PLAYNOTE ジャック・ケッチャム『オフシーズン』

2009年01月02日

ジャック・ケッチャム『オフシーズン』

[読書] 2009/01/02 23:12

家の電話線抜いて携帯も電池ごと抜いて、誰にも邪魔されないうっとりした午後に、ゆったりと読書! 正月でもなけりゃやれないんだからね。さて、じゃあどの本を読もう、と積ん読専用本棚を眺めていたら、ジャック・ケッチャムの出世作であり彼の代表作の一つとされている『オフシーズン』があった! 買ってたんだな〜、これ。忘れてた。

グロテスクな猟奇表現は後発の作品に勝るとも劣らないおぞましさを持っているが、「救いのなさ」に関しては飛び抜けている。希望を抹殺するような筆致。すさまじい。正月に読む本じゃねーがな。以下ためらうことなく盛大にネタバレ。

アメリカの片田舎、観光のオフシーズンになると人気もまばらなド田舎に越してきた若い女流作家・。彼女が、自分の彼氏、妹とその彼氏、元彼とその彼女という五名を家に招待するところからお話が始まる。なお、実際にはその前に、プロローグ的に匿名の女性が深夜、木で作った鞭を持つ子供の一群に追われるシーンが挿入されている。

聡明であり、気も強く、計算高いと言えば計算だかいけれども、生きることや自分の欲望に対して実直な主人公・カーラ。彼女を中心に物語が展開していき、彼女以外の五名はどんどん殺されちゃうんだろうなぁ、なんて思っていると、中盤手前でいきなり主人公だったはずのカーラから惨殺されてひどく驚く。そこまでの構成を見れば、カーラ=主人公という見せ方をあえてケッチャムがやっていることは間違いない。それをこのタイミングで惨殺するのだから、そこには作者の意図があると言わねばならぬ。この時点から、救いのなさは漂っていた。

題材にとったのは、かの有名な食人一家・ソニー・ビーンだろう。洞穴に住む野生化した一家が、旅人や町の人間を次々に食うという伝説。『オフシーズン』において凶刃を振るい、文字通り牙を剥いて主人公の欠けた主人公たちに襲いかかってくる連中も、ある理由によって人間社会からはじき出されてしまい、野生化し人間らしい思考を失った一家なのだが、この正体が暴かれていく様が実に巧妙で素晴らしい。冒頭の挿入シーン、カーラの見かけた赤い服の男、カーラの妹・マージーが読む本の内容、警官たちのうわさ話。少しずつ小出しにされるエピソードをつなぎ合わせて、読者はもうそこに何が潜んでいるのか気づいているのに、登場人物たちはそれを把握できない。ケッチャムの作品はいずれもスリリングで巧妙な展開のさせ方に舌を巻くが、デビュー作である『オフシーズン』でもその技巧を味わえるとは。

ソニー・ビーン一家についてはこちらを。

ソニー・ビーン一家をモデルにしてはいるが、まるで時代設定が違うから、ほぼすべてケッチャムのオリジナルと言っていい。驚くのは血肉のちぎれる音や匂いまで感じるような文章表現の生々しさだけでなく、どう言えばいいか、想像力というものがすごいと思うんだ。

あるシーンで、食人一家の妊娠している少女が、兄弟だろうか、少年を性的に誘惑するシーンがある。少女は、捕らえたマージーの足の裏を突いて血を出して自分の手に塗りたくり、さらにはセックスを求める少年の尻をナイフで少し切って血をさらに足して、それを自分の乳房に塗りたくり、相手の顔や自分の肌に塗りながらセックスをする。こんなシーンさ、想像力でしか描けないわけじゃない。記録にあるわけないんだから。が、ケッチャムの完全な空想から出発したこの情景が、この食人一家の性質、心根とでも言うべきものをとてもよく伝えてくれている。

作家が自らの作品について詳細に語るというのは実は結構珍しいケースだが、この本のあとがきではケッチャムがかなりそれをやってくれているので、ケッチャムファンなら必ず読むべしという本である。あとがきの中でケッチャムは、この本がいかに当時の社会の目という名の検閲に拷問されて、本来の姿を失ったか、それに対して自分はいかに戦いいかに破れたか、ということが詳細に書かれている。ケッチャムの作家としてのスタンスがよく現れており、実に面白い。

一節を引用。非常に共感する。この一節を読んで、なるほど、やはりケッチャムは自分のツボに入って当然なのだな、と思った。

そのとおり。彼らはニックを助けさせた。わたしはニックを殺したかったのに。
(中略)
譲れなかった。
テーマを考えても、劇的効果を考えても、ニックの死は不可欠だった。なにしろ、この小説はそれを表現しているのだ。人生とはそういうものだ、世界とはそういうものだということを。(中略)……誰にわかる? 皮肉、偶然、世界の果てからの突然の落下、のたうち、はねまわる状況――つまるところ、そういうことなのだ!
わたしは抗弁した。
そして敗北した。

「ニックって誰? どうなった人?」

気になる方は読んでみて下さい。