PLAYNOTE 吹越満『フキコシ・ソロ・アクト・ライブラリー タイトル未定』

2010年07月15日

吹越満『フキコシ・ソロ・アクト・ライブラリー タイトル未定』

[映画・美術など] 2010/07/15 02:09

俳優・吹越満が2008年に下北沢・本多劇場にて上演した一人芝居のDVD化。一人「芝居」と言っても、ショートコントのようなものの積み重ねで、コンテンツ的には「お笑い」に近いのかもしれないが、用いられている手法やスタイル、スピリットは確実に「演劇」であった、実に高度な「演劇」だったんだ。

俳優一人の身体でこれだけいろいろできるのか。多くの作家・演出家は、ちょっとした衝撃を受けるんじゃないかしら。僕は少なくともそうだった。

無対象行動や小道具、映像をネタにして、いじりまくる遊び心。机の上に革靴が一つ倒れた状態で置いてある、それだけなのに、そこから無数の状況を引き出してくるのは、稽古場のエチュードを観ているような楽しさもあるし、しかしきっちり構成されていて作品としても楽しめる。演劇っていいよね、想像力だからさ、無限の可能性があるんだよ、なんて言いながらリアリズムのセットしか建て込まない/建て込めないヌルーい演出家や劇作家より、よっぽど演劇的な発想からシーンが作られている。

俳優としての技量にも感服。一人で42人くらいを演じ分ける寸劇では、DVDの特典を見る限りそれぞれにイメージ・キャストがいるようだけれど、それを瞬時に、そう、ほとんどコンマ数秒のレベルで切り替えている。声、動き、目付き、姿勢と、よくもまぁこれだけのことができたものだ。1965年生まれだそうだから、上演当時で40代中盤だろうに、二時間近い一人芝居の台詞を確実に覚えているのはまぁ当然として、その時間を走り抜ける体力、集中力も凄まじいし、アドリブも上手い。無対象行動も上手い。

受ける質感ややってる笑いは少し違うけど、俳優の身体と声をフルに使った器用なミニマル演劇という意味では、ラーメンズを思い出してしまう。いずれも若い俳優に見せて「まずこれくらい器用になってから悩めよ」と言いたい。

しかし、全体的にとにかく馬鹿馬鹿しいのが素晴らしい。ひでー下ネタが入っていて客席の女性客たちが沈黙したり、基本的にあちこちがダジャレだったり、大ラスでやる「命を掛けた芝居」が単に鉄球ぶらぶら揺れてる中で寸劇やるとか、ストイックに馬鹿馬鹿しさを追求していてとにかく洒脱だ。器用で、お茶目で、ストイックで、もうこれ以上褒め言葉も要らないだろう。

演劇やってる人にとっても面白いだろうけど、いや私お芝居とか詳しくなくて星人でも十分楽しめる間口の広さも素晴らしい。手法とスタイルに於いては、「これは演劇だ、しかも大変クオリティの高い演劇だ」と言って、観劇人口を広めるためにもいろんな人に薦めたい、肩の力を抜いて楽しめる傑作であった。