、今はむしろそちらの方に驚愕する。「すごい作家だ」と思う人は他にもいるけれど、こういうタイプの作家は初めて見た。今や俳優たちはその巨大な氷山を、頭だけではなく腹/肚で理解し始めた。これはすごいことだ。知的であり感覚的でもあるこの言葉たちと取っ組み合い続けて、我が物にした俳優たちの勤勉さ・勇敢さ・知性・そして感性を私は尊敬する。

あえてわかりやすく「氷山の一角」という言葉を使ったが、冷たい氷の塊というよりは、力強く脈動し今にも噴火しそうなマグマや血液の台詞がとても多い。熱や色気もなければできない。稽古の最後の一週間で一番よく使った言葉は「野性味」とか「性的興奮」とか「色気」とか「もっと」とか、そして「反射神経」などであった。言葉を腹/肚で理解できれば、この本は野性味あふれるセクシーな男と女の、丁々発止のゲームとして上演できる。吹きこぼれそうになるマグマ。湧き上がる性的衝動。そういうものをも捉えたい。

公演概要

稽古場での稽古は終わった。しかし新国立劇場はとても創作環境が良く、劇場で本番まで約4日半「稽古」ができる。この中でいわゆる場当たりやテクニカル・リハーサルもやるが、それだけではなく「稽古」ができるのだ。ヨーロッパでは当然のことなのだが、日本国内でこれができる劇場はほとんどない。しっかり最後まで仕事します。観に来てね。

◎新国立劇場『白蟻の巣』

作:三島由紀夫 演出:谷賢一
2017/3/2(木)~19(日)@小劇場 THE PIT

【出演】安蘭けい、平田満、村川絵梨、石田佳央、熊坂理恵子、半海一晃

詳細:http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/151225_007979.html

お待ちしております。