PLAYNOTE Mrs.fictions『15 minutes made vol.9』

2010年08月16日

Mrs.fictions『15 minutes made vol.9』

[演劇レビュー] 2010/08/16 11:00

観たい劇団だらけ、知り合いだらけなので観てきた。池袋シアターグリーンBox in Boxにて。

いろんな人が書いているが、今回は特に「笑い」に偏ったラインナップで、これはただの偶然と考えるよりも、小劇場、特に若手の演劇が見せている一つの傾向を示しているものと考えた方がいいように思う。例えば80年代の鴻上尚史や90年代の松尾・ケラが持っていたブラックジョークだったり時事への皮肉だったりとはまるで異なる、シュールで不安定な笑い、あるいはB級・ゲテモノ的な笑いの多さが際立った。「歪み」の笑いと言ってもいいかもしれない。「すごいよマサルさん」が出てきたときにあの脱力感や意味不明さに当時の小中学生は仰天したものだが、そういう世代が、そういう笑いをもう当然のものとして表現の中に取り込んでしまっている。

トップバッター、ひょっとこ乱舞は広田淳一氏と松下仁氏の二人芝居。大いに笑う。他の笑いに比べれば、まだ演劇的なフレームがしっかりしている印象。ちょっとした場転にちょっとしたダンスを洒脱に取り入れていたり、笑い笑いの連続の果てにふっと一瞬挿し込む悲哀の瞬間だったり、何つーか「これくらいさらっと作れるぜ」という貫禄を見せつけたような格好であった。

二番手、犬と串は、ダメな演劇をパロディした内容。さすがにここまでダメな演劇は最近観なくなったが、演劇あるあるみたいな感じで面白いし、役者陣はやっぱり早く人間になりたい怪物たちなので、もはや安定感すら感じる。劇中、作演出のモラル氏が挙動不審な遅れ客として入場し、うまく引っ掻き回していた。このキャラクターは、アキバ系のもさっとしたダメなおっさんと、年間300本観ている観劇通と、あとブブゼラを足して3で割ったような人物で、総体としては「そんな奴いねーよ」なのだが、要素ごとにバラすと「いるよねそういう人」の塊で、確実な笑いを得ていた。ハチャメチャをやっているようでいて、割と笑いの積み重ね方としてはクラシカルなコントの鉄板を踏んでいる、犬と串の下地を再確認。

三番手、ナカゴーは、見ていて一番不安定な気持ちになる怪作であった。衝撃性同士の遊びという話の内容や展開のつけ方は俺にとっては割とどうでもよくて、グロテスクですらある「変な人達」の演じ方、そのスタイルが衝撃的であった。一番歪んでいたので一番観ていて疲れたが、これはある意味彼らの術中にはまったものだと言えるのかもしれない。

というわけで、休憩前までで本当に疲れた。安心して観れる芝居が一つもない。それは、クオリティに不安があるという意味ではなくて、優等生的な、あるいは「カタい」演劇が一つもない、という意味である。小劇場の前衛を集めたいい前半であったように思う。

後半一発目、シンクロ少女は少し退屈した。シュールな状況と演出手法に笑いを誘われた瞬間はあったが、描こうとしている人間性の酷薄さを持て余している印象。こういうワンアイディア一発勝負の不条理な内容なら、もう一つ上演順が後だったら印象が違ったかもしれない。

後半二発目、Defrostersは、漫才ライブをパロディしドラマ化していた。最初、いかにもいそうな半端に売れないお笑いコンビの漫才から始まり、二組目が登場するかと思いきや、次のコンビが遅れているのでもう一度最初の二人が舞台に立たされる。そこからは演劇なのだが、締め方は落語のようで、トータルとしては大変うまく構成されていた。

ラスト、Mrs.fictionsは、またラストに居座りやがってこの野郎、と一瞬思ったが、始まって見れば過去のMrs.fictions作品において一番面白かった。何にも増して作・演出の岡野康弘氏がいい仕事をしていたように思う。これもワンアイディアと言えばワンアイディアなのだが、それはむしろ15分モノをよくわかった戦略であるし、それまで暖まっていた会場に助けられた感があるとは言えきっちりポイントをゲットしていく笑いの配置、そして最後に一瞬だけ語られる本当の意味でのポエムが見事であった。以前彼らは「最後は俺たちに任せとけ、みたいな存在感を出したい」みたいなことを言っていたが、今回の企画においては実に鮮やかにそれを達成していたように思う。

* * *

「終わりの会」も観て帰った。Mrs.fictions生駒くんVS今村くんの対談で、何だかつっかえつっかえの展開ではあったが、「小劇場演劇の活性化を目指してやっているが、三年続けて小劇場は変わっただろうか」という己自身への反問を告白する内容で、割と真剣に観ていた。だからこそもっと奥側にまで議論が突っ込んで欲しかったとは思うのだが。

おそらく15mmは、小劇場演劇界隈内での作り手および観客の交流の幅を広げるという意味では、実に意義深い功績を築き上げたのだと思う。自分も15mmに参加して得られた交流がたくさんあるし、15mmで知った劇団も数多い。それ以上のことをするのならば、もう残されているのは例えばバンドやお笑いコンビ、ダンサーとのコラボレーションしかない気がする。つまり、小劇場演劇界隈以外からの観客を誘導してやることである。

だがこれはそう簡単なことではない。参加したことがある手前、Mrs.fictionsの面々が6団体の共通仕込み・共通美術のバランスをとったり、タイムテーブルやチケット予約フローを管理したりとえらい大変な思いをしているのはわかっているので、ここにじゃあ下北沢屋根裏からバンドが一つ、コンテンポラリーダンスが一組、自主制作映画に若手お笑い芸人が一組、なんてラインナップにしたら、もう今村くんはメガネがいくつあっても足りないだろう。

しかし、それ以外でじゃあどうやって演劇界隈外の観客を誘導するか、ということになると……。安易なのは若手のアイドルやタレントを呼んできて舞台に引きずりだすことだろうが、これも問題はいくらもある。大体下手糞だろうし。むしろ、15分で大掛かりなセットも使わないというメリットを持ったこれらの作品群を、他の劇場、他の地方に輸出したりすることで、出来上がった作品という資産を再利用することはできないだろうか、なんてことを考えていた。今回のナカゴーなんか、それこそ異ジャンルの観客に見せたらびっくりすると思う。目が点になるだろう。そこから先、どうなるかまではわからないけど。

いずれにせよ、今村くんにはネクタイが擦り切れるまで頑張って欲しい。