2007年05月14日
よしもとばなな『デッドエンドの思い出』
以前『キッチン』と『白河夜船』だけ古本屋で買って読み、どちらも退屈して途中で放り出してしまった思い出のあるよしもとばなな。苦手だなぁ、という先入観しかなかったんだが、ある人にとても強く勧められたので、『デッドエンドの思い出』を読んでみた。
内容(「BOOK」データベースより)
つらくて、どれほど切なくても、幸せはふいに訪れる。かけがえのない祝福の瞬間を鮮やかに描き、心の中の宝物を蘇らせてくれる珠玉の短篇集。
二十代の女性を主人公にした短編が五つ。
- 幽霊の家
- 「おかあさーん!」
- あったかくなんかない
- ともちゃんの幸せ
- デッドエンドの思い出
いやいや。面白かった。というか、驚いた。
冒頭はどれもふわふわとした暖かな文体。思わずうっとり眠くなってしまうような、穏やかな語り口で身の上話や風景の印象を語る一人称。その口調そのままで、いきなり限りなくどぎつい過去をさらりと言ってのける。例えば、レイプ、家庭内暴力、不倫、浮気、毒物混入。…春、日なた、子供が遊ぶあたたかい公園、そこにふと突然マグリットの絵にでも出てきそうな異物がごろんと登場し、だがそれも同じく優しい口調と視点でしずしずと描写していくような、そんなさらりとしたグロテスクの登場。やられた、と思った。
凄惨な過去そのものを描くんではなくて、それを経過した人間が日常を送る際に気が付いてしまうほんの些細なひずみ、違和感、そういうのを実に丁寧に描いている。ある体験を経ると、人間にとって、世界は確実に変質してしまう。かと言って、それまで普通のOLだった女性が突然サルトルやベケットのような口調になってしまう、なんてことはないわけで、普通のOL目線で世界の破綻や不条理を淡々と「ああ、こうなんだなぁ」「でも、いいかなぁ」と眺めてたりする。ちょっと読んだことのないテイストで、ぞくっとする瞬間が少なからずあった。
文章は、とっても丸文字な感じで、柔らか過ぎて自分には読みづらいくらいなのだが、時々現れるボキャブラリーの鋭さ、豊かさから、何と言うか、世界の苛烈さを体験した後に一度日常に戻ってきた、ような、作者の文学的蓄積を感じさせる。当たってるかどうかは知らない。知らないが、これほどの文章を書いておいて、「実は本とかあまり読まないんですー」とかいうことはない。その、真っ暗で寒い風景を見た後に、きちんと南向きの陽が差す部屋に戻って来た、って感じに敬服してしまう。
Wikipediaによると、こういう執筆の背景があったらしい。
今までで一番うまく書けたと本人が評する本は2003年発表の『デッドエンドの思い出』。妊娠中に書いた本であり、出産し子供ができるともう悲惨な話は書けなくなるよと人に言われ、今のうちに悲惨な事や辛い事などを清算しようと考えて書いたという。妊娠中に悲惨な話を書くことは辛かったが「もう書けなくなるかもしれない」という思いの方がが強かったと述懐している。
本人は「悲惨」と書いているけれど、悲惨な話じゃないですよ。悲惨な体験を、きっちり清算し、咀嚼し、飲み込んだ人たち(あるいは、そうしようとしている最中の人たち)のお話なのです。
よしもとばななを見直しました。本棚に眠っている本を読み返してみようと思います。
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投稿者:ハマカワ (2007年05月18日 13:30)
これ、前読みましたよー。
しかし、あたしには劇薬でした。
20代の女子が読むとクルのでしょうね。。。
投稿者:Kenichi Tani (2007年05月19日 02:27)
おお、そうか。なおちゃんも読んだと言っていたな。
劇薬でしたか。今度ケッチャムを貸すよ。どえら面白いよ。
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