PLAYNOTE サンプル『あの人の世界』

2009年11月12日

サンプル『あの人の世界』

[演劇レビュー] 2009/11/12 17:04

サンプルの新作とあっては見逃すわけには行かないので観てきた。好きなor気になる劇団5つ挙げろと言われたら間違いなく入るサンプル。今回もぶっ飛んでた。池袋・東京芸術劇場小ホールにて。

犬だか娘だかわかんないキクというのが死んで嘆いてる夫婦、キクという名のダンスする少女、動物さんとかネズミさんとかウサギさんとかいうダンスチーム? と彼らを指導だか扇動だか餌付けだかするホームレスになった医者、運命の人を探し続ける青年、ビラ配りの人、首輪で繋がった親子、などが出てくる。

登場人物一覧から分る通り、もう全然要約不可能、不条理な会話とシュールレアリスティックな構図が続く。脳味噌で考えるとさっぱりわからないのだが、おもしろかったりかわいそうだったりえぐかったりする。

松井さんは「わかりやすい方」と言ってるし岩井さんも「今回のはわかりやすい」と言ってたけど、正直言ってわかりづらいと思う。理解しづらいという意味ではそう、だけど、感じ取りやすいという意味では確かに「わかりやすい」。ただ物語という手綱がないから、拠りどころなく感じられるけれど、感性をこちょこちょされる感じは気持ちがいいし、観ていて楽しい。ブラックユーモアだらけの遊園地にいる感覚。

人間関係の中で傷つき踏みにじられ陵辱される心、その断片のようなものがあっちこっちにあって、それを神妙な形でも痛々しい感じでもなく、ある意味ユーモラスに相対化して描いている。ように僕は感じた。絶対に解消されない孤独、心のほつれ、とか書くと格好いいけど、要は「さみしい」とか「さわりたい」みたいなものがポンとそこにある感じ。自分が『心が目を覚ます瞬間』でやりたかった手法にとても近いものを感じたが、松井演出の方がはるかにドライでユーモアに満ちていて、唸らされた。

八百屋舞台のように傾斜した三角形と、その逆方向へ傾斜する逆向きの三角形が組み合わさり、その上空に空間がもう一つ。美しい舞台美術。古館さんがおしっこするシーンや深谷さんが宙づりされるシーンは強烈。犬のマスクやグロテスクな人形、遠くでたたずむ人影やこっちを見ている顔なんかは、立体化されたシュールレアリスム絵画のよう。ご本人に聞いたらバルテュスやブリューゲルが好きだということで、妙に納得、安心。僕のような理屈人間はこうして解釈の紐を手に入れて安心するけれど、それが俗っぽいということもよく理解しているので許してくれ。

ただ最近、現代口語演劇の発展系たちが、シュールレアリスムめいたものに近づいてきているという実感を得ている。これについてはいずれきちんと考察したいが、今回のサンプルを単純に現代口語演劇の後継と位置づけるのはもはや愚かしい上に無意味であると思う。マニエリスムを乗り越えた絵画が、ロマンチシズムやリアリズムを経由し、印象派や表現主義といった「私」寄りの手法を手に入れた後、「現実的すぎるくらい現実」、つまりシュールレアリスムという手法に遭遇したように、今、現代口語演劇から萌芽した若き才能たちは、現実的な光景同士を断片化し衝突させることで、ある意味シュールレアリスムめいた演劇を形作っているのだと思う。一本論文書けるな。いずれにせよ、2000年代から2010年代に切り替わろうという今、2000年代を象徴した現代口語演劇を越えた表現手法を、岩井、松井、多田、前田といった奇才たちが産み落としているのを目撃している自分は、刺激的な時代に生きているのだと言える。俺も頑張ろう。

ご本人ともお話してきたが、本当に、脳みその中身が見てみたい人ナンバーワンだ。ああ、もちろん、こうして舞台化されているわけだから、覗いてるのと同じなんだろうけど。