PLAYNOTE 野田秀樹脚本・演出『THE BEE』

2007年07月20日

野田秀樹脚本・演出『THE BEE』

[演劇レビュー] 2007/07/20 23:56

昨年夏にロンドンで初演されえらい好評だったと聞く野田秀樹脚本・演出の四人芝居。もう結構前に観たんだけど今さら感想。

もう何度か書いた気がするけれど、野田秀樹を演劇におけるただのポップスと思っちゃいけない。日本においてフィジカル・シアターをまともにやってるのは野田秀樹くらいじゃないか? 現代口語演劇ばかり席捲して、こういう可能性をきっちり追及していく劇団がないのは悲しい。空間や見立て、イメージの使い方の上手さはやはり冴え渡っているし、今回に至っては翻案である脚本のキレが抜群。

タイトルにある『THE BEE』、「蜂」は、筒井康隆の原作にはない脚色らしいが、これがあるのとないのとでは出来が断然違って来る。文学的に見てもかなり高度なことをやっている。喩えて言うなら、優れた絵画作品で、画面の端にある何気ない花だとか、人物が持っているハンカチだとか、背景にある建物だとかで、ぶっちゃけあってもなくてもいいんだけど、いざそれをイレースしてみると作品が台無しになるものってあるでしょう。それを置くだけで主題がくっきり浮かび上がったり、コントラストや構図がぐっと締まったり、作品そのものに一段上の仕上がりを与えてくれる。「蜂」の提示によって、主人公・土井の性格はぐっとシャープに、人間臭く、そして恐ろしいものに変質したし、土井が見せる心情の変化も、「蜂」との対峙によってこの上なくビビッドに浮かび上がってくる。見事。あれがなければ、土井はただのステレオタイプなサイコパスに映っていたかもしれない。

舞台美術すげぇ。奥は透ける鏡みたいな。それがある瞬間、合わせ鏡みたいになって、延々と続く未来を視覚的にぐいぐいと見せ付けてくる。怖い。フィジカル・シアターな演出によって、まぁ展開の早さとかはどうでもいいんだよ、それよりもあの人間の想像力の首根っこを捕まえたような生々しいアピールが可能になって、追い詰められる、追い詰められる七十五分。背筋に鳥肌。

もともと野田秀樹って「ひかりごけ」から出発した人でしょう。すさまじく時代を嗅ぎ取る能力が敏感で、しかも頭もいいもんだから、これまで様々な作風をやってきたけど、この『THE BEE』、あと『赤鬼』なんかには、野田秀樹が元々持ってる、趣味の悪さとシニシズムと怒り、あるいは絶望、厭世観みたいなものが滲み出ていて、すごく好き。演出的にもレベルが高いだけで正統派。サイモン・マクバーニーとの類似性はもちろん、ある意味でメイエルホリド的な演劇を現代日本でやったらこうなる、みたいな位置にいるんじゃないかしら。

まだ五十そこそこでしょう、野田さん。あと少なくとも十五年は演劇界のトップランナーやるんだろうなぁ。先が楽しみ、と、まさか既に一時代を築いた人に書くとは思わなかったけど、本当にそう。もっとストイックで小さな演劇を作って欲しい。コクーンはたまにでいいよ。

コメント

投稿者:なお (2007年07月27日 01:17)

僕今日ロンドン版観てきたよ。招待で(にやり
いや・・頭ん中覗いてみたい人ナンバー3に確実に入るな。
日本版は主人公土井さんだったの?
ロンドンは井戸さんだったよ。
んな名前いねーだろって観てた。

投稿者:Kenichi Tani (2007年07月27日 01:49)

主人公の名は井戸の間違いだ(笑)。id、フロイトと関係あんのかなーと思いながら観てたのに、土井って。