PLAYNOTE 山崎努『俳優のノート―凄烈な役作りの記録』

2007年08月09日

山崎努『俳優のノート―凄烈な役作りの記録』

[読書] 2007/08/09 14:42

人から借りて読み始めた。黒澤映画からテレビドラマ、さらには劇場でのシェイクスピア俳優としても有名な、山崎努氏の芸談である。芸談、というより日誌に近い。新国立劇場の柿落とし公演の一つとして準備された、鵜山仁演出『リア王』の準備と稽古と本番の記録である。

いつもの癖で、付箋を貼りながら読んでいったら、貼った付箋の総数が100枚以上になってしまった。2~3ページに一枚の割合である。演劇論としても面白いし、いかに俳優が熾烈な課題を己に課しているのか、いや、本物のプロフェッショナルはここまでやるのだ、ということが、無垢ながら流麗な文体で綴られている。すべての演出家と俳優に読んでもらいたい一冊。

山崎努氏というと、すさまじく長いキャリアを持った日本を代表する俳優の一人だから、言い方は悪いが保守的な人かと思っていた。しかし、いざ読んでみてその考えは一蹴される。なんて若々しく生命力に満ちた人だろう。敬服した。

この記事の冒頭に、「準備と稽古と本番の記録」と書いた。ただの稽古日誌ではない、稽古が始まる前の研究と準備が凄まじい。自分なりの解釈を深めに深め、毎日の発見をノートに書き止めていく。実に膨大な量だが、テキストにしっかり立脚した立論と明晰な文体のおかげで手に取るように内容がわかる。しかもその解釈が、最終的に松岡和子さんや河合祥一郎さんといった演劇学第一人者の人々の論と自然と符号してしまったりする。驚くべき独創性と思索の深さである。

体調や体重の管理はもちろん、稽古初日までに台詞は完全に入れる、でなければ稽古が無駄になる、と、二ヶ月間、自分で吹き込んだテープを聞きまくる。台本に変更がかかれば、その日のうちにすぐさま録音し直し、移動中はもちろん寿司屋で寿司を食ってる間も聞き続け、奥さんに怒られたりもしている(笑)。上演台本ができてから稽古が始まるまでの数ヶ月、自分が演じることになるリアのことしか考えていないように見えるが、実際その通りなのだろう。

実にいろいろなことが書かれているが、まず、役への取り組み方が書かれている。実に凄烈な、妥協のない取り組み方が。
次に、もっとグローバルに、演技というものの考え方が書かれている。演技に必要なものは何か、何が良い演技と言えるのか。
さらに、演劇とはどういうことかについても思索の輪は広がっていく。演劇は何故人を引き付けるのか、演劇と俳優の関係とは何か。演出家と俳優はどういう関係であるべきか。
それだけでなく、俳優という存在についても触れたりしている。心構えや理想だけでなく、生活や収入のことについても。

山崎氏ほどの経験と技術を持った俳優がこれほどの努力をしている。若い俳優、立つ瀬がないぞ。果たして技術も経験も知名度も全く歯が立たないベテランがこれほどやってる前で、恥ずかしくないだけの努力をしていると言えるか。
ここまでは俺にとって他人事の問題だが、氏の研究意欲、作品にかける情欲(情熱というよりもっと本能的な単語が相応しい)、さらに、おそらく長年のキャリアと勉強に裏打ちされた演劇学的な意味での知識・洞察の深さには、全くもって降参してしまった。演劇学の教授や翻訳家と話していてこういう打ちひしがれた感慨を抱くことはよくあるが、現場の俳優に対してこんな完敗感を味わったのは初めてだった。

あまり自分は本をベタ誉めしない、特に演劇関係の書物でベタ褒めすることが少ないと思うのだが、この本はとにかく素晴らしかった。ちょっと誉め過ぎで胡散臭いくらいかしら(笑)。借りものの本だったけど、新品を買って返して、付箋だらけのこの本は手元に置いておくことにした。俳優志望にも演出家志望にも等しく薦めたい一冊。

コメント

投稿者:search engine optimization vancouver (2012年01月13日 06:57)

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