PLAYNOTE 富野由悠季『富野に訊け!』

2010年03月31日

富野由悠季『富野に訊け!』

[読書] 2010/03/31 15:01

富野由悠季。「機動戦士ガンダム」の原作者かつ監督であり、「歯に衣着せない」を通り越して「頭を疑う」レベルでの電波発言を繰り返す彼は、もはや一種のカリスマなんだ。「最近のアニメにはおま○こをなめたくなるようなキャラがいない」だとか「お前らの作品は所詮コピーだ」とか、枚挙に暇がないのだが、そんな富野御代が何か人生相談の本を出したとか言うのでノコノコ買ってやった。

内容(「BOOK」データベースより)

仕事、生活、勉強、恋愛―『機動戦士ガンダム』を手がけたあの富野監督が、若者たちの抱える悩みに真正面からぶつかっていく「アニメージュ」の好評連載が遂に文庫化!時に厳しく、時に優しく語られていく珠玉の回答の数々は、迷い惑うあなたの人生にきっと一条の光を与えてくれるはず。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

富野 由悠季
1941年神奈川県生まれ。アニメーション監督、小説家。日本大学芸術学部映画学科卒。虫プロダクション勤務を経て『機動戦士ガンダム』『伝説巨神イデオン』他、数多くのオリジナルアニメの原作・総監督を勤める。また、斧谷稔の名義で絵コンテ、井荻麟の名義で作詞も手がける。

本屋で偶然見掛けて、どれ、どんなもんだ、と思ってページをめくってみたんだ。こんな一節が目に入ってきたんだ。

Q.今は社会人です。お金が貯まったらアニメーターに転職しようと思うのですが、難しいでしょうか?
A.甘いよね、ただそれだけす。

太字は本のまま。さすがの痛快さである。他にも「そんな質問をアニメ雑誌の人生相談にするお前が幼稚」みたいなコーナーそのものの骨格を否定しかねない爆弾発言があったり、「自分で考えろ」で締め括ったり、気持ちがいい。

と言っても突き放すだけでは終わらず、なぜ甘いのか、というところをきちんと書いているのは親切極まりない。仕事の話の他にも、恋愛、人生、進路、人間関係、さまざまな質問が飛んでくるのだが、かなり真面目に答えている。かなり真面目に、かつ親切に。

対処療法として「こうしろよ、ああしろよ」ではなく、根本治療として「そもそも何故あなたがそういう考えをするに至ったのか」「その問題は日本の社会/歴史を紐解くとあれこれ」と、考えて答えているのは面白い。ほら、先輩とかに相談持ちかけるとさ、よく「ああ、俺もあったよ、そういう経験、そういうときには…」と、相談の答えなんだかお前の自慢話なんだかよくわからん感じの返事が返ってきて、話聞いてる内に飽きちゃう、みたいなことよくあるじゃない。そういう、相手のことを考えているようでちっとも考えていない返答じゃなくて、相手のことを考えるために自分の哲学をきっちり露見する、というQ&Aをやっている。

だから、質問への個々の答え、人生相談、を読んでいるというよりは、質問への回答を通して富野御代の思考や思想を読んでいる、という感じのする本著である。映画監督になりたかったのにアニメの監督なんて低俗なことをやっている俺、という富野御代のコンプレックスも堂々と見せているし(アニメなんて低俗な、恥ずかしい、みたいな単語は富野自身が使っているよ)、ものを作るということは本質的にどういうことなのか、オリジナル作品を生み出すために必要なものは何なのか、ということについても語っている。

富野由悠季は一介のアニメ監督に過ぎない、とは僕は思わない。エヴァンゲリオンを生んだ庵野秀明も素晴らしく優秀な作家だったろうが、ガンダムは三十年生き延びた。三十年というのは、個別の作品が、社会にとっての文化財になるのに必要な時間である。時代に受け入れられた作品の中には、時代の素顔が潜んでいるものだし、そういうものはまぐれでは作れない。まぐれでは三十年持たないのだ。

じゃあ何故富野御代が「ガンダム」という奇跡を起こせたのか、ということが、この本からは読み取れるように思う。なぜこの業界に入ったのか、なぜガンダムを作ったのか、というエピソードも紹介されているし、物作りに対する根本的な姿勢も見せているからだ。

最初は「富野が人生相談なんておもしれーじゃねぇか」だったが、いつの間にか、富野由悠季というクリエーターの本質を見たような気になる一冊だったんだ。