PLAYNOTE 僕がまだ悪魔だった頃

2010年10月07日

僕がまだ悪魔だった頃

[雑記・メモ] 2010/10/07 19:00

さぁ、今日もソワレの幕が開く。八幡山ワーサルシアターのロビーにて、開場を待つ三十余名のお客様に紛れ込み、パイプ椅子でノートPCを叩く俺。洗濯が追いつかず、夏物のシャツを着てきたから少し肌寒い。北澤の笑顔が朗々と告げる開場の合図、「大変お待たせ致しました、只今より開場致します。……」

一方その頃、新宿御苑前・サンモールスタジオでも『悪魔の絵本』の幕が開く。体は遠く離れているが、心は寄り添い、無事な開演、いいステージを祈っているぜ。『悪魔の絵本』は数十もあったタイトル案の中から石丸さんと俺の直感で「これ」と決めたものだが、なかなかいいタイトルである。

もはや恥ずかしい昔話になりつつあるが、自分には「演劇悪魔」と愛称されていた時期があった。経緯はこちらを読んで欲しい。

経緯はさておき、ちょうど一年前の自分は、「演劇悪魔」という語の定義を以下の通り書いている。

ちなみに、演劇悪魔というのは、演劇に魂を売ったとかそういうんではなくて、演劇が憎くて憎くてたまらない、かぎ針みたいな尻尾とナイフみたいな目つき、鉄の心臓を持つ虐殺者の意味です。

あの頃の俺はギリギリと歯噛みしつつ演劇を憎んでいた。あぁ、演劇さえやってなければ、こんなしんどい、こんなにひどい、こんなにみじめな、こんなにまずしい思いをすることもなかったろうに。こんなに、あんなに、そんなに、云々。

今だってそれは同じことだ。『悪魔の絵本』の瀬田という男も、同様に、「書く」ということにストイックであった自分をひどく憎んでいることだろう。ただそれは、言うまでもなく愛情の裏返しで、どうしても、現場に立つ度、マジになっちゃっている自分を発見している。

今、こうして、ご来場のお客様に紛れてキーボードを叩いていると、やはり愛憎がぎらぎらと渦巻いてくる。だけど今は、ちょっと愛情の方が強いかな。まぁ、愛情を強くし続けていけば行くほど、また自分の私生活を破綻させてしまい、崖から落っこちるんだろう。愛を抱えているからこそ、崖っ淵まで行けるんだが、そうするとくらっと足を滑らせる。また死にかける。

今回、Project BUNGAKUのアフタートークで香山リカさんに、「今年ぼく、鬱病になったんですけどね」と話を振ったら、香山さんからも客席からもえらいびっくりされたのだが、PLAYNOTEを読んでいた人にはそれくらい伝わっているだろう。やぁ、劇団休止から一年、死ぬか生きるか、ほとんど死んでる、みたいな状態で生きてきた。『幸せの歌をうたう犬ども』ではもう一度演劇を愛するための企みをし、3月はいよいよ体調・心理をぶっ壊して入院して演出仕事を一本飛ばし、4月にはシアタートラムのリーディング『熱帯樹』で諸先輩らと立ち合って刺激を受け、5月の『幸せを踏みにじる幸せ』では暴力と裏切りの果てに「生きたい生きたい生きたい」に辿り着き。その後、書き物仕事や来年の翻訳、Project BUNGAKUや『悪魔の絵本』の準備をしてきたが、長い長い時間をかけて、自分は少しずつ生き返り、昔の自分を取り戻したように思う。

そうして、演出家としては、一歩、一歩、確実に先に進んでいる実感がある。

俺はもう悪魔ではなくなってしまったが、悪魔であった頃に書いていた『悪魔の絵本』は、まさに血文字の戯曲であったな。書くことで作家は頭を整理する。自分の傷や喜びを、過去のものに処理をする。『悪魔の絵本』を書いている頃は、本当に書くことが嫌いになりそうだったが、書き終えたことで僕はもう一度、書くことを楽しめそうな気がしているんだ。

『悪魔の絵本』、ぜひ、観に行ってくださいね。ハーフプライスシアターの日以外でしたらまだどこも大丈夫と聞いています。お急ぎのご予約はお電話で。
お問い合わせ:03-3350-0335(劇場制作デスク直通)
予約URL: 「悪魔の絵本」チケット予約

さてProject BUNGAKUソワレ、11ステージ目。俳優に声をかけて客席に座る。そこから先、舞台がうまくいくかどうか、どういう仕上がりになるかについては、演出家は全くの無力だ。俳優頑張れ、気を抜くな、と祈るような気持ちでメモとペンを握り締める。その間、お客さんはわくわくと開演を待っている。

演劇は楽しい、演劇は人間に必要だ、と、ぼんやり思うときは、こんなときだ。今日もいいステージになりますよう。

コメント

投稿者:西村俊彦 (2010年10月07日 21:35)

今、ちょうど『悪魔の絵本』を観てきた帰りだよ。すごく良かった。谷くんに会いたくなる芝居でした。

投稿者:Kenichi Tani (2010年10月07日 22:34)

それはよかった。会いに来ればいいのに。

投稿者:深見謙吾 (2010年10月08日 22:33)

谷さんがいつの間にか悪魔ではなくなっていただなんて・・・。
ずっと悪魔でいて欲しかった(笑)。
って失礼な話ですね。

投稿者:Kenichi Tani (2010年10月09日 11:45)

結局まだ現場では悪魔と呼ばれていますけれどね(笑)。
精神の病毒が抜けた結果、口が悪くなり、態度がでかくなっています。