PLAYNOTE そして『JANIS』を振り返る俺

2008年10月28日

そして『JANIS』を振り返る俺

[公演活動] 2008/10/28 12:05
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ようやく、DULL-COLORED POP vol.7『JANIS』を振り返ります。ようやく。

三度目となるCoRich! 週間ランキング一位に加え、DULL-COLORED POP史上ぶっちぎりの最大動員。1000人には若干届かなかったものの、もう一歩階段を登れば届く範疇。旗揚げから三年、ようやくここまで来ました。ご来場、応援、本当にありがとうございます。

今回、初の試みとして、台本販売をやったんだけど、そうしたら第一回公演からすべて観てくれているお客さんが、「第二回だけ観れてないんです」と言って台本八冊フルセット版をご購入。ニコニコしながら「2500円って安いですよね!」だと。もう、売るってだけで恐れ多かったのに、この反応。嬉しいやら、申し訳ないやら、気持ちがもにゅもにゅした。でも、これも、長く続けて来たからだね。

仕上がりとしては、観て頂いた方にはばっちりわかる通り、ロックンロールの魂とビートが乗ったいい芝居でした。ようやく劇団としても安定してきたし、演出家としても興行主としてもバランス感覚が育ってきたように思う。

嬉しかった反応

今回、特に嬉しかった反応は四名。

一人目は、DCPOPの音響をずっとやってくれている長谷川ふな蔵氏。彼は元ロック小僧でパンクバンドをやってたりライブハウスのスタッフをやったりしていた筋金入りのロック通なのだが、彼をして「過去すべてのDCPOPを観ているが、今回が一番好き」と言わしめた。ヤッタ!

二人目は、高野しのぶ氏。いよいよようやっと高野しのぶを黙らせてやった。彼女も初回公演からすべてを観に来てくれている、言わば子どもの成長を見守ってたまにお小遣いをくれる親戚の叔母さん、といった感が僕にはあるんだが、かといって生ぬるくなく、ガンガンと酷評を書いてくる恐るべき叔母だったのだが、今回ようやく好感触のレビューがもらえた。まぁ、まだまだ言いたいことは山ほどあるんだろうが、とにかく「しめた!」と思ったよ。

三人目は、アロッタファジャイナ主宰の松枝佳紀氏。詳しくは同氏のブログの当該記事を読んで頂くとして、感想を通り越して、劇評をさらに過ぎて、一つの文化論の序章になっている、松枝さんの表現者としての鬱憤と興奮が感じられるナイスエントリー。自分も本当にいい芝居に出会うと、同じようにエスカレートして文化論に片足突っ込んじゃったりすることがあるけれど、もしそういう反応を彼のような敬愛する表現者に引き起こすことができたのならこんなに嬉しいことはない。

四人目は、mixiに書いていたので実名晒さないが、M葉さん。「今年観た芝居の中で一番よかった」。シンプルだけど、こういうのとか、客出しで言われる「次も楽しみにしてます」とか、そういうのはとても嬉しい。

どれも嬉しいが、ただ、僕はもう、お客さんの反応を気にしたり、そのために芝居をやっているわけではないので、どれも嬉しいが、どれも本質的に言えば嬉しくはない。自己評価でどこまでやれたか、を、ここから書くよ。

要は、すげー長い記事だってことだ。

脚本について

出来はいいのだが、難点がいくつか。

まずは、今回あえてアメリカということで、翻訳戯曲文体チックに台詞を書いてみたんだが、これが評価が分かれたこと。わかっちゃいたんだが、結構言われてへこんだ。ただ、利点もあって、冒頭でどぎついアメリカンを出しておかないと、中盤以降、感情的に盛り上がったところで急にバタ臭くなってゲロッってくるし、最初から人物の軸として饒舌、表現力が濃い人を描いておいたおかげで、尖った台詞が書けたんだとも言える。あの文体を選ばなかったらセスやペギーという強烈な人物像は生まれ得なかっただろうし、ジャニス自身も深川辺りに住んでそうなブスになっていたと思う。

翻訳戯曲っぽさ、っていう面白さは、確かに伝わりづらいんだろうな。ただでさえ現代口語演劇だったり、ナチュラルでさらっとした言葉がウケてるんだから。でもでも、そこがDULL-COLORED POPの個性なのだから、気にしないことにするよ!

脚本的な難点として次に挙げられるのが、長いこと(笑)。本当はあの三倍くらい書きたかったし全然書けるんだけど、あの尺でも十分長い。これも、わかっちゃいるけどやめられない。やめよう。あるいは、椅子のいい劇場に行こう。癪だがそうしよう。次々回あたりでそうします。

構成的にも一点。今回、最も狙ったのが、脚本上で言えばどのページを開いても、上演的に見れば三分に一度は死を思わせるキーワードが出て来る、という、不安や不穏が抜き足で近づいてくる感覚を作る、ということだったんだけれども、それが今一つうまく機能しなかったこと。大抵、うまくいってないところは映画的な感覚でやっちゃっていたり、小説的な印象で台詞を描いていたりするのでよくわかる。さらっとやりすぎた。そういう意味で、僕はこないだのジェットラグプロデュース・中屋敷演出の『やわらかな棘』の演出にはドキリとした。ああいうの、今流行りの静かな演劇派の人々は嫌うだろうけど、うまいと思うんだ。自分も昔はああいう派閥にいたはずなんだから、そろそろあっちに戻ろうと思う。

しかし、ジャニスという人物像にギリギリまで近づけたと思っているし、脚本的なクオリティは安定してきたと思っている。歌との繋ぎ目がきちんと脚本上の流れで見てスムーズにやれたのもよかったし、前述の通り、「濃い」台詞が書けたのもよかった。

いくつか抜粋しておく。

ペギー 大きく息を吸って、耳を澄ますと、遠くからラジオのノイズが聞こえてくるの。明日は絶対に知らない。もっとよく聴いてみて。白いお皿と銀のフォークがカチャカチャぶつかる音、虫たちが笑う声、中国の女の長い髪が引きちぎられる音。優しい、柔らかい雲の上にいるから、何時間座っていても痛くないの。見える? 今、私は、目の前にいるあなたの頭が見えるけど、あなたの頭、それは同時に私の足元、足の下にも見えてるの。わかる?
ジャニス わかるよ。
ペギー 心のスイッチを消して、リラックス、流れに身を任せる。脳みそにはお布団をかけて、おやすみなさい。服従しなさい、虚無、何もないということに、こうべを垂れて、服従しなさい。内包されている意味に気がつくはず。愛はすべて、愛は人々、愛は雨粒の一滴一滴。

セス そんなに三人でしたいの?
ジャニス え? あぁ、それは別に……。でも、かわいいから気に入るよ、絶対。
セス 気に入らないよ。そういうのは好きじゃないんだ。レズビアンがって意味じゃないからな。そういう、表面的にイカれてるような取り組みってのは、大抵薄っぺらくてつまんないんだよ。飽きちゃうんだよ。コーヒーに生クリーム乗っけたりミルク入れたり、ガキはそういうの喜ぶけど、ブラックがいいんだよ。ブラックが一番甘いし、一番明るいし、一番……、高いんだよ。しゅんとしてんだよ。しゅんと。
ジャニス わかる。
セス わかるか。
ジャニス わかる。

セス お前は決められない。いいか、お前は決められないんだよ。何を買うとかどこに行くとか誰と寝るとか、決められるのはせいぜいそれくらいなんだよ。でも構造上、仕方ないんだ。お前は、本当の意味では、何一つ決められない。……結婚しようか?

ベルボーイ さっきの男の人のことを、やっぱり愛しているんですか。
ジャニス ……あなたくらいの年頃だと、愛って、リヴィング・ルームのクッションみたいなものだと思ってるかもしれないけど、本当は、もっと底抜けに冷たくて……、硬い、黒くて硬いものなの。私はクッションに座って紅茶を飲むこともできた、できたんだけどね、前の男となら。でも、私は冷たくて黒くて硬い方を選んだの。選んだ、って言うよりは……、私は決められないの、やっぱり。わかる?

演出について

大した仕事はしていない。いつも通りのことをやっただけだ。以上。

演奏について

最初は「形になるかどうか」という線で、本当に失笑を買うんじゃないかとびくびくしていたバンド演奏だったが、最終的には圧倒的なエネルギーを持った目玉にできたのはよかった。いっそ「ミュージカル」と銘打ってもよかったのかもしれないし、そうした方がお客さんの誤解が少なくてよかったとも思う。

「あんなに演るとは思わなかった」という声がちらほら、だが、そりゃやるよ! だってジャニスだしロックだよ! って言う傲慢な性格の俺だが、あれだけやって飽きられなかったのは逆にすごいと思っている。ベース兼バンドリーダーの新戸以外は本職でもプロでもないわけで。

ただ、やっぱり音楽は怖いなぁと思ったのは、ジャニス役の武井の喉のコンディションを常に気にしての6日間になったということ。演奏部分に限らず、その他のシーンのダメ出しをするときでも、喉に負荷がありそうだから控えさせた方がいい、とか、ここの部分でもう一つ感情的に突っ走っていいとか言おうもんならその次の歌でまたすごいことになりそう、とか、ダメ出しして返し稽古したいけど、いややっぱり休ませておいた方がいいから入り時間遅めで、とか。これは、ストレスだった。もっとやりたかった。

が、本当にこういうクソバカな企画をやって、成功できたのはマジで音楽監督・伊藤くんおよびバンドリーダー・新戸および音響・長谷川ふな蔵の三名のおかげ様で。演劇を長く続けると、面倒くせえこともガンガン増えてくるけれど、唯一と言っていいメリットは、こうして人の輪が増えていくことだ。おかげでアリスを始めて使った去年の三月からの宿願であった「アリスでバンドセット」というのがやれました。ありがとう。

企画について

これだけ動員すれば企画としては勝ちだろう。しかも、よくあるあちこちの看板俳優引っ張ってきてゲタをはく形ではなく、純粋に劇団力と俳優はじめ関与者一同の努力でやれたってのはすごい。やったねやったね!

ただ、今回はじめてやってみた、喫煙席設置・持込飲食自由の「Livehouse Day」は、二度とやるまいと思っています(笑)。まぁ普通の雰囲気の芝居ならまずやらないだろうってのは元々わかっていたけれど、嫌煙家の人々からのクレームがすごかった。フライヤーやウェブにその旨明記して、客席を分けて、空気清浄機を入れて、室内の換気扇をガンガン回して、でも言われるってなったら、もうできん。

かつては映画館でも芝居小屋でも煙草をぷかぷかくゆらせて、自分勝手にメシを食ったりお菓子をつまんだりしながら観るのが「当然」だったのだが、まぁ時代が変わったのだな。健康増進します。とても健康な劇団になります。とても健康な私たちは、とても健康的に毎日を生きて、きらきらと人生の充実を味わうのです。

あとは、前述の部分とかぶるが、演劇×ロック生演奏ってのはよかった。演劇以外の観客層がたくさん来てくれた。フライヤーにもわざわざ「はじめて小劇場演劇を観る人へ(チケット予約の仕方)」とか書いたんだが、それに見合うだけ、音楽ファンや、ジャニスファンや、ふだん演劇を観ない人が観に来てくれていた。小劇場演劇のどんづまり状況ってとにかく一般客の開拓が重要なファクターのはずなのに、やっぱりまだまだやり方として弱いよね。若い劇団で問題意識を持ってる連中は多いようだから、この先目の覚めるようなアイディアが出て来て欲しいし、レビュワーや劇評家の方々にも、その辺の意識をより強めていって欲しいと思う。

おっと、ここからはJANISの話というより別のなんちゃら論になってしまう。やめやめ。

その他

もうすでに長すぎるくらい長いので、やめにしていいと思うんだが、出演者および関与者について一言ずつだけ。

神がかった出会いであったが、この先は役者として絡みたい武井翔子サンキュー。着想としてのベルボーイが今回の脚本上自分は一番面白いと思っているしそれがやれる俳優を抱えているというのは嬉しいことだぜ清水那保サンキュー。人間として打たれ強くなったようだし挑発としての役をよくやったとりあえず合格堀奈津美サンキュー。こいつのルックスとこいつの魂が『JANIS』のある意味デザイナー、10年後が楽しみ岡部雅彦サンキュー。バーニィもよく書けた役の一つだと思うんだがあんなバタ臭い外人やれるのは君だけ影山慎二サンキュー。清水ハマカワに続くDCPOPのトンチキポエムガールに抜擢して今後もどっかで是非絡みたい桑島亜希サンキュー(どうでもいいけど清水・ハマカワが組むとか言ってたユニット名は「トンチキポエムガールズ」でもう決まりだと今思った)。成長率ナンバーワンだと思うもんだで次に再会するときが楽しみな齋藤豊サンキュー。おつでーす、あとでメールします新戸崇史サンキュー。前回とまるで違う役どころでも存在感を発揮した若き才能をタンバリン叩いて祝福したいぜ千葉淳サンキュー。セスの台詞が書けたのはあんたがいたおかげだが本当の真摯な努力家で真面目な奴ですごい好きだしまたなんかやろう中村祥サンキュー。

出演者以外では、衣裳家中埜愛子の良心的プライス+献身的こだわりには助けられた。演出助手陶山は迷惑かけたし演助の仕事じゃなくね? ってとこまで世話になったが、まぁそれも演助の仕事と言えば仕事だし、事実、彼女がいてくれたおかげで俺が演出に頭を使うことができたのは間違いないから、いい助手あっぱれ。同じく演出助手永岡一馬はサンキューとかベイベーとかより自分の軸をきちんと据えてこの先頑張って欲しいが、裏でいろいろ働きながらも本番の字幕オペおつかれ。あの子、またな。終わりじゃないからな。早く日程教えて下さい(←笑)。吉水さんも無茶なお願いを聞いてくれてありがとうございました。横川さんもクレイジーな現場でごめんなさいね。そして松本大介、次こそガチンコで明かり作りやりましょう。ハイすいません、日程早く出します。

おしまい

と、最後は内輪っぽい空気になって申し訳ないが、この辺で『JANIS』を振り返り終わろうと思う。

長い長いと思っていてもその実とても短い人生、その中で、ジャニス、あの女の話が書けたのは本当によかった。一生の誇りであり思い出になると思う。初日、武井が歌い出し、会場から拍手と歓声が沸いた瞬間、あれは俺の演劇人生ベスト10に入るいい瞬間だったし、ボール・アンド・チェインでマイクに這い上がる様とその後のWow Wowは、俺の演劇人生ベスト5に入ると思う。

最後、字幕で出した言葉をもう一度ここに書いて、おしまいにする。おやすみなさい。

Rest in Peace
to
Janis Joplin

from DULL-COLORED POP

劇評リンクなど

今回、時間がなくて熱心に集めていなかったので、おいおい。