PLAYNOTE キコ『はなよめのまち』

2010年03月29日

キコ『はなよめのまち』

[演劇レビュー] 2010/03/29 22:34

小栗剛の新作であり我が愛する劇団員・堀奈津美をはじめ知り合いがゴロゴロ出ていたので観に行った。王子小劇場にて。

弱音を吐くと、本音を言うと、今はあんまり劇場とか行きたくないんです。こないだのブレイクダウンに起因して、ひどく精神がふらふらしているから、たくさん人がいるとことかファック・ユーなのです。それでも一度観逃すともう二度と観れないのが演劇だから、行かなくてはならなかったりするのです。

1984年。人々がまだ、世界はひとつだと夢を見ていられた時代。舞台は、はなよめのまち。

この町の特産品は「はなよめ」。この町に生まれた少女は教育を施され、「はなよめ」となって売られていく。日本の特権階級の人間のために作られる、特別な花嫁。

という設定で、わくわくするのだけれど、あんまりうまく機能はしていなかった。出荷前には男と話してはならないっていうジレンマや、閉鎖的な村を革命しようとする男の意志、個々人の感情の軋轢など、いろんな要素が散りばめてあって、そのまま散り散りになってしまった印象。登場人物多過ぎた。

なんてことを得意顔で指摘するのはバカのやることで、これくらいのことは作家本人も出演者一同も気がついていないわけがない。それでも、この物語とスタイルを貫通したんだ、というところを、すくいあげて考えなければならないんだろう。

物語の文法として、もっとわかりやすく、もっとセオリー通りに構築することは、過去の作品を観る限り、作家・小栗剛には難しいことではなかっただろう。チェリーブロッサムハイスクール時代にも、15人近い登場人物や交錯する伏線や感情をきれいに収拾していたのだ。だが、そういう整合性よりも、1行の台詞が持つポエジーや、脱構築された物語の紡ぎ方、衝動やら情動やらを殺さないように、あえてシンプルで確実な構成をとらなかったように思う。無難なパス回しをしていては、どこにも行けない。

今回のキコでやってみせたような、いわゆる堅牢で確実なドラマツルギーからの離脱、そしてポエジーを信じる力(台詞を聴いていると言うよりは、歌詞の断片を聴いているようですらあった)が、今後どのように結実するのか。それは、僕にとっても他人事ではない、一つの大きな実験であるのだから、見守りたいと思うのだ。

出演俳優では、堀奈津美が抜群によかった。とか書くとバカみたいだが、久々に水を得たような堀を観た思いである。ポエトリーをきちんと咀嚼した上で発せられる安定感のある発声と、目の前のことだけでなく遠い空想へも飛んでいける想像力が、特に冒頭、強く物語世界の色というものをパレットに乗せていたように思う。ああいう空想力のある女だから、うちの劇団員なのである。あと3キロ痩せれば言うことなしだ。

他にはまさかの出演となった青☆組の吉田小夏が断トツの技量を見せつけていた点は特筆に値する。本業:作・演出家が、他の俳優をぶっちぎるスキルを見せてしまうというのは、他の出演者にとってはやりづらいことこの上ないだろうが、知的かつ巧妙にデザインされた一挙一動に表情・目配り、演出家的ではあるが、見事である。俳優は技術の求められる仕事なんだ、ということを知るべきだし、本当を言えば皆が皆あれくらいのことをやれなければならないのだ。

同じく堂々たる立ち回りと安定感で特異な立ち位置にあるキャラクターの異質性を演じ切っていた木下祐子嬢も天晴れであった。どういうキャラクターなのかはよくわからなかったが、俳優の身体に説得力があるので、観れるのである。小栗氏と絡むシーンは完全に『プルーフ/証明』のデジャヴが僕を襲って、そわそわして仕方がなかったが、目が離せない。飄々として自然体の田中のり子も実に魅力的。子供が遊ぶような柔らかさのある彼女の演技は、僕は好きなのである。

DCPOP常連であった千葉淳は、久々に気持ち悪い感じの神経質な男をやっていて、『小部屋の中のマリー』なんかを思い出した。だから行きたくなかったんだよ、と呟く俺を否定しないが、千葉淳のナイスな運用法である。立ち位置的にもう一つ力強さや太さがあればと思う瞬間もあったものの、僕は千葉淳のファンなので、いいものを観たという感じがする。如月萌ちんはくるくるパーなんだか子供なんだかよくわかんない性格付けのキャラクターだったが、彼女の天真爛漫さがぐっと表に出ていていいキャスティング。この辺はさすがのキャスティング眼である。団子を片手にへらへらしているシーンではあまりの泰然自若っぷりにカチンと来てぶん殴りたくなったが、それはいいキャラクタライズであったということなのである。

ワイルド路線を初めて見た酒井和哉氏も僕にとっては新魅力の発掘で見る目が変わった。他にもピンと来た女優さんが一人おったが、当パンが今手元になくて名前と役名が一致しないのでノーコメントにしておく。

映像が素晴らしかった。選曲も楽しかった。あと受付にいる北澤が健気であった。

ほら、こういう身内びいきっぽい書き方になっちゃうんだよ。だってまぁ、僕の愛する人々が出ているのだから、仕方のないことなのだけれど。ただ、シビアなことを書くと、やはり試みとしては評価するが、脚本の完成度としては難があったと言わざるを得ない。だからこそ良いのだ、とも言えるんだがな。

コメント

投稿者:小夏 (2010年03月30日 18:18)

病み上がりの中、遠くまでご来場ありがとうございました。
ほんと、まさかの出演となりましたが、谷君にこんな風に書いていただいて、光栄かつ恐縮です。
本当にありがとうございました。

投稿者:ぼっこ (2010年03月30日 22:37)

観に来てたのねん!!嘘胸であいさつしたのに!!!

大変な時にありがとう。ぼっこもたいへんでした。
観てくれてうれしいよ。
今度一緒にあったかいものでも食べよう。