PLAYNOTE ハイバイ『て』

2008年06月21日

ハイバイ『て』

[演劇レビュー] 2008/06/21 02:48

脚本、演出、俳優力、死角なしの面白さ。以下全部ネタバレ。下北沢駅前劇場にて、23日(月)まで。是非観に行くといいと思う。現今、小劇場で観られる最もユニークで完成度の高い作品。

ハイバイは昨年くらいから追っ掛けているが、不条理で超常現象的なギミック(得体の知れない病気とか)のないのってこれが初めてな気がする。一応死にそうなばあちゃんを中心にした話だけど、老人介護の問題とかじゃなくて、わかりあえずにどんどん不幸になっていく不器用で馬鹿でみっともない人々が生々しく描き出されていて戦慄する。

くくりで言ったら群像劇になるんだろうが、秀逸なのは最初は普通に主人公のいるお話っぽく見せちゃってるところ。金子岳憲氏演じる「じろう」が主人公で、よく岩井作品に出てくる理不尽に怖い奴として吉田亮氏演じる「たろう」が出てきて、何か理不尽に揉めたりして、ってとこまではいつも通りだったんだけど、途中からシーンの視点が「たろう」に移る。あるいは長女の「よしこ」や岩井氏本人が演じる「山田母」に移る。

「じろう」目線で「たろう」を見て、あー田舎とか行くといるよなこういうセンスの悪い従兄弟とか親戚とか、カチンと来るわー、と思ってうかうか見ていると、いきなり「たろう」目線が入って来て、むしろ「じろう」の理想主義的で偽善者っぽい薄っぺらな言説にコノヤローと思ったりする。長女の「よしこ」なんて途中まではよくいる鬱陶しい親戚のおばちゃんくらいにしか見えてなかったのに、後半で「よしこ」の気持ちがわかったり、あるいはさらに「よしこ」への憎悪がふつふつ沸いたり、と、観ている俺の感情がぐらぐら揺れる。しかも、身勝手な四人兄弟の性質が、最終的にはDV野郎だった「山田父」の印象に繋がる、って言うか、「親父に一番似ているのはお前だ」みたいな話になったりして、直接的だがより生々しく痛々しい。もう、参ってしまう。

シーンごとには主観的でありながら、全体としては群像劇。よくできたアイロニカルな構造で、前例がなくはないのだろうが、実に鮮やかに繋がっており、完全にやられた。

こう書くと、大変文学的なお話なのだなぁという印象があるが、ワンシーンワンシーンは上質のコントを観ているよう。この辺の「抜き方」が巧妙かつ絶妙過ぎて舌を巻く。でも確かに、目の前で女がワンワン泣いたり大人がギャンギャン怒ったりしている最中に、変なCMが流れて来たり、チャック開いてたり部屋に貼ってある変なポスターに気づいたり、そうやって平成人の日常は流れているわけで、ある意味残酷なほどにリアル。この辺の観察眼も凄まじい。

観ていて、これは、平成版チェーホフなのではないか、とすら思う。知らない人のために解説すると、チェーホフは、「かもめ」だの「三人姉妹」だのを喜劇だ喜劇だっつって書いて、上演させて、で、確かに出てくる人物は滑稽だしドカンと笑いが起きるシーンがあったりするんだが、最終的にはどうしようもなく陰鬱で、人生の薄暗さを痛感するような芝居を書いたのだけれど、ハイバイ「て」はまさに平成版チェーホフではないか、と思う。たぶんこれ、何の前情報もなしに台本だけ新劇系の演出家とか高校演劇の顧問とかに読ませたら、とにかく静かで鬱々とした家庭悲劇として上演されていたんではないかしら。

岩井氏の書く本は、着眼点のくだらなさやユニークさ、観察力の鋭さ、発想のむちゃくちゃな飛躍とかにばかり気を取られていたが、今回のこの本は本当の意味で構成力のある本だと感じた。賢いんだなぁ。クイズとか得意なんだろうなぁ。とにかく、これは面白かった。今回こそはつまらないだろう、と思って観に行ったら、面白くってちくしょうって思った。次にも期待。