PLAYNOTE モリー・スウィーニー稽古中間報告

2011年05月30日

モリー・スウィーニー稽古中間報告

[公演活動] 2011/05/30 08:27

モリー・スウィーニーの稽古が佳境を迎えている。南果歩が笑い、相島一之が叫び、小林顕作が真顔になる。一言で言って順調、すでに荒通しも終えて早くも仕上げの段階に入ってきた。

稽古はいつも居合い抜きのような気分でいる。稽古見学に来た某照明家が、出演者たちのことを「立ってるだけで面白い人たち」などと評していたが、全くその通りで、魅力にあふれた人々なのだが、さすがに経験値の重さが違うから、迂闊なことを言えばすぐ突っ込まれるし、反撃される。

基本的には笑いに満ちたユルい稽古場なんだが、居合い抜きのようだ。

ブライアン・フリールの『モリー・スウィーニー』は、モノローグによって構成されたドラマだ。スタイルの上での特徴がその作品の本質である、と考える僕にとって、このモノローグの魅力をどう引き出すか、あるいは裏切るかが常に演出上の問題になってくる。

モノローグ。何と訳せばいいだろう? 独白。独り語り。独り言。どれも似ているようで微妙に違う。辞書的には「独白」が正解らしいが、ダイアローグの対義語であることを考えると、独り語りや独り言もあながち間違ってはいない。今回、「語りかける」という点に常に軸足を置いて、演出をしているつもりだ。

また、40年間目の見えなかったモリーが、初めて光を見る、という設定もやはりいつまでも課題であり続けている。目の見えない人は世の中にもたくさんいるし、映画にも演劇にもたくさん出てくる。果歩さんも過去に一度盲目の女性を演じた経験があるそうだ。おかげで前半の稽古はたやすい。こっちがごちゃごちゃ言わなくても、俳優の中に引き出しがあるから、演技指導なんか必要ない。演出に専念していられる。

しかし、40年間目の見えなかった後ではじめて光を見る人、という人物は世の中にはそうそういないし(20例とちょっと、くらいらしい)、映画や演劇にもほとんど出てこない。俺の知る限りでは、エッセイが一本、小説が一本、映画が一本、演劇が二本。演劇作品二本のうち一本が『モリー・スウィーニー』、もう一本が拙作『小部屋の中のマリー』だ。ほとんどゼロから作っている。入念なリサーチと、想像力だけが頼りだ。

いくつか紹介。

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本の紹介:開眼手術を受けた先天性盲人は、何も見て取れない手術直後の状態から、色・大きさ・形等の物の属性をどう把握してゆくのか。綿密な観察と系統だった実験で視知覚の謎に迫り、視覚障害者の能力開発・形成の手立てを探る。

結構専門的な内容だが、アカデミックな裏付けのある本なので信用が置ける。

本の紹介:なぜものが見えるのか? また、視覚・認知機能に障害のある人たちには、この世界がどのように見えているのか? その代表的な症例から「見る」働きを解明。認知心理学と脳・神経科学をつなぐ最先端の科学読み物。

本の最後の方に少しだけ先天盲開眼者のエピソードあり。

本の紹介:マイク・メイはいつも体当たりで生きてきた。3歳で視力を失った後も、実業家として成功し、温かな家族に恵まれ、幸せな暮らしを送ってきた。そんなメイに、46歳のとき、驚くべきニュースがもたらされる。幹細胞移植という目の手術を受ければ、「視力を取り戻せるかもしれない」というのだ。……

結構な分量のある小説だが、すくすく読み進められる。お話としても面白いが、実話なのでかなり参考になった。

本の紹介:すべてが白黒に見える全色盲に陥った画家、激しいチックを起こすトゥレット症候群の外科医、「わたしは火星の人類学者のようだ」と漏らす自閉症の動物学者…脳神経科医サックスは、患者たちが抱える脳の病を単なる障害としては見ない。それらは揺るぎないアイデンティティと類まれな創造力の源なのだ。往診=交流を通じて、不可思議な人生を歩む彼らの姿を描か出し、人間存在の可能性を謳った驚きと感動の医学エッセイ。

『モリー・スウィーニー』の着想のもとになったというエッセイが収録されている。映画『レナードの朝』の原作者としても有名な脳神経学者・オリバー・サックス博士の著書。

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『モリー・スウィーニー』では、語りの魅力だけでなく、モリーが見た世界を視覚的に表現することにも挑戦している。これについてはすでに稽古場にて実験を終え、ある程度の勝算をはじき出してはいるが、最後の勝負は劇場で。小屋入りまで、おお、あと一週間ちょっとか。頑張ろう。

稽古場に行くとスタッフが10人以上へばりついてる当たり前で、打ち合わせをするだけでも大騒ぎ、衣裳にせよ美術にせよ照明にせよ音響にせよ普段とは随分違う体験をしてはいるが、今のところ、うまく立ち回れている自信はある。

ご予約なんかはこちらから。そろそろ売り止めの回が出始めるようだよ。

http://setagaya-pt.jp/theater_info/2011/06/post_229.html