PLAYNOTE 夏目房之介『手塚治虫の冒険』

2009年11月09日

夏目房之介『手塚治虫の冒険』

[読書] 2009/11/09 23:45

漫画コラムニスト・夏目房之介氏の出世作にして代表作。漫画の神さま・手塚治虫の作品が、どう生まれ、どう変化していったか、テーマや内容といった「解釈」ではなく、コマ割りや線描などの「表現」を通して追っていく、というもの。手塚治虫を語ると、戦後の漫画史が見えてくる。漫画史が見えてくると、日本社会の変化が見えてくる。実に素晴らしい評論だった。手塚治虫ファンじゃなくても、漫画に興味がある人に大変おすすめ。

何度もこのブログで紹介してはいるが、スーザン・ソンタグの『反解釈』という本が、俺にとっては「批評」という行為を語る上で重要な指標になっている。すげぇ大雑把に論旨をまとめると、物語やテーマを解釈すんな、表現手法に注目しろ、それが批評だ、ということだが、この『手塚治虫の冒険』で夏目房之介氏はそれを見るも鮮やかに繰り広げている。

手塚治虫は、ファン以外にはあんまり知られていないけど、とにかく画風が変わり続けた作家で、当時の流行に非常に敏感だった。で、例えば初期、ディズニーアニメや宝塚、文学・演劇という手塚少年を育んだものたちの影響がモロに出ている頃から、段々とコマ割りの実験や流線の表現の工夫などが見られるようになり、やがて劇画の流行や大友克洋の登場などに嫉妬し自分の表現をどんどん変えていく。

そこら辺までの知識はあったが、この本、とにかく実際の漫画からの引用がとても多いので、手塚の変遷が手に取るようにわかるし、「変わったもの」と「変わらなかったもの」の中から、作家・手塚治虫の本性が暴かれていく。結構厚い本だったけど、一気に読んでしまった。

劇画の登場、そして大友らに代表されるような超リアルな表現の登場、という流れは、そのまま文学や演劇の時評にはめこめそうな気がしている。表現上の変化を読み解いていくこと、主観ではなく徹底的なデータと証拠で足場を固めていくこと、そこから逆に作家性やメッセージが見えてくるというのは、面白い。お勧めです。