PLAYNOTE 最近読んだ本など

2015年09月16日

最近読んだ本など

2015/09/16 01:17

あまりにもお芝居の取材と直結したものは、ここには書かない。

フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』。本屋に平積みされていたので購入。旅で移動の多かった8月、主に移動中に読んだ。短編連作仕立てだから、移動中にうってつけなんだ。

ノンフィクション風の文体の、フィクション。この作品がいかに「フィクション」であるかは解説にとても優れた紹介があるのでそちらを。ノンフィクション風の文体なので、登場人物の内面や動機に最後まで謎が残る。だが、それがいい。『犯罪』の事実を追っていくことで、犯罪を犯した人間の輪郭を見事に描き出していき、しかしその内実・内面は想像する他ない、というバランスが見事であった。並べられた事件の数々も、猟奇的なものから些細なものまでラインナップが広い。

私たちは生涯、薄氷の上で踊っているのです。p12
彼女は彼の故郷になった。p126

ヒキタクニオ『触法少女』。これも本屋で平積みだったのを購入。売れてるものには必ず理由がある。ふだん、世間と断絶されたよな生活を送っているからこそ、世間で売れているものとたまには接点を持たないと、自分が腐る。

ミステリとしてとても楽しんで読めた。ちょっと長いなーという印象を受けて、途中で放棄しかけていたが、最後まで読んだという17才くらい年下の読者に猛烈に最後の展開を薦められて、興味が再燃して一気に読了。確かにラストの畳み掛けるような展開は鮮やかだし、トリックがただのビックリとしてじゃなくって、それぞれの人物の胸の内をえぐりだす・描き出すように機能してる点が見事だった。

人を楽しませようとして書くということについて、最近とみに考える。そういうことを考える上で、ミステリは無視できないジャンルだ。

浅野いにお『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』。俺は浅野いにおを圧倒的に支持する。

『おやすみプンプン』の後半は、確かに少し残念だった。暗いのはいいし、エグいのも大好きだし、悲惨だろうが何だろうが、いいんだ。ただ俺の浅野いにおの好きなのは、悲惨的な状況を漫画的にコケットに戯画化してみせるところ。だから中盤までのプンプンの描写の変化(鳥になったり正四面体になったり)は、漫画にしかできない表現を使ってプンプンくんの心情をあますところなく表現していて、しかし湿っぽくなったり饒舌になったりせず、素晴らしく好きだった。

しかし『プンプン』は最後の少し残念な感じさえ包摂して好きな作品でもあった。好きでよく見る劇団が、意欲あまって3時間超えしちゃって後半モタついてたり、好きでよく読む小説家が、意欲あまって後半でらしくない文体や展開挿入してきて、結果的に多少残念な落ち方になっていたとしても、それすら包摂して愛せる。ファンなので。つまり俺は浅野いにおのファンなのだろう。

そしてデッドデッドデーモンズデデデデデストラクションは明るいブラックユーモア、へんてこな台詞の数々、ヘンテコな崩し平仮名文字をはじめとした「侵略者」の描写の仕方、きゅんきゅんする青春展開、イソベやんの存在など、どこを切ってもとても好きだ。自分も劇作家として、浅野いにおくらいにはヘンテコな台詞を書かなければと思うこともある。とても触発される作家である。

何よりも「侵略者」の存在のさせ方がとってもうまい。なるほど、こういう手があったかと感心した。「侵略者」に脅かされ、戦争除隊にある作中の日本は、言うまでもなく311以降のギスギスし続ける日本のアレゴリーで、実に社会に対する批評性が鋭敏なのだが、漫画としても楽しめるラインをしっかりキープしている。手塚治虫がどんなにシリアスな作品にもヒョウタンツギを混ぜ込み、ビートたけしがどんなに映画監督として成功してもピコピコハンマー持ち続けて深夜にバカ騒ぎをやるように、スマートにさえ見えるのだ。社会と接点を持ちながら、左翼くせえ読みづれえ説教くせえ社会派にならず、ファンタジーでワクワクさせてくれながら、そこに今を生きる私たちと強烈に重なる姿を感じる。これがフィクションの力だ。

ラジオも愛聴させて頂いているジェーン・スーの出世作、単行本化。40年に及ぶ「未婚のプロ」の、女の知恵とトホホを巧みな比喩と文章力で繋いで見せるライトエッセイ。これも驚くほど気楽に読めるが、ページを繰るごとに大人の男女の恋愛あるあるが女性目線からブラックに揶揄されながら紹介されていて、もうなんつーか、男としてもゴメンナサイという気持ちになる。

ジェーン・スーが語る「未婚のプロ」は、時代の変化が生んだ新しい人類だ。男女平等、男女同権が声高に叫ばれる中で育った彼女たちは、男に隙を見せたり下に見られたりすることを毛嫌いするあまり、自分の中にあるお姫様願望を殺してしまう。かと言って昔のような、女は結婚して子供を産み男の三歩後ろをついていく、というような生き方がしたいわけじゃない。充実した仕事をして、女友達と楽しく過ごして、だけど恋愛も成立させたいし、結婚したくないわけじゃない。先人のまるでいない、圧倒的に新しいフロンティアを、知恵と腕力で切り開いていった第一世代だろう。男だって「男はつらいよ」と思うことくらいあるが、本当に女もつらいのね。そして楽しく、素敵な生き方があるのね。恋愛にかぎらず、いろいろなことを考えさせてくれる、そのくせ超気楽に読める好エッセイだ。