PLAYNOTE 篠井英介主演『欲望という名の電車』

2007年11月21日

篠井英介主演『欲望という名の電車』

[演劇レビュー] 2007/11/21 11:35

初演版を青山円形劇場で観たのを覚えている。2001年9月。もう六年も前なのか。確かその年のNo.1かNo.2にランクインした覚えがあるほど鮮烈な印象を残す、魂をガクガク揺さぶる芝居であった。

で、再々演版を観て来たのだが、間違いなく今年ナンバーワンの芝居であった。

今回は余りにも良く、感極まってスタオベしてしまった。演劇人生に残るであろう一夜。

テネシー・ウィリアムズの本の凄まじさに感嘆・感激。役者・篠井英介の確信の強さと愛に平伏す。はっきり言って篠井さんが段違いの良さを見せ付けていたが、それでも他の役者もきっちり自分の役に確信を持っており、いい。

あらためて脚本の良さを思い知る。すべての人物の相克が劇の随所でぶつかり合い、しかも人工的な感じがしない。展開には驚きすらあるが、流れるように自然。言葉は散文的でありながら時として超リリカル。台詞で描こうとせず、行動で描いている点が見事。ブランチが象徴するものとスタンリーが象徴するもの、二つの世界・二つの力が拮抗し切り結ぶ際に散る火花が美し過ぎる。感極まって全集を買ってしまった。日本語版は出てない模様なので、あきらめて原書を注文。二冊あわせて計2000ページくらいある。読めるかな。当分は無理だろうな。

Tennessee Williams: Plays 1937-1955 Tennessee Williams: Plays 1957-1980
Tennessee Williams: Plays 1937-1955 / 1957-1980

しかし今回の舞台は完全に役者の勝利であった。もちろん戯曲という背骨の確かさはきっちり感じたのだが、芝居を見ていて台詞を聴こうとか、台詞から情報を拾おうという意識が生まれなかった。ひたすら、そこにいる人間の動揺なり感情なりに興味が行く。その震えがダイレクトに伝わってくる。

プロセニアムな上演であったにも関わらず、人物がことごとく彫塑的で、そこに人がいる感覚が全く損なわれないのがすごい。篠井さんに至っては、一挙手一投足にブランチが乗り移っており、というよりも、脳味噌の中身から手足の先までブランチとしての動きが当然になっている感があり、演技の極地を観た気がする。昔、当代一の女形・玉三郎の舞いを見て、うなじがくっと曲がる瞬間、それだけで感動できたことがあったが、完成度や丹精さという点では届かないにしても、意志や意欲、存在感の確信できる点なんかはあの国宝級人物に肉薄していた。

言葉を費やすと作品を損なう感があるのでもう書かないが、最初にブランチが登場した瞬間と、スタンリーがひたすら妻の名を叫び続けるシーン、ラスト、そしてカーテンコールと四回も泣いてしまった。物語や情緒に感動したわけではない。俳優が、はっきりとそこに存在していること、その一点に感動したのだと思う。素晴らしい。万雷の拍手を一人だって送ってやる。