PLAYNOTE 金原ひとみ『ハイドラ』

2010年03月23日

金原ひとみ『ハイドラ』

[読書] 2010/03/23 14:46

病気中に読んだ本シリーズ。実家で寝込んでいるとき、パソコンも携帯もなくヒマすぎるし実家に置いてきた本はあらかた読んでしまったので、近所のスーパーに入ってる本屋に行ったら置いてあったので買った。金原ひとみは好きな作家なんだ。文体や構成でいろんな実験をしているし、何より、自分に忠実な作家だから。僕のお薦めは『星へ落ちる』かしらん。

奇妙な話である。僕には少し、題材として消化不良な感じがしたが、そこがまた面白いのかもしれない。

主人公の早希はある男に癒着して暮らしている。新崎という仕事一徹で芸術家肌のカメラマン。仕事と愛情がないまぜになった関係性。そこで、別の男と出会う。松木という大御所インディーズバンドのボーカリスト。彼は新崎とは逆に、子供っぽく、あどけなく、ストレートに愛情を表す。で、三角関係に陥っていくわけだ。

『星へ落ちる』が面白い、と言ったのは、物語が実に多角的で、それぞれの人物がそれぞれに息づいている感じが見事だから。反面、この『ハイドラ』は、主人公・早希のために周囲の人物が存在しているように見える。新崎にしても松木にしてもリツにしても、魅力的な人物なのだが、その魂の奥底までは描かれない。主人公である早希でさえ、最後の決断に至っては、何故松木を捨てて新崎に戻ったのか、判然としない。だが、その辺の奇妙さが、却って物語の奥行きを生み出しているような感じもする。人間の心理なんて解明しきれるものではないし、解明しきってしまえば、味も素っ気もない、シンプルだが醜悪なものだから、やめておいた方がいい。

愛という言葉は古来日本では割と悪い意味で使われていたらしいんだな。本当かどうかは知らない。でも確かに仏教とかでも、愛=執着や欲望として捕らえられていて、いわゆる「本当の愛」なんてものとは真逆のもの。金原が描く愛は、そういう尺度に照らし合わせれば確実に「悪い意味での愛」、執着や欲望の側面を描いていて、だから僕は興味深く読める。愛は執着、愛は欲望、愛は性欲、愛は独占欲、愛は自己承認欲求、愛は一方通行。早希の頭を支配する、粘液めいたドロッとした思考がこちらに流れ込んでくるようで、読み進める内にこちらも愛の三角州に作られた深い沼底に落ち込んでいく感じがする。

彼女は、きっと、正直なんだな。きちんと自分の感覚で文章を書いているのがわかる。新刊出たそうだからやっぱりまだまだ気になる作家。