PLAYNOTE NHKスペシャル『微笑と虐待』

2008年11月20日

NHKスペシャル『微笑と虐待』

[映画・美術など] 2008/11/20 02:29
mary-shape.jpg

深夜、終電、しかも満員。品のない千代田線、くたくたになって帰る。テレビをつけっぱなしで眠りこけている父親。『むちゃぶり!』がやっているので楽しくそれを観る俺。ワサビをあんなにたくさん食べて、庄司智春はガッツがあるなぁ。俺でもあそこまではやらないなぁ。

母親は明日は資源ゴミの当番なので五時半起きだと言う。書き置き、「明日の予定は?」、ラップをかけた手料理。鶏肉を乗せた丼ものと、蠣のソテー。父親が目を覚まし、布団へ入ろうと二階へ登る。

『むちゃぶり!』が終わったのでチャンネルをひねったら、NHKでドキュメンタリーがやっていた。黒魔術の祈祷師のような格好をした人間が箱の上に立っている。アナウンス。「手足と性器の先端に電極を取り付けられた囚人が……」

abu-ghraib-03.jpg
「手足とペニスの先端に電極をとりつけられ、虐待される人間」

以下に掲載する写真は、いずれもアブグレイブという地球上に実在する土地で撮られた写真である。

かの有名なスタンフォード監獄実験の話をしよう。新聞広告などで集められたまったく普通の大学生などを二つのグループに分け、看守役と囚人役という役割を与える。こうしてスタートした擬似的な監獄状況の中で、演じられていたはずの権力関係が少しずつ拡張していき、実験を中止しなければならない事態に陥る。嫌がらせがエスカレートし、暴力が始まる。

同実験を主導したアメリカの心理学者・フィリップ・ジンバルドーは、善良な人々が疑いもなく邪悪な行動に走るようになるこのような心理作用を、『ルシファー効果』と名づけている。ルシファーとは言うまでもなく、天国から追い落とされて、やがてサタンと結託して神に反逆を企てる堕天使の名前である。

abu-ghraib-07.jpg
「虐待により全身に傷を負った人間と、カメラに向かって微笑む人間」

スタンフォード監獄実験については一度随分詳しく調べたし、よく知ってもいたのだが、「ルシファー効果」に関しては初耳(なのか失念していたのか)だったので、検索をかけてみたら、こんなページが引っ掛かった。どうやら医師が運営しているブログのようである。

医学都市伝説: ルシファー効果

私もこの実験(スタンフォード監獄実験)の概要は聞いたことがあるが、今まで勤めてきた精神科病棟の事例などを思い起こしてとても他人事とは思えず、出来れば考えないようにしてきた面がある。基本的には収容所でしかない精神科病棟で、よりよい治療環境を作ろうと努力する職員たちの行為が、しばしばある種の虐待になってしまうようなことは日常茶飯事だったからである。

たとえば小中学校の人間関係だとか、大人数の職場や部活の人間関係だとか、ナチスドイツでのホロコーストだとか、戦前日本の非国民排斥の風潮だとか(70年前である)、いろんなケースが思い当たる。僕の祖父は基本的には善人だったろうし、その隣人も基本的には善人だったろうし、その隣人だってきっとそうだ。70年で人類は格段の進歩と革新を遂げたから、二度と同じようなことは起こらないに決まっている、その点は疑いようがないのだが。

同ブログからもう一つフレーズを引用。よく勉強されている方だ、本当に頭が下がる。

ミシェル・フーコーがいうように、権力というものはこうしたミクロな「善意」をそのエネルギーにしているのであって、決して支配と抑圧に向けた悪しき野望がその源泉ではないのだ。

『微笑と虐待』では、2003年にイラクで起きたアブグレイブ収容所での、アメリカ兵によるイラク人虐待事件を扱っていた。今さらかよ、という話題である。

アメリカ人はクソだ。いくら上官命令があったからって、自分らが殺した人間の死体の前でカメラにピースとかするか? 上の連中も上の連中だ。数々の告発を無視して「上層部の関与はなかった」と言い張り、虐待に携わった七人の兵士を「七つの腐ったリンゴ」と呼ぶことで、責任を軍や国家といったレベルから個人のそれへと引きずりおろしている。しかも聞けば、虐待に携わっていたのはその七人だけではないという。たまたま写真に写っていたがために、世界各国に虐待の証拠をばらまいてしまった七人、そいつらをつるし上げることでスケープゴートにしているだけじゃないか。アメリカ人ってのは本当にクソだ。キリスト教の国? どこがだ。

と言うのは簡単なんだ。恐らく僕もルシファーなんだろうし、あなたもルシファーなんだろうし、彼も彼女もルシファーなのだろう。

abu-ghraib-02.jpg
「裸にされて取り囲まれ、軍用犬をけしかけられる人間」

私の目に映る木々の緑、薔薇の赤。
私たち二人のために咲き誇る。
そして私は一人呟く、「なんて、素晴らしい世界!」

abu-ghraib-04.jpg
「排泄物を塗りたくられ、写真を撮られる人間」

私の目に映る空の青、雲の白。
晴れた日に、あるいは聖なる夜に。
そして私は一人呟く、「なんて、素晴らしい世界!」

abu-ghraib-05.jpg
「虐待によって死亡した人間と、それを指差して笑う人間」

私の目に映る大空の虹、七色の虹。
空を彩り、人々の頬を染める。
「こんにちは」と言って握手する人々、
でも本当はみんな、「愛してるよ」って言ってるのさ。

abu-ghraib-01.jpg
「全裸で“ピラミッド”を作らされる人間たちと、カメラに向かって微笑む人間たち」

私の目に映る泣き顔の子供、育ち行く子供。
私たちよりも賢く、大きく育ってくれるはずだ。
そして私は一人呟く、「なんて、素晴らしい世界!」

abu-ghraib-06.jpg
「犬用の首輪に繋がれる人間と、紐を引く人間」

そして私は一人呟く、「なんて、素晴らしい世界!」
「あぁ、なんて」