PLAYNOTE 4月ミュージカル顔合わせ

2010年02月14日

4月ミュージカル顔合わせ

[公演活動] 2010/02/14 03:24

今日はタイニイアリスでオペ仕事を終えた後、吉祥寺にて顔合わせに参加した。4月に自分が演出を手掛けるミュージカルの初会合である。

吉祥寺というのはあまりろくな思い出のない街で、忘れがたい陶酔や自惚れや屈辱の影が、あちらの路地のアスファルトの上や、こちらのビル街のネオンサインにこびりついているようで、最近では自然と足が遠のいていた。この街で自分は一度とんでもないミステイクを犯しており、それがきっかけとなって未だに片足を引きずっているような始末なのだ。これから稽古は主にこの街で行われるという。

初顔合わせの面々が多く、しかも自分が主宰ではない会合というのは久々なもので、立ち回り方というものがよくわからないままに4時間ほどの酒宴は終了した。多忙ゆえ中座しようとも思ってはいたのだが、やはり目の前にビールがあると腰の浮くはずがない。

顔合わせは文字通り顔合わせで、顔と名前を一致させること、手前はどんな人間ですということをお互い披瀝し認識し合うためのものであって、基本的には脳天気なものであるべきと思っているのだが、なんだか気合い十分で望んでいる何名からか「××はどうしましょうか」「××は必要ですか」「自分はまず何から手を着ければ」と質問攻めに遭い、「まぁ、稽古が始まってから考えよう」と思っていた自分はへどもどしながらお茶を濁しビールを飲み続けていた。

4月に演出を手掛ける『See What I Wanna See』という作品は、ミュージカルとしてはかなり難解な内容で、芥川龍之介の短編を翻案したというストーリーラインもプップクプーだが、歌のレベルという点でも高い技術を要するものがあるらしく、自分としてはなかなか楽しみにしている作品である。演出に関してはいくつかのイメージはあるものの、基本的にはまだ白紙で、と言うのも完全初絡みの人間が多いため、出演者たちの芝居の癖を見てから決めようと思っている。あんまり迂闊に脳内でゴチャゴチャやると、現場で滑りそうなので、最初のうちは稽古でもへらへらしていようと思う。

そういう難解なナンバーのあるミュージカルなので、かなり歌える人間を揃えたつもりだが、中でも楽しみなのはダルカラジャニスのヒロインガールにして絶滅を逃れた最後のヒッピー、ソウルメイト・武井翔子との再会である。稽古も楽しみだが、どんなバカ騒ぎを一緒にしようか、わくわくする。

芥川を題材にしたミュージカルの演出のお鉢が自分に回ってくるというのも、感慨深いものがある。今日は風呂で芥川全集から初期の作品を3作ほど読んだ。俺の世代で芥川がナンバーワンなんて思っている懐古趣味の人間はかなり珍しい。でも、ミュージカルにも挿話されている『袈裟と盛遠』を読み返していて、どうしてこんなに明るい風呂場でページを繰っていながらもこんなに暗い場所に自分を連れていくことができるんだろうと、改めて芥川の筆力や観察眼に惹かれた自分は、やっぱりアイツが大好きらしい。

気に入った一節。

盛遠は徘徊を続けながら、再び、口を開かない。月明。どこかで今様を謡う声がする。

  げに人間の心こそ、無明の闇も異らね、
  ただ煩悩の火と燃えて、消ゆるばかりぞ命なる。

バスルームの安い蛍光灯に隈無く照らされながら、無明の闇が深くなる様を感じ取るのは、半ば快感ですらあった。吉祥寺は暗かったが、この部屋はもっと暗いし、明日歩く遊歩道はもっと暗いだろう。

寂滅した太陽、凍りつく大地で、子供たちにシャーベットを売り歩くトレンチコートの男の姿。まだ僕は自分をきちんとイメージできていない。ミュージカル稽古が本格化する前に、書き切ってしまわなければならない原稿の話である。コーヒー飲もう。