PLAYNOTE 夜道(子狐)(メモ)

2007年05月01日

夜道(子狐)(メモ)

[雑記・メモ] 2007/05/01 02:09

あ。

暗い夜道を抜けながら、遠くに金属と金属のぶつかりあう音が聴こえる。腕の中ではもう子狐が冷たくなり始めている。紫色の瞳をしたあの父狐の顔を私たちはまだよく覚えているはずだ。彼の行いがあまりに狡猾にして無慈悲であったがために、この子狐は、森の近所の仲間たちに腹を割かれて今冷たくなり始めているのだ。銀色の毛に覆われた柔らかいお腹から、真っ赤な腸がこぼれている。

歩みの速度を緩めてはならない。ほんの数十メートル後ろに足音が聞こえる、今もまだ。灰色にくたびれた体を引き摺りながら、ぴったりと距離を変えずに追い掛けてくる自分自身に道を譲った瞬間、この子狐の肉体は、アイスキャンディーみたいにカチカチに凍り付いてしまうだろう。

ねじれ杉の角を曲がったところでらくだの靴磨き屋に出会う。ぴかぴかのエナメルジャケットの襟を立てて、得意そうに口笛を吹いている。
「ほら、天気が崩れるのがわかるよ。その荷物を預かろうか?」
「砂漠の向こうに旅に出たのではなかったかね?」
「何、靴を磨いてからでも遅くない。なによりこの仕事は、みんなが思っているより自由だし、儲かるからね」
後ろから足音が近づいてくる。うっかり足止めを食ってしまった。らくだは、手に入れてはならないものを手に入れて、エナメルジャケットの口笛に、すっかり脳を食われてしまったらしい。

泥水に濡れた靴の重みが気になりだした。こんな、惨めったらしいずぶ濡れの小さな狐をどこまで運んで行けばいいのか? また足音が近づいて来た。いけない、いけない、振り返ってはいけない。やりたいからやっているわけではない、やらなければならないからやっている。子狐がいつ目を覚ますのかはわからないが、僕がエメラルドになるためには、これでいい。

川には水が溢れ、家がまるごと濁流に流されている。犬が鎖に繋がれていた。水色にペイントされた冷蔵庫の置かれたゴミ捨て場を通り抜けた。キノコだらけの森を抜け、真っ白い壁の教会を見た。臆病者のヤマアラシが営む蕎麦屋を通り過ぎ、青とピンクにきらめく湖で行水をする人魚を見た。満員電車で瞳を落としてしまった若い鹿を追い抜いた。足音はまだ消えない。子狐の傷はどんどん深くなり、身体はどんどん冷たくなるが、たまにぱちりと一瞬開くその目に僕は釘付けになる。まだ生きている以上、らくだや熊やテナガザルに渡してしまうわけにはいかないのだ。

あ。