PLAYNOTE ロベルト・ベニーニ主演『ライフ・イズ・ビューティフル』

2010年08月04日

ロベルト・ベニーニ主演『ライフ・イズ・ビューティフル』

[映画・美術など] 2010/08/04 11:19

約10年振りに観た。超定番の戦争映画で、ベタベタのヒューマンドラマで、こういうの好きって言っとけばとりあえずいい人っぽく見えちゃうタイプの映画だろ?

大好きです。

あんまり多くを語る必要がない気がする。戦争という極限状態、しかもナチスドイツのユダヤ人収容所という人類史上でも稀に見る悲惨な場所を舞台にしていながら、文字通り最後には「人生は美しい」というシーンをごりごりと描いてしまう凄まじさ。

ポジティブだから悲しいし、悲しいからポジティブ、というのが成立しているは、古臭い理屈を引っ張りだせば、カタルシスの構成要素である憐憫と恐怖のバランスがよくとれているからなんだと思うんだ。ラストの展開が安っぽくないのは、描かれている恐怖が切実だからだし、ただ悲観的で残酷な映画になっていないのは、憐憫の情をしっかり揺さぶっているからだ。

ロベルト・ベニーニの演技が嫌いだ、という声もあるようだが、これくらいうざったいくらいでむしろ大正解だと俺は思うよ。爽やかイケメンとかがこの役やるとこの哀愁は出ないし、このちょっと滑ってる感じがいいんだ。彼の設定はコメディアンでもウィットにとんだ紳士でもなくて、明るい、ダメな、お調子者。あの本屋だってユダヤ人じゃなかったとしても失敗してるだろうし(笑)。

前半と後半の雰囲気が違い過ぎるのに違和感、というのも、俺には意味がよくわからない。いい好対照になっているし、前半の何気ないやりとりがすべて後々の伏線になっている。しゃっくり、オペラ、お風呂嫌い、なぞなぞ。脚本として素晴らしいし、これは戦争映画と言うよりは一人の男と家族の映画なのだろうから、あの二人が出会って惹かれ合うところは描かれていて全然構わない。後半だけでも一本の映画にできるだけのものは詰まっていると思うけど、俺は前半のちょいダメ親父描写があったから、かえって良かったと思うんだ。ちょいダメ親父だったから、妻のドーラも惚れたんだと思うんだ。彼はいろいろダメ野郎だけど、人生を明るく生きることに関しては天才的である。

「戦争はこんな生やさしいもんじゃない!」
とかいう批判も的を射ているとは思えないな。ラスト、彼が射殺されるシーンなんか、戦争の、と言うよりは人生の残酷さをからっと描いていて見事だ。人間がゴミのように死ぬところ、悶絶も、苦痛も、叫びすら誰の耳にも届かず、パパパパパ、で死んじゃうところは、想像力を働かせれば直接的な描写よりも痛々しい。

子役が光っていることは指摘するだけバカみたいだが、よかった。

個人的には、前半と後半を繋ぐシーン、妻が花の生い茂る倉庫だか温室だかに消えて行き、それを夫が追いかける、カットもフェードもないまま数年後へ飛ぶ、そして中から子どもが出て来る、という演出がスマート過ぎて嫉妬した。あれはずるい。やばい。

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この10年の間に、俺はアウシュビッツ収容所に実際に足を運ぶことができた。

だが、今回もほとんど筋書き忘れて観ていて十二分に胃がキリキリして涙が流れたが、10年前のインパクトには叶わない。若いうちに死ぬほど触れておくべきなんだろう、映画も、音楽も、小説も、演劇も。アウシュビッツを訪れたからと言って、この映画のインパクトが増大したわけではなかった。

ラストで物陰から「一等賞」の戦車が登場するシーン、そこだけはくっきりと覚えていて、目にこびりついた印象は抜けないのだ、ということを再確認した。アウシュビッツ、正確にはビルケナウだが、あそこで見た何万本という毛髪の詰まった部屋が忘れられないように、こびりついた視覚の記憶は多分一生抜けない。

そういうワンシーンが作れているというだけでも、いい映画だった。