PLAYNOTE スティーヴン・キング原作/フランク・ダラ ボン監督『ミスト』

2010年07月19日

スティーヴン・キング原作/フランク・ダラ ボン監督『ミスト』

[映画・美術など] 2010/07/19 08:10

「衝撃のラスト15分」

なんて煽り文をあちらこちらで目にしたし、実際評判もよかった、各地のレビューサイトやそこそこ信用している評論サイトでも評判がよかったので観てみた。どんなストーリーテリングをしてくれるんだろう? と。

が、期待外れであった。

いや、期待外れというよりは、憤りである。以下ネタバレ。

展開はこう。突如、街を霧が覆う。面白い。スーパーマーケットに買い物に来ていた主人公と息子は、濃霧の中に閉じ込められる。面白い。外は正体不明のクリーチャー(怪物)が跋扈していることがわかる。設定としてはB級だけど、描写が面白い。

閉じ込められた人々は、恐怖と疑心暗鬼で正常な判断力を失っていく。面白い。客の中にいた、キリスト教原理主義の女(ユダヤ教? よくわからん)が「これは神の裁きだ」とのたまい始め、最初は白眼子されているが、やがて恐慌状態に陥った人々は彼女の言説を信じ込むようになる。面白い。いや、ここは本当に面白い。人間の判断力がいかに脆いか、人間の精神力がいかに脆いか。劇中の台詞、「部屋に二人人間がいれば、最後は殺しあう」「人間は狂っている、だから政治や宗教がある」とは至言。面白い。

だが主人公は「髪に生贄を捧げよ」なんてトンチキぶちかますその女信者には耳を貸さず、一縷の希望にすべてを託して脱出を試みる。面白い。息子と自分を含め、わずか五名が脱出に成功し、ガソリンの続く限り「霧」から逃れようと車を走らせるが、いよいよガソリン切れ。外はやはり得体の知れない怪物が闊歩している。絶望した主人公は、息子や仲間を苦しんで死なせるわけには、と考え、四発だけ残されていた弾丸で彼らを殺してやる。言わば安楽死である。怪物に内蔵をえぐられ、卵を産み付けられて死ぬよりは。

息子まで手にかけてしまった主人公、だが弾丸はもう残っていない、激しく慟哭を上げながら車を降りて、怪物に向かって叫ぶ。「俺を殺しに来い」。だが、そこで彼の元へ現れたのは、救援に来た軍隊が率いるおびただしい数の戦車と、それに乗った救援された人々たちの姿だった。

それ単にちょっと時間ズレただけじゃん! 衝撃のラスト、なんて言うし、いろんな人も「確かに衝撃のラスト」なんて称賛するが、「間に合わなかったか」とか「早まったか」だけのことだ。何だよそれ!

世間でもこのラストは賛否両論であった。「このラストはあまりに救いがないので受け入れられない」という声も多い。だが、俺が言ってるのは救いがあるとかないとかそんな話ではなくて、「ちょっと遅かった」で「皮肉」とか「残酷」とか「すごい」って言っちゃうのはどうよ、ってこと、それだけだ。

そこまでは実にいい映画であった。人々が心の舵取りを誤っていく、どんどんと疑心暗鬼とカルト宗教に傾斜していく様は、迫力があった、説得力があった、よく撮れているんだ。だのに最後だけ、決断がちょっと早すぎた、で説明しちまうのはどうなんだ。原作者のスティーブン・キングがこのラストを賞賛した、と言うが、ごめん、僕にはわからない。原作のラストも気に入らないが、映画版のラストを「衝撃のラスト」ってと呼ぶのはすごく抵抗がある。すごく。

この映画の見所はむしろラストよりラストへと至る絶望の描き方だろう。ラストへと至る人間心理の脆さ、不安定さだろう。そこんところは実に上手いんだ。人の弱さってものを、きちんと真正面から描いているんだ。だけど、ラストだけドラマツルギーの要請で「決断が3分早かった」で片付けてしまうのは、……いや別に構わないけど、自慢するほどのラストではないだろう。

「軍隊が助けに来た」って言うのが、何の伏線もないのが問題なのだろうな。「衝撃のラスト」というくらいなのだから、物語中に散りばめられた些細な伏線を綺麗に回収して、最後にふっと繋げてみせる、そういうラストを期待していたのだが、いやこれは後出しジャンケンもいいとこだ。「実はもう助かる寸前でした」で悲劇完了、なんて、ちょっと僕には承認しがたい。

ラスト以外は75点くらいあげられるいい映画だったし、ことさら大声で「衝撃のラスト!」って言ってなければそれほどこのラストも気にならなかったんだろう。だけど、この程度のラストで大騒ぎするって、どうなんだろう。同じ「衝撃のラスト」なら、『セブン』とか『ドッグヴィル』とか、いくらでも伏線をうまく回収してラスト、って映画はあるとおもうのに。

と、ラストのことばかりケチをつけたが、そこに至る人間心理の描写は実に上手いんだ。たった二時間の中でこういう精神のほころびをきちんと描いたっていうのは、すごいことだよ。

ラストばっかり言及されるからどうにも釈然としないが、サスペンス映画、ホラー映画としては、かなりうまくできた方の作品だと思う。同じキング原作でも『シャイニング』とかより断然好きだな。『スタンド・バイ・ミー』の方が十五倍好きだけれども。