PLAYNOTE 新国立劇場オペラ『ヴォツェック』

2009年11月27日

新国立劇場オペラ『ヴォツェック』

[演劇レビュー] 2009/11/27 23:13

オペラ観るの久し振りだし、『ヴォイツェク』が原作というにもとても惹かれたし、フライヤー等々に踊るグロテスクに誇張された衣裳・メイクが興味深かったし、知人がスタッフ参加していたりして、観に行った。アンドレアス・クリーゲンブルク演出。作曲はアルバン・ベルク。

これがもう、息を飲む傑作であった。音楽ははっきり言ってちっともわからん。作曲者のベルクは新ウィーン学派とかいう流れを汲む人で、現代クラシックと言えば俺でも名前を知っているシェーンベルクの直弟子だそう。無調音楽とかいう特徴を持っているそうだが、聴いてると、がやがやして不気味でざわめくようでうめくようで、うまく形容できないが、混乱していて苦しんでいて、ヴォイツェクの世界観にはとても合っていた。

美術が見事。浮遊したり上下左右に移動したりする大きなボックス=ヴォイツェクの部屋が1つあり、それ以外はほぼ素舞台で、床面は水が張られている! 演出家のクリ-ゲンブルク曰く、「音楽に対抗する自然の音が欲しかった」そうだが、単純に水しぶきが跳ね返るのは観ていて楽しいし、冷たく透明感のある空気があって、実にマッチした演出であった。

コロスというかコーラスというか群衆というか、の使い方がまたどえらく綺麗だった。真っ黒い服を着て後ろを向いている人々が遠景にあり、それだけでも十分不気味なんだけど、通りすがった男が金らしきものを撒くと、そいつらは一心不乱にこぼれた貨幣に集まってくる。貧困が人間性を踏みにじることをよく描いているし、無言の群衆という重いヴェールは緊張感のある音楽と相俟って背筋を凍らせる効果を上げていた。

医者と大尉の造詣もグロテスクで実に見事。ヴォイツェクにひげを剃らせている大尉は、ぶくぶくと太り両手に杖をついてよたよた歩き周り、体を剥き出しにして水泳用のゴーグルみたいな眼鏡を掛けてる医者は一発で「あ、こいつ狂ってんな」と思わせる。コミカルな役回りとして演じられる場合が多いそうだけど、本当に恐怖と笑いは紙一重で、この2人の存在がヴォイツェクを取り巻く世界のグロテスクさをよくえぐっていた。

全体的にリアリズムに背を向けた演出法が最高に面白い。水やナイフや踊る人々、顔をうつむけた人々に台座を担がれて行進する騎兵隊長、説明的なリアリズムではない、演劇的イメージの提出が劇の寒々しさ、グロテスクさを煽っていた。全体的にリアリズム・ベースじゃない演出だが、ヴォイツェクの部屋の壁や床は妙にリアルに描き込まれていて、その対比が崩壊し行くヴォイツェクの精神を表しているようで、文句なしの舞台美術であった。天井まできっちり作り込み前明かりだけで勝負するボックスのような部屋、こういう美術、先だって土岐さんから拝借したドイツの舞台美術集ではよく見ていたんだけど、まさか現実に目にするとは思っていなかったな。

美しかった。できることならもう一回、二回観たかったな。ドイツの演劇、演出ってどうしてこう先鋭的で面白いんだろう。行きたいな、ドイツ。