PLAYNOTE 人間失格な人々

2010年10月13日

人間失格な人々

[公演活動] 2010/10/13 19:05

Project BUNGAKU『人間失格 - 太宰治』終了しましたの続き。役者紹介をするよ!

順不同な。ウェブアルバムに表示された順だから他意はない。

塚越健一 「葉蔵」役

昨年のDULL-COLORED POP『ブランヴィリエ侯爵夫人』にパメラという女中の役で出演しており、それから世話になりっぱなしで、その後、あちこち客演していますが、ちくしょう、俺が一番うまく塚越健一を使えるんだ、的な逆襲をしたかった。そうして今回、葉蔵の裏の顔、ということで、なるべくイメージの遠い人を、と思い、四十絡みのおっさんと二十代中盤の女子が二人一役という滅茶苦茶な配役が完成したわけです。

元々花組芝居にいたことがあったり歌舞伎やシェイクスピア劇がえらい好きだったこともあり、身体性も声の出方も昨今流行りの現代口語的な潮流とはまるで異なるものを持っており、そこら辺の違和感・異物感をリミックスすることで、葉蔵の怪物めいた裏表を出そうとしました。

俳優としてはひたすらに腰が低く真面目なのです。僕がダメ出しして「はい」「はい」と目を見て頷いているときは、ぶん殴りたくなります。おいおい、一回りも年の違う俺の言葉をそんなに真剣に聞くなんて、ちょっとスジを通し過ぎじゃねーか、このやろう、ということで、殴りたくもなるのですが、この辺の感覚は誰にもわからない。ただ、まぁ並大抵のことではへこたれないであろう、強い演劇信念を持った人間なので、この先もなぶり続けようと思います。

彼へのオファーを考えている人は、人間的な意味で心配する必要は全くないけれど、彼をきちんと乗りこなしてやる、そういう強い意志を持ってオファーするといいと思います。高い要求を突き付け続けることで、より演劇を体得していくに違いない、鋼の男です。

ブログ:塚越健一のキリキリ舞いな少年の晩年。

菅谷和美(野鳩) 親戚・くそガキ・台所女・ほか役

あれこれ出ているけれど、一番印象的なのは、中盤で自分でドアを開けて口効果音で
「がちゃっ! 来ちゃった♪」
と言って料理を始めたり大根ぶん投げたり胸を揉まれたりするシーンだと思います。このシーンを見るのが稽古中でも本番でも、本当に好きでした。

と言うのも、「がちゃっ! 来ちゃった♪」なんて台詞、台本にはないし、大根ぶん投げるのも台本にはないし、エプロンも台本にはないし、胸を揉まれるくだりも当然台本にない。ぜんぶ、稽古場でのセッションで生まれたもの、というか、菅谷さんがあんまりにも面白すぎてあれこれ浮かんできたことです。俳優が演劇を豊かにする、ということを、ある意味先陣を切ってやってくれた感じがする。彼女がいてくれたおかげで、この物語の陰惨さは目に見えて軽くなり、僕のやりたかったポップな人間失格に圧倒的に近づけた印象がある。助けられた。

演出家にインスピレーションを与える、演出家に選択肢を与える、そういうことができる俳優さんです。本番前、自分の台詞をすべて通しながら、動きまでその場で動いて確認しており、自分の身体に自覚的だからこそああいうコミカルで器用な動きができるんだろうな。そして、自分の身体性を裏切らない演技をする人なので、背伸びもしなければ隠しもしない人なので、エチュードや会話も観ていて大変心地がいい。今回は大根を投げる姿があまりに印象的だったけれど、会話劇でまたご一緒してみたい。大根を投げるシーンのある会話劇だとなお良いが、なくてもこの人は、その場に存在しているだけで十分面白いしキュートだ。

ハマカワフミエ(国道五十八号戦線) くそガキ・くそガキ・ヒモ女・ほか役

いろいろやっていたが、途中で黒い下着の上に男物のワイシャツだけ羽織って耳掃除していたあいつです。あのシーンは紛糾しました。衣裳を一体どうするか、というところでとにかく僕と演出部で紛糾し、あれこれ着せてみた結果、「もういっそワイシャツ一枚着せて『部屋とYシャツと私』かけとけば成立するんじゃねぇか」という俺の乱暴な一言からその線に決まり、しかし『部屋とYシャツと私』を流さなくても十分に場面を成立させた女です。勝気そうに見えて、ああいう報われない女の役は割と似合うんだろうなぁ。

アフタートークゲストとして来てくれた高野しのぶさんからは、「ハマカワフミエちゃんがワイシャツだったのがすごくよかった」「エッチな意味じゃなくて、谷くんは女の子が一番かわいく見える見せ方をわかっている」「伊達に女で痛い目見てない」などと全く想像しない方向からの賞賛を頂いたが、あれにはハッとした。女性の目から見て嫌らしくなく、むしろ可愛らしく見えていたなら安心するし、「ただの思いつき」がある意味では演出においては一番強く、確かである場合が多いということを確認できた気がする。

ちいちゃくてグラマーで可愛いのでアイドル的な使い方をされる場合が多いようだが、本当は奥歯をギリギリ噛みしめて歯茎から血をダラダラ流しながら「それでもあなたを愛してる、だから殺す」みたいな台詞を言うのがとても似合う、と言うか、そういう痛さ全開の台詞を言わせても歯が浮かない魔力を持った女優なので、是非そういう役でまた観てみたい。何だかんだ言って僕の芝居において客演さんでは一番出演回数が多い人だと思う。

ブログ:ドツペルゲンガア

湯舟すぴか 西山さん・家庭教師・ソープ嬢・ほか役

葉蔵にセクハラする家庭教師の役とソープ嬢、ほか数役やっていました。西山さんという誰も覚えていないであろう大庭先生の後援会長の役が個人的には好きでしたが、うん、誰も覚えていないよね。

容姿はすらっと大人っぽいのにまだ20代前半なので、この先が大変楽しみ。立ち姿が美しいのだけれど、それは現代の俳優にとっては重要なことなんだよ。かつては「一声二顔三姿」なんて言ったもんだが、それは照明条件が悪く(ローソクだった)、声と役者絵で人気に火がついた江戸時代の歌舞伎俳優の話で、今はかなり「姿」の比重が高くなっている。ルックスの良し悪し、というような安っぽい意味ではなく、姿である。舞台上に立っているだけなのにぶん殴りたくなる奴っているよね。お前出てくるな、帰れ、みたいな。そういうだらしなさ、華のなさと無縁であるのがいい。

まだ若く経験もないはずなのに、そういう堂々たる立ち姿を持っている、という点がまず俳優としての必要条件を満たしており、かつ、お芝居のために仕事やめちゃうくらい貪欲なので、この先に期待。自分自身を舞台上に持ち込む、というスキルは既に持っているようなので、次は自分自身を舞台上で捨てる、というスキルを手に入れると、ぐっと存在感が増しそうで怖い存在です。いやー、三年後とかにはどうなってるかわからんよ。

Twitter:湯舟すぴか@市ヶ谷アウトレットスクウェア (sea_horse_) on Twitter

大原研二(Theatre 劇団子) お父さん・堀木・ほか役

物語前半で葉蔵のお父さん役、中盤以降から堀木というハンチング帽を被った巨漢の友人をやっていた人です。バカの堀木、と呼ばれて、本当にバカなことばかりやっていた人です。最後に葉蔵の奥さんを寝とって、80%裸になっていた人です。

この人は凄いですよ。やっぱりコメディを長くやるといろんな反射神経がつくんだろうか。人柄に愛嬌があるから一緒にいても稽古をしてても舞台上にいるのを観てても楽しいし、コミカルな誇張だけでなく一対一の対話でもきちんと相手の呼吸を掴んでくるし、声が太くて居方がどっしりしているので古典劇なんかをやらせても似合いそうな、ちょっと弱点が見つからない人です。もちろん俳優さんなので配役・起用の仕方次第では輝きを損なうこともあるだろうけど、まぁマルチプレイヤー。

そういうスキル的・愛嬌的なことだけでなく、稽古場にいて、一歩引いていつつ、演出家や主演に一歩譲りつつも、そこで虎視眈々とチャンスを狙い、かつ自分の頭できちんと思考する、現場全体にいい影響・効果を及ぼす意味でも素晴らしい。今回の現場では最終的に「舞台上で思考・判断する俳優」というのが一つのキーワードになったんだが、それを真っ先にやっていた、やれていた人で、まぁ経験値というのは貯めるに限るな、と思うのです。

この写真はちょっとカッコ良すぎると思いますけど。

公式サイト:大原研二 【役者 脚本家 演出家 小説駅伝】

櫻井竜 兄ちゃん・竹一・ほか役

あの印象的な「さっきの、わざとだろ、大庭」「わざとやった、わざ、わざ」と言って葉蔵を恐怖のどん底に突き落とす大命を担った座組の最年少。竹一をやっていた男です。

23才だったかしら、とにかく若いのだけれど、まぁ判断力のある男で、自分を見失うことがなく、着々と、コツコツと、芝居をしてくる男です。一番ミス率が少なかった気さえするな。それはスタンバイをきちんとすることだったり、イメージトレーニングをきちんとすることだったり、そういうところで培われている、言わば努力の賜物なのだろうけれど、時間さえあれば稽古場や楽屋の隅で台詞を返し続けている姿には、感動のあまり、コーヒーでもぶっ掛けてやろうかと思ったくらいです。

やっぱり、現場に一人、そういうストイックな奴がいると、締まる。俺たちもうかうかしてらんねーな、的な空気が自然と流れる。本来は演出家がそういう空気を作るために、適度に怒ったり怒鳴ったりぶん殴ったりしなければならないのですが、彼がいるとあんまりそういう必要もなく、自然と一座が前向きになっていて、そういう縁の下の力持ちでもありました。

座組女子の間では一番のイケメンであるという意見が出るほど整った顔をしていますが、演出家を入れたら二番なので、そこは今後改善の余地があると思います。あとこの写真はちょっとカッコ良すぎると思います。

ブログ:壱拾参ドーロ(タイトル変わってるかも)

百花亜希 親戚・くそガキ・処女(ひまわり女)・ほか役

来ました。物語中盤で頭にひまわりを付けて登場し、太宰治的世界観を一発でぶち壊してくれた彼女です。ヒップアタックとかしてたな。

意外にも今回で三回目のお手合わせなのだが、あれもやらせてみたい、これもやらせてみたいと演出欲の耐えない人だ。それは単に演劇に対して真剣だとかルックスが超好みだとかそういうことだけでなく、本人に引き出しが多くて、あれをやっても、これをやっても違う顔を見せてくる、しかしどれも本人に馴染んでいる、そういうまさに「俳優」的な仕事ができるからなんだぜ。

であるから今回、中盤で無垢の愛情を見せたかと思ったら、その後浮気発覚であまりに汚い女の性を見せつけるという役を彼女が担ったのは今考えれば至極至当であるように思う。それだけ表情や体の引き出しが多いのだ。『ブランヴィリエ侯爵夫人』では影の主役、と言うか真の主役のような役をやり、ジェットラグ『幸せを踏みにじる幸せ』でも冒頭を飾ってラストを締める難役を任せ、今回これ、というのは本当に、2009年~2010年の僕の演劇のまさにミューズであったと言って過言ではない、うんぬんかんぬん。

あんまり褒めると内輪褒めみたいになって気持ち悪いのでこの辺でやめとくね。しかしこの写真は可愛すぎると思いますけど。

ブログ:☆☆注文の多い百花店☆☆

三嶋義信 親戚・兄弟・ヒラメ役・ほか

一番目立つのは物語後半で葉蔵に説教しに出てきたおっさん、ヒラメと呼ばれていた男をやっていたとこかしら。ジャケットを着て、週刊ポストを持って、ぐるぐる回っていた奴です。

何か見た目は悪タレだし第一印象はどこか斜に構えていて気に入らねぇし、ちょっと嫌な奴あるいは怖い奴に見え勝ちですが、えぇ、その印象は別に外れていません。要は、そういうクセのある役を振ると輝く俳優なんだな。演技に対しては研究熱心で、自分から「自主稽古やらせて下さい」なんて言い出してくるほど真剣なので、僕より二つ三つ歳上のはずなのに、演劇をやる上で同士と言うか仲間意識を持てていい奴なんだ。

あとはやっぱり声がとてもいいね。ヒラメの配役には困り果てていて、だから今回ほぼ唯一当て書きと言うか配役イメージがある状態でオファーした人なのだが、あの通る声、低くて艶のある声がとてもいい。自分の演劇はやはり音を大事にしているようだから、相性がいいんだと思います。

まぁこの写真はちょっと爽やか過ぎて逆に胡散臭いと思いますけど。

ブログ:パティシエもどきの大冒険

コロちゃん(柿喰う客) 葉蔵役

そもそも彼女抜きにしては成立し得ない翻案プランだったので、まず何よりもニンのあった配役であることは当然。以前から何度も観ているけれど、適役が見つかってこそオファーができるので、『人間失格』をやることになってむしろよかった、出会えてよかった。葉蔵役は他に考えられません。

しかしそれ以上に、いやー、ガッツのある子で、真面目な子で、誰より真剣に、という言葉を使っても誰も反論しないであろうってくらい、演劇に対して真摯だ。貪欲だ。経験値があって、華があって、人気もあって、その上、真摯で貪欲なわけだから、ちょっと並大抵の人には太刀打ちできない。「おれ絶対いい役者になるし」と思っている若者どもは、まず彼女以上に真摯に、貪欲にならないと、いつまで経っても追いつけない。

今回、彼女の表情の豊富さ、強力さに好評が集まっていた。身体能力が注目される場合が多いけれど、コロちゃんの必殺技は表情の豊かさだ、と彼女と関係の長い・深い方複数から言われて、ハマリ役、過去最高、くらいの言われ方をしたりもしたが、そう思わせられたのは嬉しい。でも、コロちゃんのことだから、「俺まだこんなもんじゃねーぜ」と思っているのは間違いなく、そうして自分も一度ご一緒してみて「まだまだやってくるだろうな」という怖さも感じる。

彼女はドラゴンボールが大好きで、一番好きなキャラクターは悟空だそうです。まだまだ強くなるところが恐ろしい。この写真もカッコいいけど、気の持ちようが写真以上にカッコいい女優です。

ブログ:出たな、オトコ女!!

東谷英人 作家役

舞台上手にずっと居座ってノートぺらぺらやったり写真見て偉そうなこと言ったり、最後にへらへらしながら「甘ったれてんだよ」みたいなこと言ってた人です。ジャケットの中に赤いシャツとか着ていた人です。クワトロ大尉かと思ったよ。

今回、遅れての合流だったので限定的な役どころではあったものの、対応力のある人だし長くコメディをやっていたこともあってユーモアのセンスがある人だから、もっとあれこれの役で起用しても面白いと思っている。今回は役がちょっとカッコ良すぎたので、「もっとへらへらやって下さい」「ダメ、ちょっとカッコ良すぎる」とか言い続けていたら、いつの間にか「俺カッコいいのかも」と誤解し始めていました。

皮肉屋でクールでマイペースなので、一瞬こいつやる気ねぇのかなぁ、みたいに見え勝ちなものの、ちょっと目を離すと他の俳優と「ここはこうやった方が」「今日のマチネはあそこがこうズレてた」みたいな指摘・相談をし始めたり、「谷さん、開演前に一度みんなで読み合わせしてから舞台に出ませんか。その方が呼吸も気持ちも揃えられると思うんで」みたいな強烈に意欲的なことを言い出して、現場の士気を勝手に上げたりする、酷い奴です。クールに見えて情熱家とか、誰から萌えられようとしてんだ、バカ。

この写真は確かにちょっとカッコ良すぎますけれど、本人も、心のカッコいい男です。

ブログ:東谷英人ひとりかい

小安光海 母・最後の女役

物語前半でお母さんの役を、物語後半、と言うかまさにラストシーンで作家に話し掛ける女、一番最後の台詞、「神さまみたいな、いい子でした」を言っていた女の役をやっていた美人さんです。しかし本人は思いの外ヌケサクで天然ボケなので面白いです。

ちょっと古風な、昭和的な匂いのするルックスが大変気持ちがいい。頑張り屋さん、と言うとバカにしているようだけれど、自分に対して厳しいジャッジをする人なので、安易に「これでいっか」と思わずに役について芝居について考え続ける点が何より素晴らしい。その分、「そんなにくよくよすんなよ」と言いたくなり、実際口にもするのですが、しかしそれでもあれこれ探求し続ける、向上心のあるところが素敵なんだ。

なので俺もついつい引っ張られて、あそこがダメ、ここがこう、とねちっこくダメ出しをする羽目になり、それ自体は俺は大歓迎、超ハッピー、もっと演劇しようぜって気分になるんだが、しかしその分、言い過ぎてしまうきらいがある。でも、彼女のいいところは、それでくよくよはするけれど後ろ向きにはならず、もっと、もっとと立ち向かっていくところが美しい。人間的にも気持ちのさらっとした、それでいて人との距離感を適切に図る、不躾なところのない人なので、大変付き合いやすくてよかったです。

この写真はちょっと美人過ぎるように見えるけど、実物もこれくらい美人です。

ブログ:mitsumi日記

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全員分書くのはさすがに疲れた。しかもなんか、贔屓の引き倒しと言うか、自慢話や持ち上げ話の連続のようで、ちょっと気持ち悪いような気さえする。

しかしああいう、演出家のエゴが強く出た芝居をやれたのは、俳優陣がとにかく協力的で、しかも一様に真面目であったからってのは間違いないところなんだ。『人間失格』観た人は、谷賢一、やりたい放題やってんな、俳優を奴隷のように酷使してんな、と思ったかもしれないけれど、いやいやそんなことはなく、皆が皆、演出と脚本をよく読み込み、飲み込み、噛み砕き、その上で俳優的に努力する、いい座組だったのです。

どの座組にもいいところはあるけれど、今回の座組はとりわけ、やりやすい、刺激される、いい座組であった。演出方針として照明の作り方が暗めで、しかも葉蔵の人間恐怖を表現するために群集としてのシーンが多かったため、あんまり俳優の顔を披露できなかったのが心残りであったから、このような記事を書いたけれど、これだけ書いても書き足りない感じのする、いい座組でした。