PLAYNOTE RoMT『ここからは山がみえる』

2010年08月13日

RoMT『ここからは山がみえる』

[演劇レビュー] 2010/08/13 03:01

青年団リンク・RoMTとはどういうものか気になっていたし、演出家の田野邦彦さんはワークショップデザイナーとしても目覚しく活躍している方で興味があったし、翻訳家の近藤強さんは一度舞台で拝見してその後何回かお話しただけだがその誠実な演劇態度を見ていて尊敬できる方だったし、俳優の太田宏さんは信頼できる複数の筋から「あいつはやばい」と激奨されていたので気になっていたしで、プレビュー公演を観に行った。

いや、実は一番気持ちを惹かれたのは、イギリスの新進作家の作品の日本初演であるということと、「上演時間、2時間20分。出演者、1人」というキチガイじみた無茶苦茶なキャッチコピーだったことを白状しよう。そして、上演時間は実際には休憩込みで3時間に達していた。1人芝居で3時間! さらに、出来栄えは、ちょっと見逃すともったいない演劇性を持っていた。演劇が本当に好きなら、観た方がいい作品だと思う。

場内は、センター奥に2間四方くらいに上げた舞台が一つ。客席空間にはオープンカフェのようにテーブルと客席が散らばり、劇場内に特設されたバーカウンターで一杯もらってから着席。イメージとしては、本当にオープンカフェで演劇やってるのを一杯飲みながら見るとか、あるいは日本ならディナーショーとか言った方がイメージしやすいのかな。ディナーショーって内容じゃねぇけど。

開演後、ずっと、当然だが1人芝居が3時間続く。1人芝居と言っても、「アダム」という人物が、客席の人々に対して自分の体験をおしゃべりしてくれる感じ。客席の間をあちらこちらへ歩きながら、ざっくばらん、気さくに、だが鬱陶しくない程度に話しかけてくる。太田さんのリラックスした雰囲気と、人好きのする無邪気な笑顔に引っ張られて、思わず頷き返したり微笑み返したりしてしまったが、これは彼だから出来たことだと思う。客いじりとは全然雰囲気が違うし、「お前うざい」みたいな感じには絶対ならない。思えば客席の配置にしても、ドリンクサービスにしても、そういう砕けた雰囲気はそもそもから演出されていたものであったのだけれど。

音響はSEやBGMの他に、一斗缶か木箱か何かを叩く生音や、シンセサイザーの生演奏まで入っていたそうで、最小限で最大効果、実にセンスのいい、心憎い入れ方であった。太田さん演じる「アダム」は、登場人物の名前や関係図を壁面に設置された黒板にチョークで書き込みながら、丁寧に喋ってくれる。この辺にも、海外戯曲、しかも3時間、という負担を極力まで減らそうという演出家のサーヴィス精神が感じられるし、単純に見ていてわくわくする。

内容も衝撃的であった。アダム少年が女の子に興味を持ち出した頃から、人生の進路を考えるまでの数年間のお話なのだが、セックスや性欲、異性への興味の話を、友達同士でこそこそお喋りしているような錯覚を起こさせるフランクさで話し始める序盤。中盤になって堕胎やゲイへの偏見などの話も入り、後半では麻薬や友人知人家族らとの対立やエイズ、未来についての話も入って来て、……と書くとありがちみたいに聴こえるかもしれないけれど、要約するとそうなってしまうだけなんだ。実際には、目の前にいる一人の少年/青年の、悩みや欲望、疑問や憤りについて、打ち明け話でもされているような感じなんだ。説教臭さもフィクション臭さもない、一人の少年の素直な告白を、どこかの屋根裏かどこかのパブで聴いているような。

演じる俳優はもう40を超えた人であるのだよ。そんな人が、ブラウスの中に見える胸の谷間にドキドキした! ちんこ勃起した! みたいな話をして、リアリティがあるはずないのだが、いや、実際にあったので、すごい。テキストがいいというだけでなく、太田氏の少年のような瞳とはにかむような笑顔がなければ、大概はぶち殺したくなっているだろう。キモいよ! って。あけすけな演技のスタイルが、逆に生身の中高生の告白よりあけすけに見えちゃう、という、絶賛し過ぎのようだけど、実際に何かすごいもんを見ている感じはした。大袈裟に言えば、演劇はリアルを超える場合もあるんだ。みたいな。

しかし3時間ある芝居である。確かに3時間要る芝居なのだろうが、それでも確かに3時間は疲れる。きっちり体力に余裕を持って、満を持して観に行くと、かなり演劇的に面白いものが観れると思う。さり気ないけれど演出も遊び心があって、しかしでしゃばり過ぎず、的確・適切に戯曲に対峙しているように見えた。もっとも、一回ちらっと、しかもプレビューを観ただけの自分なので、どこまで見えているかはわからないのだけれど。しかしちょっとした移動や小道具に効果を持たせているのは見事。ミニマルだが地味ではない。

観る価値のある作品だし、1人芝居の既成概念を引っくり返してくれる内容である。翻訳もご本人は「まだまだ」と謙遜されていたが、さすがご本人も俳優さんだけあって、俳優の身体に寄り添った演劇的な翻訳であった。学者先生ではこうはいかない。

プレビューであるから多少のちぐはぐはあったようだけれど、僕は何よりも、この企みを実行してしまったこと、そしてどっさり収穫を得てプレビューの幕を開けてしまったことに畏敬を感じる。凄まじいチャレンジ精神である。ありきたりな演劇を見飽きた人は是非観に行くといいと思う。

ちなみにこれは身内びいきでも何でもない。実際俺はまだほとんど青年団に帰属意識を感じていないし、今日の現場で出会った人々もせいぜいが多くて会って2~3回目の人たちだ。ただ、こういう時折無謀なチャレンジを成功させてしまえるのが、青年団という集団が持っている体力だったり包容力だったり先進性なのだと思う。持ち小屋2つに構成員100名以上、助成金も小劇場規模では最大級にもらっているが、無駄遣いしてない。だからこういうチャレンジングな企画が実際に通って、上演されるなんてことが起こる。そして僕に、演劇を観る幸せをきっちり分けてくれている。これはすごいことだと思うよ。

「俺は新しい演劇をやりたいんだ!」っていう若造はみんな観に行くといいと思うし、「ありがちな演劇には飽きた」って大人たちも観に行くといいと思う。そんなチケット代高くないしね。