PLAYNOTE 『トーキョー・スラム・エンジェルス』稽古場、佳境

2014年11月04日

『トーキョー・スラム・エンジェルス』稽古場、佳境

[公演活動] 2014/11/04 23:54
nyanko-at-ito.jpg
近所の定食屋の壁にある写真

Théâtre des Annalesの第三回公演『トーキョー・スラム・エンジェルス』の稽古が佳境だ。もう経済書は開かない。ただ稽古場で俳優を見つめ続けている。今日はラストの2シーンをゴリゴリと返し稽古し続けた。緊張感のある2場面を連続して稽古し続けた南果歩はさぞ草臥れたことだろう。それでも弱音を吐かず、むしろ笑っている彼女を僕はやはりとても好きだ。

先日の通しを見て、ドラマトゥルクの野村政之は「生き様だね」と言って帰って行った。そうだろう。計10人かな、登場人物がいて、うち1人を除く全ての人物の生き様を描いている。そして7人の俳優がいて、それぞれの生き様をぶつけ合いながら稽古している。演じるということは生きることだが、その人の生きてきたことがすべて演技には反映される。だからこそ誤魔化しはきかない。技術は磨けるが、生き様は、生きることでしか塗り替えていけない。

資本主義経済の話なのだが、それは生き様を通して描かれる。僕も32歳になって、人並みに苦労をして生きてきたが、やはり金は怖い。そして金は愛しい。生きることとお金を稼ぐことがリンクするようになって、確かにたくさんのことを知った。今の俺の哲学や思想は、ある意味ではこのアパートの一室に凝縮されていると言っていい。置いてある本や冷蔵庫の中身、家具、寝具、洗面道具や食器棚に、俺という人間の生き様はやはり滲み出ている。

今より少し先の日本。2020年東京オリンピックをピークに、景気の波は引き始め、日本の「ほころび」が顕わになり出した。人口は1億1000万人まで減少し、その1/3が高齢者。そのほころびは周辺からじわじわと、しかし確実に中心にも侵食しつつある。生活苦にあえぐ民衆は格差是正を求めるデモ活動を展開し始めた。

人口減の煽りを受けて空き家率は増加の一途を辿り、東京都内にもシャッターを下ろした商店街、無人のまま放置された空き家の集まる地区が生まれつつある。そこには失業者や浮浪者、不法滞在外国人などが集まり、独自のコミュニティを形成していた。
ある小説家は皮肉を込めて、その地域をこう呼んだ。「トーキョー・スラム」──。

成功した証券ウーマン・オガタ(=南果歩)は、別れた夫・ヤマネ(=山本享)との間に生まれた一人息子がしばしばトーキョー・スラムに出入りしていることを知り、20年振りにヤマネの営むラーメン屋を訪れる。しかしそこに、店はもうなかった……。

資本主義の未来は一体どうなる? お金って一体、何? 日本はこの先、どうなるの?
──あり得るかもしれない日本の未来を、壊れた家族が直面するお金と経済、そして愛の話を通じて描く、テアトル・ド・アナールの最新作です。

証券マンとして生きるオガタと、ラーメン屋として生きるヤマネ。2人の相容れない生き様を描いていたら、いつの間にか自分のことを書いていた。ラストシーンで2人は同じことを言う。それはもう、やはり、作家はどう逆立ちしたって、自分の知っていることしか書けないし、知ったかぶりで書くものに人の心を震わせるものなんてないからだ。だから書いた。

当然、昨年起きた我が人生の最大事件、離婚という奴も反映されている。果歩さんは結婚式に出てくれてるし、享さんは現場に手伝いに来ていた元妻と何度も顔を合わせているから、こういう芝居に巻き込まれてきっと複雑な心中でいらっしゃるだろうが、僕もベタベタするのは嫌いなので、ただ自分の知っている恋と別れを、他人ごとのように演出の喩え話に話すだけだ。二人も大人だから、キリッとした顔でそれを、聞いてくれている。

一箇所、スタッフ間で大いに盛り上がっているシーンがあって、ああしよう、こうもしようと悪ガキたちの悪巧みのようにあーだこーだとアイディアを出し合っているが、あそこは本当に劇場で見るのが楽しみだ。あのシーン、本当に俺の知り合い全員に見せたい。突き抜けた何か。突き抜けた何か。

ちなみに毎日、本当に疲労困憊している。優秀な俳優が多いので全く気が抜けないし、世代が違う人間が多いので、共通言語を作るのに時間がかかるのだ。演出家の仕事って何だろう? 最近少しずつ、わかってきた。

今日、一つ気がついたのは、すべての俳優は臆病なのだということだ。舞台とは生き様を丸裸にされる、逃げ場のない闘技場だ。衆目監視の中に置かれながら、台本にある言葉を使って生きる。間違えるのは怖いだろう。うまくいかないのも怖い。噛み合わないのも怖いし、失敗するのも怖い。僕が知っているいい俳優たちは、そう言えばことごとく臆病だ。それは舞台の怖さ、恐ろしさを身に沁みて知っているからだろう。臆病でない俳優なんて、どこにもいない。演出家やスタッフたちにできることは、もしかしたらその臆病を、少しでも和らげてやることなのかもしれない。

明日も早いし宿題がたくさんあるので寝ますが、観に来てくれよな、トーキョー・スラム・エンジェルス。たぶん、あなたの想像より面白いです。