PLAYNOTE 舞台上で言葉を生み出す

2012年10月03日

舞台上で言葉を生み出す

[演劇メモ] 2012/10/03 00:59

関係ないですけど、げきぴあさんで『完全版・人間失格』稽古記録のブログ書いてます。なので、しばらくPLAYNOTEには、あんまり一般ウケしそうにないことを書こうと思います。

さて本題ですが、今回、『完全版・人間失格』の戯曲では、冒頭部分、こんな説明から入っています。

■凡例

── ダッシュ。言葉は見つかっているが、言い出す時機タイミングを伺っている、短い間。意識は主に、相手にある。
…… 三点リーダー。言葉を探している、短い間。意識は主に、自分にある。
/  スラッシュ。次の台詞が割り込む。
間  ポオズ。思考も、止まっている。
沈黙 サイレント。思考は、動いている。
☆  相対する同時多発会話の箇所を示す。この記号が現れた箇所で、次にこの記号が現れた箇所の台詞も発話される。
△  右に同じ。
◇  右に同じ。

ト書きは、間ではない。個別に「間」「沈黙」など指定されていない場合は、間を取らない。

最初の2行についてだけ、少し書いてみようと思うんです。

今回、演劇的に実験したいことはいくつかあるんだけど、最初の2つ、──と……で書いたことは、ここ最近の僕の関心事で、こいつを確実に実現させる演出的魔法はないものか、と、頭を捻り続けています。

──は、ダッシュ。言葉は見つかっているが、言い出す時機タイミングを伺っている、短い間。意識は主に、相手にある。
……は、三点リーダー。言葉を探している、短い間。意識は主に、自分にある。

と書いたけれど、文脈がわからなければちんぷんかんぷんであると思う。

要は、舞台上できちんと、言葉を生み出す苦悩、というものを、俳優の身体に落とし込みたい。言葉を生み出すせめぎあい、というものを、どうにか実現できないものか、と考えている。

それは別に、僕が作家だから言葉を生み出すのが大変だと思っていて、お前らもスラスラ読むんじゃない、ちったぁ考えて台詞を言え、なんて、そんな簡単な話じゃないんだ。それはただの作家の逆恨みだ。

人間は普段、言葉にならないものを、何とか言葉にしようとして、喋っている。そして喋る度に、自分の言葉の不出来さにあえぐし、喋る前には、どう言葉にしたものか、と言葉を中空から探そうとする。

例えばあなたが恋人に、「私のどこが好きなの?」と聞かれたとき。あっさり「ぜんぶ」とか言っちゃうスケコマシのことはほっといて、大抵、言葉を探すだろう。例えばあなたが誰かに、「××さんって、どういう人なの?」と聞かれたとき。あなたはどの言葉が一番適切か、脳内の辞書を必死でめくるだろう。例えばあなたが、「その料理って、どんな味なの?」と聞かれたとき。まったりとしていて、それでいて云々、と、わけのわからぬ言葉を並べて、何とか自分のイメージに近い言葉を作ろうとするだろう。

人間の会話では、そのコンマ数秒の間に、苦悩と葛藤がある。「あぁ、それはね、こういうことだよ」と、スラスラ答えられる場合もあれば、「……あぁ、それはね、つまり」と、ほんのコンマ数秒、言葉を探さなければ、喋れないことがある。この一瞬の「……」があるかないかで、僕が思うに、その人間がどういう人間なのか、全然違うんだな。

たいていの人が、自己紹介を求められたときにやっている、あの感じや、道順を説明したり、匂いや雰囲気を言葉で伝えようとしたときの、あの感じ。これも僕の言う言葉を生み出す「……」の苦悩と葛藤が混ざっているが、それ以上に、どうしたってわかり合えない人間同士が、それでも少しでもわかり合おうとして、あるいは自分を相手に伝えようとして、もがく、あがく、苦しむ、葛藤する、その一瞬の苦痛があるかないかで、その人間のスタンスがわかってしまうんだ。

台詞には力がない。台詞に力を与えることができるのは俳優だけだ。「あぁ、それはね、こういうことだよ」方式にさらりと発せられた言葉と、「……あぁ、それはね、つまり」と喘ぎながら紡がれた台詞とでは、全然意味が違う。「まぁおしかったかな」と「……まぁおしかったかな」は全然違う。これは、わかりやすい例だけど、もっともっと短い、コンマ数秒の葛藤を、きちんと台詞の中に入れていきたいんだ。「……」だらけになっちゃうから、多用は避けているけれど。

──の用法は、これは完全に俺オリジナルで今回使っているけれど、例えば判定にもつれこんだ決勝戦での「勝者、……赤コーナー、○○××!」と、会議室ですでに決められたオーディション結果を発表するときの「優勝は、──39番、○○××さん!」との違い。が、一番説明としては近いと思う。意識が自分にある。というのは、必死に脳内辞書をめくっている時間。意識が相手にある。というのは、言葉はもう生まれていて、言い出すタイミングや、強さを探ったり、相手をじっと見ている時間だ。

わかりやすいようにドラゴンボールにたとえてみる。

──私の戦闘力は、53万です。(意識は相手にある)
……やっておしまいなさい、ザーボンさん、ドドリアさん。(考えている、意識は自分にある)
お…俺は宇宙一なんだ…! だから…だから貴様はこの俺の手によって、死ななければならない…!(言葉を探している、意識は自分にある)

──がタメ、……が言葉を探すあえぎ、なのかもしれない。この、「……」を、適切かつ確実に設定できるといいのだが。

安定感ありつつ、しかしその場で言葉を生み出しているような台詞術、というのを、簡単に説明できて、実践できる、ワークショップ用のプログラムとか随分考えているんだけど、今のところあまりいいものが見つかっていない。今回もこれについて考えることになるだろう。

「え? そんな大した違いなの?」
「そんなの簡単じゃん」

と思っている人には、多分、意味が十分に伝わりきっていないのだと思う。その場で生まれた言葉と、用意された言葉の違い。まだまだ考える。