PLAYNOTE ジャック・ケッチャム『ロード・キル』

2010年03月23日

ジャック・ケッチャム『ロード・キル』

[読書] 2010/03/23 15:12

これもやっぱり病気中に読んだ本。何冊読んだんだろうな。たぶん15冊くらいは読んだのだろうけど、思い出せない。ガンダムの設定集とかFFの攻略本とかも読んだから、全部について書く必要はないと思うけれど、ケッチャムの本については記録だけは残しておきたい。

これは快作。シンプルな物語に、どうしようもない不条理が折り込まれていて、力強い。暴力というのは本来不条理で強引なもの、理由も背景も要らないものだ。そういう理不尽さを見事に語り尽くしているように思う。

冒頭の一節が印象的。高速道路をぶっ飛ばす刑事さん、フロントガラスに当たっては落ちる虫たちを見て、漏らす。

これが驚かずにいられるだろうか。何かを傷つけなければ、この世は前に進めない。
たったの一歩も。
いつも何かが災難に遭っている。

この予言とも直感ともとれる印象を読者は最後まで引きずることになる。ケッチャムは単なるホラー作家ではない。こういう世界観、人生観を、物語を通して語るのだ。

話はシンプル。元夫の執拗な嫌がらせやレイプによって精神的に追い詰められていたキャロルという女は、リーという新しい恋人と共に、元夫を撲殺し、死体を川に流す。素人めいた手口ながら証拠も消し、アリバイも用意し、あとは警察の追求にうまく演技をしなければ、と思っていたところに思わぬ横やり、何と目撃者がいたのだ。

その殺人現場を目撃したウェインという男は、一言で言ってキチガイだった。常日頃から人を殺したいという衝動を内側に溜め込んでいきていて、人気もまばらなその山中でキャロルとリーの殺人現場を目撃したというのも、いわゆる青姦でガールフレンドを犯している最中、衝動的に首を絞めてしまい、彼女に愛想をつかされて一人ぶらぶらしていたところ。

ウェインはキャロルとリーを脅迫し、何をするかと思えば、彼女たちを車に乗せて連れ回し、自分が人を殺すところを見せつけて回るのだ。キャロルとリーは逃げられない、拳銃と目撃証言、二つによって脅かされているから。二人の目の前で何の罪もない人たちが次々殺されていく。きっちり数えてないけれど、合計10人くらいは殺されたんじゃないかな、作中で。

こういうあらすじを書くと、何だ、人殺しの話が面白いのか、と思われそうだけれど、いやいやそうではなくて、それをしてしまう人々の心の揺れを読むのが面白いのだよ。連続殺人の現場に巻き込まれながら、文字通り手も足も出せないキャロルとリーの心中や、それを追うルール警部補の想念。ルール警部補はこの物語の第2の主人公と言ってもいい人物で、この一件を解決する間に、元妻との離婚以来抱えている心の傷を少しずついやしていくように見える。

『ロード・キル』を読んで確信したが、僕とケッチャムの大きな共通点は、連続殺人鬼に興味があるということなんだろう。作中、ウェインの倉庫の描写がある。壁にはダーマーやルーカスといった殺人鬼たちの写真や切り抜きがコラージュとなって貼られている、というものだが、そこで出て来る人物名の多さ、正確さ、これは連続殺人鬼フェチにしかわからないだろう。

ケッチャムはこうも言っていた。不正確だが。

「いい悪役を発見することは物語のスタートだ」

悪党が好きなわけでもないし、殺人に興味があるわけでもない、ただ、彼らの心の中には、僕らが知らない人間のもう一つの顔が隠されている。そこを覗いてみたいんだ。

覗いてみたいんだ。