PLAYNOTE 香日ゆら『先生と僕 ─夏目漱石を囲む人々─』

2015年01月07日

香日ゆら『先生と僕 ─夏目漱石を囲む人々─』

[読書] 2015/01/07 15:00

俺は漫画をあまり読まない。漫画を読むと、知らず知らずに自分の書く芝居の台詞が漫画風になってしまうのをあるとき知ったからだ。だから俺が漫画を紹介するなんてのは滅多にない。滅多にないが、この漫画はすごかったので紹介しておく。香日ゆらという作家さんによる『先生と僕 ─夏目漱石を囲む人々─』シリーズ、全4巻だ。

先生と僕① (―夏目漱石を囲む人々―) 先生と僕② ―夏目漱石を囲む人々― (MFコミックス フラッパーシリーズ) 先生と僕 3 ―夏目漱石を囲む人々― (MFコミックス フラッパーシリーズ) 先生と僕 4 ―夏目漱石を囲む人々― (フラッパーコミックス)
先生と僕 1~4 ―夏目漱石を囲む人々― ((フラッパーコミックス))

2015年2月に、夏目漱石を題材とした芝居をやる。だからずっと漱石関連書籍ばかり読んでいた。そうしたらうちの制作が、「こんなのありましたよ~」とこの漫画を持ってきた。

はじめ正直、「ちっ、漫画かよ」と、いい印象を持たなかった。今思えば申し訳ない。どうせ浅~い興味で書かれた奴か、編集部に「そろそろ死後100年だし『こころ』100周年ですし、漱石いけますから」とか推されて書いたよくある企画モノのに決まって──

全然違った。違い過ぎて驚いた。この作者の漱石愛は本物である。愛を通り越してフェチとか病気と言っていい(もちろん褒め言葉だ)。関連書籍や年表、辞典、周辺人物の日記や書簡集も含めて、ムチャクチャに読み込んでいる。読み込んで得たおもしろ漱石トリビアや、お茶目な漱石エピソード、笑える門下生エピソードなんかを、すげぇ読みやすい四コマ漫画に仕立て上げていて、驚くほど読みやすいのに元ネタ自体は超マニアック。俺だってそれなりに読み込んだつもりだが、全く知らないエピソードがどんどん出て来る。

愛の力ってすごい。

彼女のスタンスはこうだ。「私は夏目漱石ではなく、夏目金之助(漱石の本名)のファンなんだ!」。こんな人、はじめて見た。だから漱石の文学研究と言うよりは、人となりや弟子・友人・家族とのエピソードが主である。ここまで割り切りがいいと却って気持ちがいいものだ。文学研究を名乗りながら、本人の私生活をネチネチとほじくりかえすだけの研究者がたまーにいて、そういうのを見る度に俺は「だから作品と作者は別物だろうが」と怒りに燃えるのだが、彼女は違う。金之助が全力で好き。だから調べちゃうし読んじゃうし、文学館に置いてあるマニアックな資料に頬を赤くしてぼーっと見つめ続けたりしてしまう。

私が手掛ける劇団次回作『夏目漱石とねこ』もまた、漱石の人となりを題材の一つにしている。それをお芝居にすることで、手軽でわかりやすくお届けし、さらに漱石文学を深く理解することにも繋がればいいと思っている。そして夏目漱石という天才・秀才・偉人・芸術家の顔の裏にあった闇と苦悩を、お客さんと共有したいと思っている。しかしまぁ、この『先生と僕』の手軽でわかりやすく、しかも面白いことと言ったらない。「漱石好きで、4~5冊は読んだなぁ」くらいの入門者でも楽しめるだろうし、『小説は全部読んだ』という初級者ならさらに楽しい。『日記と書簡集と講演と、まぁ活字になってるものは大体』という中級者や、『漱石山脈(お弟子さんたちのこと)まで読んだ』という上級者は、輪をかけて面白いだろう。

もう一度書いておくが、愛の力ってすごい。全巻と続編ぜんぶ楽しく読ませてもらったし、あらためて勉強になりました。本当に、いい漫画と出会えたなぁ。