PLAYNOTE 橋下伝説と競争原理に関する雑感

2012年07月18日

橋下伝説と競争原理に関する雑感

[トピックス] 2012/07/18 03:13

橋下市長ってさ、いろいろ頭に来ることもあるんだけど、見てると何か同情するような、一緒に飲みに行ってみたいような、彼の本音を聞き出してみたいような、変な感じがあるんだな。平たく言うと、どういう人なのか興味があるって言うか。

特にあの、競争、競争言うところ。

公務員制度についても、教育制度についても、文化政策についても、二言目には競争、競争、自由競争って言うでしょう。彼は頭の悪い人じゃないから、あれだけ連発しているのはある種の勝算があって言っているんだろうけど、あの連呼っぷりは打算や計算だけでやれるもんじゃない。いくら有利な発言だからと言って、自分が信じてもいない言葉をあれだけ連呼しちゃうほど、悪い人じゃないと思うし。

2chとかで有名なコピペに、「橋下伝説」ってのがあるんだけど、ご存知かしら。橋下さんの人生の軌跡を辿ったエピソード集なんだけど。

父が他界母子家庭に。
→大阪に戻るも住む所がなく生活保護受けるため同○地区へ。
→生活苦しくバイトづけ。当然イジメられフルボッコ。これじゃいかんと番長を味方につけるために一緒のラグビー部へ。
→日本代表に選ばれラグビーへ明け暮れるも、大阪1、2を争う進学校の為ついていけずに落ちこぼれる。
→受験失敗。片思いの奥さんは友達と付き合った。
→一浪し早稲田へ。奥さん友達と別れる。トライ!! OK!
→奥さん大阪の大学と東京通い半同棲、バイトしながら大学生活。
→大学生ながら事業を起こすが、不渡り掴まされ多額の借金。
→弁護士めざす、二期で受かる。
→卒業し大阪に戻る。異例の早さで開業し結婚。仕事がなかなかなく、家族の為に危ない橋を渡り独自のセンスで仕事をこなす。仕事は増え、子供も増え、再婚した両親、嫁の両親、妹夫婦に同じ場所にマンションを買ってあげる。

後はご存知の通り。

日本におけるアメリカンドリームって言うか、ヒーロー物語みたいで、さすがにすげぇなって思う。だけどここでは「やっぱ橋下さん半端ねぇっすわ」なんてことが書きたいんじゃなくて。

上掲の通り、橋下さんは、常に戦って勝ち、戦って勝ち、負けても立ち上がり再度戦って勝つことを繰り返して、今の自分を築いてきた、いわば競争社会の申し子みたいな人だってこと。そんな彼が競争原理の正しさを固く信じているのは当然のことだ。

人間はいっつも、自分の成功談を唯一の正解みたいに話したがる。人付き合いに命をかけて這い上がったサラリーマンは「社会で一番大事なのは、結局はコミュニケーション能力だよ」なんて言いたがるし、転職を繰り返しながらキャリアアップを繰り返してきたOLは「時間は自分への投資、そこだけはケチらなかったから今の私があるの」なんて言いたがるし、周囲がぽこぽこ辞めてく中で会社に留まり続けて出世した部長さんは「石の上にも三年さ」なんて言いたがるし、農薬を拒み、有機農業にこだわり抜いて成功したリンゴ農家の人は「おいしいリンゴを作れるのは、真心だけです」なんて言いたがるし、金をうならせて仕事に勝ち抜き幸福も贅沢も買ってきたビジネスマンは「金は悪いもんじゃない」なんて言いたがるし、俺みたいな貧乏アーティストは「スポーツカーとか一軒家より、一つでもいい作品を残したい」なんて言いたがるし、言いたがるし、言いたがるし。自分に有利な発言をする、ポジショントークみたいな意味じゃなくてね。

やっぱ人って弱いから、自分の人生を肯定してあげられるような言葉が自然と口から出てくるようにできてんだ。私はここまできた。こうやって成功してきた。それはその人にとって、宝であり、柱であり、絶対的な真理なんだ。

太鼓持ちでのし上がった人は実力主義の残酷さを嫌うだろうし、腕一本でのし上がってきたような一匹狼には八方美人は軽薄に映る。どちらも自分のやり方が、一番カッコよくって、一番強いと思ってる。そう考えないと、人間生きていけないもの。

改めて橋下市長の経歴を見てみると、まぁすげぇよな。普通の人だったら、途中で5・6回心が折れてるんじゃないかって思う。俺的には、友達と付き合い始めた奥さんを待ち続けて別れたからトライ!! とか、かなりキツいし、大学生ながら事業を起こすが、不渡り掴まされ多額の借金、とかのくだりも相当しんどい。

(だけど彼が戦い続けたのは、彼を戦いに駆り立てたのは何だったんだろうって考えると、ちょっと興味が沸く。幼少期の苦労にだけ理由を求めるのは、ちょっと安易だろうし。)

そんな、戦い続けて勝ち続けた彼が、戦ってねぇ奴見て「戦えよ」と言いたくなるのは、すげーわかる。努力。そう、チャンスは平等にあるんだから、努力さえすれば誰でも這い上がれる。俺は、何度も何度も這い上がってきた。金がなくても、親がなくても、チャンスはいくらでもある、努力はいくらでもできる。だって俺は、身一つで、あんなどん底から這い上がってきたんだぜ? ってさ。

俺も正直、競争原理の中で戦い続けてきたタイプの人間なので、橋下さんの気持ちはわからんでもないし、若い頃なまけてたりサボってたりした人間や、現在進行形でズルしてたり適当やらかしてる人間は死ねばいい、と、言いたくなっちゃう気持ちはわかる。はっきり書くと、俺もしょっちゅう、そういうこと考えてる。だから彼には同族嫌悪みたいなものを感じるんだな。

ただ彼にとっては、途中で心が折れちゃう人間は、弱くて怠惰だけの人間に見えているんじゃないかしら。上掲の橋下伝説のどっかで彼の心が折れてたら、間違いなく彼も弱くて怠惰な側の人間に陥ってたはずなのに。

今、橋下さんは、公務員や教師、あと文楽とか、そういうとこを目の敵にして政策運営をやっている。うまいことやったもんだ。仮想敵を作れば支持率が上がるなんてのは、戦中の日本や小泉劇場の例を引かずともすぐわかる理屈だし。

ただ、競争原理の相容れない現場もあるということは、橋下さんと言うよりは、我々が覚えておかないといかんと思う。教育や文化の現場は完全な競争原理じゃ説明がつかないことはわんさかあるし、そもそも経済の世界だって競争原理だけで回るんなら、こんな長いデフレもとっくに脱却してるんじゃないかしら。

それに、日本人は本当に競争原理をやるのが下手くそで、すーぐ足の引っ張り合いや、自己保身に走りやがる。個人的に印象深いエピソードを一つ紹介しとく。

日本マクドナルドが定年制を復活 「成果主義」思惑はずれ若手育たず

 日本マクドナルドは2012年1月から、60歳定年制を復活する。同社は年功序列の人事・賃金制度の廃止など、成果主義の人事体系を目指しており、その一環として06年に定年制を廃止していた。

(中略)

 定年制の廃止は、ベテラン社員の経験やノウハウ、スキルが活かされるメリットがある。しかし同社によると、経験豊かなベテラン社員が自身の成果をあげることを優先してしまい、若手社員の育成が疎かになってしまったという。ベテラン社員のもつノウハウなどの若手社員への伝承がうまく進まなかったと反省している。

「ベテランが職務に取り組むうえで、仕事の成果と人材育成のバランスのとり方が難しく、仕事の優先順位が崩れてしまった。(定年制を復活することで)人を育てていく企業文化を再度築き上げる」

J-CASTニュースより

部下が育っちゃ、俺が損する。すげー馬鹿馬鹿しい話だけど、実際あるんだよな、こういうこと。人間だもの。

働いてない公務員を叩き終わった後に、彼が叩くのは何だろうか。競争原理の先にある社会は、どんなだろうか。誰もが橋下伝説並みに頑張らないと息もできない、石投げられる、そういう社会だとしたら、……俺はいいけど、俺の家族や子供らは、そういう世界に放り込みたくないと思う。競争原理も使い方次第では特効薬にもなるだろう。でも、負けちまった奴や、本当に弱い人に手を差し伸べてやれるやり方を、考えてやりたい。

橋下さん、あんたはすげーよ。でも、あんたがすげーからできたんであって、大抵の人にそれは、できない。働かない公務員や助成金ゴロをぶっつぶせ、というのは賛同する。でも、競争だけで世の中がよくなるわけがない。たった二文字のスローガンに、世界が染まってしまいませんように。