PLAYNOTE SPAC『ふじのくに⇄せかい演劇祭2012』が最高であった

2012年06月04日

SPAC『ふじのくに⇄せかい演劇祭2012』が最高であった

[演劇レビュー] 2012/06/04 17:00
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3年くらい前から友人と言うか親友が一人制作として働いていて、いいよいいよ本当にいいよ是非おいでよ来てね今年こそと毎年誘われていたのだが、ずっと何かしら本番と重なっていて行けなかった、SPACこと静岡舞台芸術センター主催による演劇祭『ふじのくに⇄せかい演劇祭2012』へ行ってきたんだ。

ラインナップもクオリティもホスピタリティも、それから演劇業界への意義・貢献としても、素晴らしいフェスティバルだった。あと安かった。結論としては、日本で演劇をやってる連中はみんな行くべきだし、演劇を愛してくれるお客様方は、この本当の意味での演劇愛に満ちたフェスティバルに是非足をお運び下さいますよう。いいことあるよ!

いざ静岡

まず周知したいのは、渋谷から送迎バスが出ているので、往復なんと2,000円で行ける、ということ。片道3.5時間は寝ちまえばすぐ。劇場のすぐ目の前まで寄せてくれるから、本当にあっという間でありました。

大赤字であるだろうにも関わらず、こんな送迎サービスやってくれてんの、愛だよな。

3つ観た

まず主劇場で芸術総監督・宮城聰演出による『ペール・ギュント』(原作:ヘンリク・イプセン)を観劇。大劇場の空間を、視覚的にも聴覚的にもフルに使い切った壮大な演出にうっとり。すげぇいいもん観てるなこれ、と思う。イプセンの原作を明治期の日本に重ね合わせ、日本という国のアイデンティティを問う、なんて煽り文句には、観劇前には大言壮語を感じもしたが、観劇後は「おみそれしました」と平身低頭。堅苦しくなく見やすくて、でも気づくと神秘的で精神的な暗い廊下に迷い込むようで、あまりにも見事な一品であった。

その後、オーストリアのパフォーマーにして人形作家、ティム・ワッツなる若者が演出・出演する1人芝居『アルヴィン・スプートニクの深海探検』を観劇。「行く以上は全部見る」みたいな貧乏根性で埋めたスケジュールだったが、俺の友達全員に見せたい、俺の家族にも子供にも、みんなに見せたい、と思える傑作だった。スクリーンに映写されたアニメと、人形と、俳優の声と身体と、光と、音と、が混ざり合う、何だろうこれ、拡張されメディアミックス人形劇みたいなユニークなスタイルだったが、絵本のような優しくも美しい物語と、素朴だけど魔法のような演出で開始5分で泣きそうになった。もっかい観たい。やっぱ世界は広いなぁ。

続いて宮城聰の代表作の1つとも言われる『マハーバーラタ 〜ナラ王の冒険〜』を野外劇場で観劇。舞台芸術公園とかいう山の上にあるどでかい敷地の真ん中で、原生林の生い茂る中、繰り広げられるあまりに美しい野外劇。実は俺、これ日本初演を観てるんだけど、今回はロケーションが醸し出す神的な雰囲気だとか、宵闇の中に舞う真っ白い衣装の印象だとか、圧倒的に今回の方が衝撃度高く脳裏にこびりついた。

これ全部観ても、1万円です。優待や学割があればもっと安く観れるし、質量的には2万円払えって言われてもおかしくないレベル。

とにかくいずれも演劇的に大変に「難しい」ことをやっている。技術的にも、規模的にも、興行的にも、内容的にも。同業者ゆえ、それなりにテクニカル面についても資金繰りについてもある程度予想がつくことがたくさんあるが、圧倒的にハイレベルな演劇芸術をやっているというのがよくわかる。

東京の小劇場は、やっぱりレベルが低いんだな、ということも痛感する。世界レベルの作品を観た後だと、どうしてもね。いいエネルギー補給になった。

お楽しみいっぱい

終演後はそのまま山頂のフェスティバル・バーで地元の人々が作ったお料理なんか頂いて、それがどれも超おいしくって、いろんな人と話して飲んで、出演者と写真撮ったりする人もいて、「これこそ演劇祭」って感じを十全に満喫する。カレーがガチで美味かったし、地酒は瓶ごと持って帰りたいぐらいだったし、久々の再会、K・Sとの熱い演劇トークも刺激的だった。

翌日は「せっかくSPACまで来てくれたんだから、静岡いいとこ案内するよ!」という逆にこちらが恐縮するくらいのおもてなしハートによって企画されたSPACプロデュース・静岡観光バスツアーに参加。今年から始まった企画らしいけど、国宝の久能山東照宮と「すんぷ夢ひろば」って言うSPAリゾート、平たく言うと温泉に連れてってくれた。入場料別途だけど、バス代ぜんぶ無料です。やり過ぎだよSPAC。静岡が好きになっちゃうから、やめてくれよ。

俺は温泉入る前に食った静岡おでんに完全に心を奪われた。連れてった妻は「温泉! 温泉!」と言って天に両手を差し出し喜びを表現していた。久能山東照宮も厳かで静かで大変よかった。

これも、静岡まで来たけど、足もないし土地勘もない、というまさに俺たちのような客のために企画されたものらしい。どこまでやるんだ、SPAC。バスはそのまま東京へ帰るバスへと接続され、一直線に帰京。あんまりにも出来過ぎてる。観光バスツアーとしても一般に売り出していいんじゃねぇか、ってくらい。

SPACの意義を、讃えとく

「もっと東京の人に来て欲しい」

と、SPACの友人は言っていた。俺も、もっと行けばいい、と心から念じる。

まずこれだけ上質な演劇作品・10作品を、世界各国から集め、静岡で上演・紹介しているということ。東京・地方の文化格差をぎゅいんと縮め、かつ俺のような東京者にまで「静岡は粋だね」と尊敬の念を抱かせる、並々ならぬ業績だ。本当なら4週間ぜんぶ行きたいくらい。プログラムはすべて、宮城聰・芸術総監督によって選ばれているらしく、「サトシが言うなら」みたいな感じで来てくれる海外劇団もあるみたい。NODA MAPの『THE BEE』もこの演劇祭で上演されるね。芸術監督がいる、ということの意義を、教科書通り、いや、教科書以上によく教えてくれる、日本最高峰の劇場の一つだ。

これが静岡の演劇ファンに、あるいは静岡でこれから演劇やりたいって思ってる若者どもに、与える夢と希望は計り知れないことだよ。未だに「演劇って風呂なしアパート住んで、コンビニで夜勤バイトして、チケットノルマ何万も納めて、でもって一生売れないし友達しか観に来ない、地下のジメジメした劇場で、何か坊主頭で白塗りの怖いオッサンがギャーギャー言ってる、アレでしょう」なんて思ってる人って(今の例は言い過ぎだとしても)結構な数、いるんだよね。でも、自分の生まれ育った県に、世界最高峰の芸術作品が集まっていて、おまけに劇場には制作者だけじゃなくて俳優も所属して、お芝居やってご飯食べてる、ってビジョンを示すことは、演劇界にとって強い強い力になっているはずだ。

それに俺は、宮城聰が変わっていない、ということがもう一つ嬉しい。12年前くらいからちょくちょくク・ナウカは観ていたけれど、当時から唯一無二の個性を持った、アクの強い演劇をやっていて、正直よくわからんって時もあったし、ペール・ギュントだって決してキャッチーでポップな大衆娯楽なんかじゃない。静岡の宮城さんは、変わらずやはりアーティスト・宮城聰であった。静岡へ行き、腰を据えて創作している宮城聰が、「静岡だからわかりやすく」とか「公共劇場だからわかりやすく」とかじゃなくて、真摯に自分のアートを追求している姿勢は、手がもげるまで拍手喝采して讃えたい。もっとも、「静岡だからわかりやすく」とか「公共劇場だからわかりやすく」なんてスタンスでお芝居やってたら、国際的な評価は下がる一方だろうし、観客にも見抜かれるだろう。

何それ、何かべた褒めじゃね? って思われるかもしれないけど、そうなんです、べた褒めだったんです。今回のSPAC行き。なるほど、日本の演劇はこうやって少しずつよくなっていくんだ、ということが、本当によくわかるフェスティバルだったし、こいつらみんな死ぬ気でやってるなってことがよくわかる作品と制作だったし、同時に、まぁ表向きにはあまり書かれないだろうし、俺も聞いたはいいけど書けないこともある、とにかく茨の道で、誰もやったことない遠い道で、そして意義ある道をSPACは突き進んでいるのだ、ということもよくわかった。

僕の絶賛の理由が知りたい人は、是非今年、SPACへ。来年でもいいよ。来年もきっと、あいつらはやらかしてると思う。