PLAYNOTE 二兎社『兄帰る』

2013年08月31日

二兎社『兄帰る』

[演劇レビュー] 2013/08/31 01:13

思えばこの作品を初めて「見た」のは13~14年前だろうか。深夜の劇場中継で、見たんだった。笑いと人間愛に満ち足りた劇展開に魅了されつつ、ラストで冷や水ぶっかけるような超シニカルかつ残酷な現実世界へのプロテストをぶちかますこの作品に、僕はたちまち魅了されて、永井愛という劇作家を改めて偉大な人だと認識するように至ったんだと思う。すごい作品です。

9/1(日)まで、池袋芸術劇場シアターウェストにて。観ろよ。ごめんな、ご案内が遅れて。ただ、観ろよ。

お話のあらすじは、かつて中村家に破綻をもたらした問題児の兄・幸介が、弟夫妻の家に帰ってくるところから始まる。そこから描き出されるエゴイスティックな人間模様の、愛らしさと残酷さの絶妙なハーモニー。本当においしい和食とか、本当においしいカクテルとかが持っている、あの絶妙なハーモニーを、演劇でやらかしている。こればっかりは、観るか、読むか、してもらわないと、語り尽くせない。ああ、本当にいいお芝居だ。

僕は昨年、『くろねこちゃんとベージュねこちゃん』というお芝居を書くために、この作品を参考書籍として読み返し、改めて日常的なのに凄まじくシニカルで、リアリスティックなのに過激に人間の心理をえぐる、この作品の凄まじさに打ちのめされた。絶賛しているように聞こえるだろう? 馬鹿言っちゃいけない。絶賛しているんだもの。当然さ。これは、「ただの会話」が演劇にだけできる「理屈を超えた説得力」を持つ、極端に完璧に成立した劇形式が持つ感動を与えてくれる。

いいなぁ。いいなぁ。素晴らしいなぁ。演劇って、こういうことができるんだなぁ。そして、劇作家って、こういうことができるんだなぁ。と思うと、劇を書くということについて、劇作家の素晴らしさについて、改めて感動する。演出の素晴らしさとか、演劇の素晴らしさを感じることは多々ある。あるけれども劇作家の素晴らしさを感じさせてくれる劇作家は、僕にとっては今は永井愛しか生き残っていない。早く次の新作が観たいが、こういう再演もどんどん観たい。

もちろん僕もプロの演劇屋になったので、マイナス点を感じる箇所がないではない。ただ、それはもはや、フラットな、客観的なマイナス点なのか、僕個人の個人的な趣味嗜好によるマイナス点なのか、それすら判別がつかない。

若い人にこそ観に行って欲しい。何故ならこれは、正義に関する話だからだ。今の人間たちに足りないものは、正義だ。国家的な正義とか、国民的な正義とかじゃあない。あなたは何者なのか? という問いに答えることができる、あなたという人間を証明するための正義だ。自分だけがわかっている、自分はきちんと確信を持っていうことができる、この世界に対する真理。答え。指針。そういう正義。

正義なんかつまらない、儲からない、損ばかりする。そう思っているでしょう? そんなニヒリズムはこの劇の中にすでに書き込まれている。今に始まった悩みじゃない。じゃあ、現実に流されることが人のあるべき生き方なのか? そこんところをきちんと考え給え。本当、いろんな人にお見せしたい。ツアーもあちこち回るようだし、本当、いろんな人にお見せしたい。大好きな作品でした。