PLAYNOTE 青年団リンク・二騎の会『一月三日、木村家の人々』

2009年05月29日

青年団リンク・二騎の会『一月三日、木村家の人々』

[演劇レビュー] 2009/05/29 02:40

手放しで褒める、久々に。東京で最も攻めてる演出家・多田淳之介演出、宮森さつき脚本による、介護を扱ったコメディ・ドラマ。演劇初心者さんから俳優さんまで、すべてに薦めたい一本。面白かった。

あらすじ。昨年、熟年離婚をして、一年間であっという間にボケてしまった父を、長女が一人でつきっきりで介護していた、が、追い込まれちゃって練炭自殺しようとするまさにその瞬間から物語は始まり、運良くか運悪くかその日家族会議を開こうとして訪ねてきた兄弟たちとちょっとした部外者による二時間弱を切り取ったお芝居。約100分。

「介護問題をコメディで」
この切り口だけでまず賞賛したい。介護問題、そりゃあ演劇の題材にもなるべきでしょう。だが、やりたくないし、観たくない。それをコメディで行こうとする、そこからバランス感覚の良さと問題意識の高さが滲み出ている。

まず冒頭、長女が窓を目張りして、練炭に火を点けて、さぁ死のうっていうところで、チャッカマンをマイクに見立てて、ちゃらけて歌を歌ったり、インタビューする司会者を何となく真似てみたりするシーンから始まる。皆さんにもあるでしょう、「いいともに出た自分」とか「ロッキンオンジャパンのインタビューに答える自分」とか、そういう妄想する瞬間。死の間際でそれをやってる長女というキャラ、若い劇団がやると痛いギャグみたいになっちゃうのだろうけれど、そこに疲れが見えて、等身大の切なさが見えて、いい導入で、この時点でぐっと引き込まれてしまった。笑えたし。

多田さんの演出はデスロックでやっているような、身体の現前性をぐいっと前に押し出したようなアヴァンギャルドな(少なくとも僕はそう形容してしまう)ものの印象が強かったけれど、ここではものすごくきちんと会話劇をやっている。さすがmixiの日記で散々平田オリザを賞賛していないな、と言うか、現代口語演劇というものを理解した上で自分のツールにしているのだな、ということがよくわかって、自分にとっては意外だった。だが、間の取り方にしても人物の掘り下げ方にしても、リアリティがある、同じ部屋にいる感じがする。

同じ部屋にいる感じがする。これが今回の演出の骨子の一つであるのは火を見るよりも明らか。客席はまるで木村家の延長のような印象で、客席のひな壇の上にソファーのような布が貼られてクッションでも置いてありそうな雰囲気だし、入り口で靴を脱いで入る。さらに、前説でわざわざ多田さんが「木村家にお越し頂きまして…」と言う徹底ぶり。「木村家にお越し頂きまして…」みたいなのって、寒い劇団が超寒い前説ギャグでやったりしている感じを想像してもらっちゃうと残念なんだけど、センスのいい、くすりと笑える、それでいて強引な、いい前説でした。前説をやらせたらナンバーワンの演出家なんじゃないかな。

全体通してオーソドックスな会話劇なんだけれど、突然役者が客席に語りかける瞬間が出る。これも、藪から棒な独白を入れて滑っているような感じでも、「独り言を言った→たまたま視線の先に客席が」みたいな安い誤魔化しでもなく、あたかも客席にいる私がその家族会議の一員でもあるかのように、さりげなく目配せをしてくるような感じ。何もしなくても面白い脚本だし演出だし俳優陣ではあるけれど、こんなトリックがあることで、「同じ部屋にいる感じ」が嫌が応にも強まる。

途中、大変体格のよろしい、つまり太った自称ホストが入ってきて、現場を引っかき回すのだけれど、この配役が絶妙であった。アテ書きだとしたらセンスがいいが、多田さんのキャスティングだとしたらさらにセンスがいい。ト書き指定ではあるまいと思って台本わざわざ買っちゃったんだが、台本には「どうもホストには見えない」くらいの触れられ方。この役に限らず、適材適所まくっていて、青年団の厚みを感じるのみならず、キャスティングorアテ書きのセンスの良さをひしひし感じた。

6/2(火)までやってる。ちょっと今月観た芝居の中では突出していた。ぜひ多くの人に観て欲しい。