PLAYNOTE 劇団ひとり『陰日向に咲く』

2007年05月14日

劇団ひとり『陰日向に咲く』

[読書] 2007/05/14 23:14

タレント本などすべて焚書にしてしまえ。ただしこの『陰日向に咲く』を除く。

劇団ひとりの処女小説。括りとしては完全に「タレント本」なのだが、短編小説集として突き抜けた個性とそこそこの完成度を持っており、見事という他ない。「彼の芸風には奥深いものがある」とお笑い芸人志望の友人に説かれて以来、劇団ひとりは気になっていたのだが、とにかく評判がいい小説だったので借りて読んだ。さくっと読めた、二時間弱。

内容(「MARC」データベースより)

お笑い芸人・劇団ひとり、衝撃の小説デビュー! 「道草」「拝啓、僕のアイドル様」「ピンボケな私」ほか全5篇を収録。落ちこぼれたちの哀しいまでの純真を、愛と笑いで包み込んだ珠玉の連作小説集。

劇団ひとりと言えば、一人きりで何十人もの役を演じ分ける…というのが持ち芸として有名だけれど、この小説ではそれを地でやっている。老若男女、様々な人物が主人公の五編の短編小説から成っているこの本だが、それぞれの主人公について口調から考え方まできちんとキャラクターが立っており、劇団ひとりがきちんきちんと一人一人の役に“憑依して”書いたんだなぁというのが伝わって来る。

それぞれの話も、若干構造として捻り過ぎ、と言うか、オチやギミックに凝り過ぎている感じが強いものの、実に良く出来ている。話の運び方がよくわかっていらっしゃる、素晴らしい。さすがお笑い芸人。下手に純文学気取った小説より、よっぽど一喜一憂できるし、ストレートに言葉が届く。

小説とは言え持ち前の笑いのセンス(ひとりのネタはちょっとブラックでかつキャッチーなのでとても好きだ)が存分に発揮されていて、本を読みながら声を出して笑うなんて久し振り、楽しい読書。しかもそれぞれお話としてはぐっと来たりきゅんと来たり、素直で暖かな人間愛が伝わって来て、良い。特に「over run」でのギャンブル中毒の中年男性と一人身の老婆の会話には涙を誘われた。マジで、マジで、俺、劇団ひとりの文章でほろりと来ているぞ!? と思いながら、じーんとしてしまった。最後の、あの、手紙のとこね。本、返さないと行けないから引用しとく。

健一さん、お金を用立てさせて頂きました。どうぞ、お使いください。
その代わりにと言っては何ですが、私からも一つお願いがございます。
これからもときどきで構いません。今までのように電話をください。
そして健一さんの話を聞かせてください。
子供の頃の話を聞かせてください。家族で行った旅行の話を聞かせてください。
眠れない夜、私は何の絵本を読んであげたのか教えてください。
遊んでばかりの貴方を私は何と言って怒ったのか教えてください。
運動会の日。受験の日。卒業の日。結婚の日。
その日の貴方に、その日の私が言った言葉を聞かせてください。
私は良い母親でしたか。私は貴方を幸せにできましたか。
聞かせてください。貴方と私が生きてきた話を聞かせてください。

全体的に、それ今後の芸能活動に支障ないの? っていうくらいセンチメンタルや純心を曝け出しており、かと言って(そこはエンターテイナーとしてのバランス感覚だろう)悦に入ったジメジメした話なんか一つもなく、娯楽小説として素晴らしい出来。

だが、文章の端々に滲み出る、純文学の芽みたいなものまで感じてしまう。これを是非伸ばして欲しい、見せて欲しい。自分とは何か、人間同士の絆とは何か、孤独とは何か、生きるとは、そういうものを劇団ひとりが少し冷淡に眺めている画が見えてくる。見えてくるのに、そこはするっとかわしてしまう。結果、上質の娯楽小説に仕上がっているのだが、時に鋭い文章があるだけに、もったいないなぁと思ってしまう。何か、そこに、「書かれたがっている何か」を感じてしまうのだ。

小説としては、前述の通り、構造的な趣向、どんでん返しの大落ちみたいなものに凝り過ぎている点や、人称がときどきブレたり、「over run」では博打打ちという設定がネタ披露用の前振りにしかなっていない点など、残念な点も散見されるが、いいのです、いいのです、欠点などいくらあってもいいのです。誰も上手い小説なんかよみたくない、こういう色濃い個性を持った、そして素直に楽しめる、そういうショート・ストーリーとの出会いを心待ちにしているのだから。

褒めちぎった感もあるけれど、本当に面白かったのです。ストーリーテラーとしての彼の才覚が充分に満喫できる一冊。おすすめ。

コメント

投稿者:ありぴー (2007年05月15日 09:12)

わたしは、たまに劇団ひとりに似てるって言われます

投稿者:Kenichi Tani (2007年05月15日 12:31)

あっ!確かに似てる!

ちなみに俺は一年に一回くらいインパルスのデブじゃない方に似てると言われます。

投稿者:ありぴー (2007年05月15日 12:53)

劇団ひとりに似てるってなかなか複雑です。
あと母親にはよく森三中の黒沢に似てるといわれます。

インパルスには髪型と細さが似てるかもしれない!

とりあえずなにもかも複雑な心境です。