PLAYNOTE 内田樹『寝ながら学べる構造主義』

2010年08月16日

内田樹『寝ながら学べる構造主義』

[読書] 2010/08/16 10:31

ふざけたタイトルだが、とてもわかりやすく構造主義の概論を講義してくれる。「構造主義前史」としてマルクス、フロイト、ニーチェが果たした役割を紹介した後に、構造主義の始祖として言語学者のソシュールを紹介。その後、構造主義四銃士と呼ばれた(らしい)フーコー、バルト、レヴィ・ストロース、ラカンについて、次々と紹介していく。200ページくらいのさくっとした分量の中に、知がぎっしり詰まっている感じ。

内田樹氏と言えばブログ『内田樹の研究室』でインターネット界隈でも有名だし、僕も何度か彼の書き物の一端に目を通してはいたが、一冊読んだのは初めて。「まえがき」はこんな文章から始まっている。

本書は入門者のための、平易に書かれた構造主義の解説書です。
私は「専門家のための」解説書や研究所はめったに買いません。
つまらないからです。
(中略)
「専門家のために書かれた解説書」には、「例のほらあれ……参ったよね、あれには(笑)」というような「内輪のパーティー・ギャグ」みたいなことが延々と書いてあって、こちらはその話のどこがおかしいのかさっぱり分からず、知り合いの一人もいないパーティーに紛れ込んだようで、身の置き所がありません。

すっげーわかる、この感じ。俺もこの記事の冒頭に、当然のように「フーコー、バルト、レヴィ・ストロース、ラカン」なんて名前を並べているが、バルトとかラカンなんて読んだことないよ。フーコーは趣味で少し読んだ(そして挫折した)、レヴィ・ストロースは大学の哲学の講義で勉強した(がほとんど講義には出なかった)が、「フーコーくらい読んでて当然だよね」というスタンスで書かれた本へのイライラは、多分いろんな人がいろんなとこで感じていると思う。

その後、まえがきでは、知ること、知らないことについて考察が加えられます。難しい用語を網羅的に紹介して知った気になる解説書ではなくて、むしろ難しい用語を噛み砕いて近づいていき、マジで「寝ながら学べる」レベルにしようという本書の意義に大変近接したいいまえがき。この時点でとても筆者および本書に好感を持った。知恵とは、難しいことをたくさん集めることじゃなくて、難しいことを簡単に言えることなんだ、ということを教えてくれる一冊。

筆者は構造主義を、知っておかねばならない考え方、としてではなく、知らず知らずのうちに我々の世代・時代に常識として侵入している考え方、つまり、意識的に取り扱っているかどうかは別にして、もうすでに我々が獲得している考え方なのだ、というような説明を加えているが、それはまさにその通りだ。当然のように、無意識のうちに我々は、構造主義的な理論の立て方をするし、構造主義的な道徳を持っている。だが、その「当然のように」「無意識のうちに」の部分を考察する学問が構造主義である。

構造主義的な理論の進め方をしていくと、最後には、「自分の心ですらわからないの」というJ-POPの歌詞みたいなところまで行き着くが、それに関連したラカンの精神分析に関する一章は特に面白かった。ラカンの章は一番最後に配置されているのだが、そこに到るまで、マルクスから考えれば150年に渡る構造主義の歴史を順番にやさしく紐解いていく内容は大変面白い。「寝ながら学べる」は言い過ぎかもしれないが、「通勤電車で学べる」は楽勝だろうし、「お風呂で学べる」もイケそう。要は、辞書や副読本を傍らに置いたり、膨大な注釈をいちいち参照したりする必要が一切必要ないということだけれど、これは、例えばフーコーやレヴィ・ストロースの本を読んで自爆した過去の自分のような体験をしている人にはありがたい限りだろう。

面白かった。